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オペラを楽しむ

『ドン・カルロ』出演歌手の素顔 『ドン・カルロ』はスペインの宮廷を舞台にした、ヴェルディ作の壮大なオペラです。なかでも主人公のカルロ王子の父、フィリッポⅡ世役のバスが歌うアリアは印象的です。今回はダブルキャストでこの役を演じる妻屋秀和とジョン ハオが持つ、舞台とは違う顔をご紹介します。

フィリッポⅡ世役を演じる ソプラノ 妻屋秀和 2023年9月30日(土曜日)、10月7日(土曜日)、14日(土曜日)出演

稽古にはたいてい自転車で向かいます。自宅から駅まで歩き、駅から稽古場まで歩くことを考えると、自転車のほうがずっと便利なんです。今日、ここまで来るのだって公共交通機関を使ったら45分くらいかかるけど、自転車なら25 分で到着。稽古したあと、もうひとふんばりして家まで自転車をこぎ、シャワーを浴びてビールを飲むのが最高です!

愛車はアメリカのTrek(トレック)社のものです。ストレートハンドルでサドル、ペダル、ギアは疲れにくいようにカスタマイズしました。荒川や多摩川の土手とかは特急列車のように走れて気持ちいいのでお勧めですよ。反対に山手線内では乗りたくない。たとえば、途中が坂だらけの日生劇場とかは無理です。行きが下り坂ばかりだから帰りがいやになっちゃう。東京文化会館は山手線内だけど例外です。根津の上り坂だけをクリアすれば、帰りは下り坂なのでご機嫌です。

稽古場まではもっぱら自転車通勤。
こいでこいで帰宅し、ビールを飲むのが最高です

自転車にのめり込んだきっかけは震災でした。公共交通機関が動かないと買物にも行けないことを実感し、ママチャリ的な自転車を購入。でも当時は自転車より、歩くのが楽しくて山歩きが大好きでした。ただヘルニアが悪化して歩くことができなくなり、医者から「運動するなら水泳か自転車」と言われ、泳いで通勤はできないから自転車になった訳です。東京二期会には自転車仲間もちょこちょこいて、飲みに行っては「ペダルは踏む派、蹴る派どっち?」なんて話で盛り上がる。いやあもっと話したい。自転車特集しませんか?(笑)

あと最近、目覚めたのが料理です。うちにはありとあらゆる酒があってツマミを作るのが楽しい。きっかけは動画サイトで見た味付け卵でした。今、イチ押しのレシピを教えましょうか? ネギを3~4cm の長さに切って細かい切り目を入れ、バターで飴色になるまで炒める。胡麻油、唐辛子、めんつゆを混ぜたタレに一晩漬け込みます。お酒に合いますよ!

さて『ドン・カルロ』です。今回は気心の知れた指揮者のアンドレア※と、これまでとは違う演目でご一緒するので、どんな音楽を作っていけるか、今から楽しみです。

※…本記事公開以降、諸般の事情により指揮者がレオナルド・シーニに変更になっております。

つまや ひでかず ・ 東京藝術大学首席卒業、同大学院修了。ミラノ留学後、ライプツィヒ歌劇場及びワイマールドイツ国民劇場専属歌手を務める一方、ベルリン・ドイツ・オペラ等、欧州で活躍。国内でも新国立劇場、東京二期会等で多くの役を演じ、これまで1,000超のオペラに出演。宗教曲等のソロでも活躍の他、教育活動にも従事。第72回芸術選奨文部科学大臣賞。二期会会員

ティムール役を演じる バス ジョン ハオ 2023年10月8日(日曜日)、13日(金曜日)、15日(日曜日)出演

僕は中国・瀋陽という東北部の出身です。父はエンジニアだったのですが、音楽好きだった影響で僕も歌が大好きになり、児童合唱団で歌うようになりました。高校1年のときに父から「将来は何をしたい?」と聞かれ、「歌の勉強をしたい」というと、音楽学校に行けるよう後押しをしてくれました。

さっそく音楽大学を目指すために、瀋陽の音楽学院に相談しに行くと、院長のおじさんが僕の喉を触って言ったんです。「柔らかいね。まだレッスンには早いかな」と。翌年、高校2 年になると、「もう大丈夫」とお墨付きをもらい、レッスンを始めるのですが、そのおじさんに「将来はいいバスになれるよ」と言われ、「テノールじゃないのか~」とちょっとガッカリしたことを覚えています(笑)。もちろん、今ではバスにとことん魅力を感じていますし、大先輩に「バスの低い声は一番下でベースを支える。だから第二の指揮者と考えるといい」と言われて誇りを持つようになりました。

歌手でありながらマルチアーティスト。
絵も写真もプロ並みで、いずれは家の設計もしたい!

芸術はなんでも好きで絵も描くし、写真も撮ります。日中写真協会の会員なんですよ。カメラを持っていると、いつも通る道も違う風景に見えてきます。携帯でも撮りますよ。これは江の島に行ったときに撮りました(と、富士山をバックにサーファーが水しぶきをあげる決定的瞬間をとらえた写真を見せる)。絵は人物画を鉛筆で描くことが多いです。お世話になった方にプレゼントするんです。絵を描いていると何も聞こえなくなるから、子どもたちから叱られます(笑)。歌手になっていなかったら、建築家になりたかったなぁ。今の夢は自分でデザインした家を建てること。狭い廊下を歩いていくと、突然、広い居間が広がる、そんな迷宮のような家を建てたいです。そして、自分で焼いた陶器などを飾る…あ、陶芸もやってみたいことのひとつでした!

今年は『ドン・カルロ』のフィリッポII世を約10年ぶりに演じます。あのときはまだ30代。この10年で芝居も音楽も深められたと思います。オペラは声だけを聞かせるものではない、今ある感情を伝えるもの、そんな思いで挑みます。

じょん はお ・ 中国中央音楽学院卒業、東京藝術大学大学院修了。第38回イタリア声楽コンコルソシエナ部門シエナ大賞(第1位)。東京二期会での『ナブッコ』ザッカーリア、『マクベス』バンコー、『ドン・カルロ』フィリッポII世、『リゴレット』スパラフチーレの他、グランドオペラ共同制作『アイーダ』国王、『トゥーランドット』ティムール等も演じる。二期会会員