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オペラを楽しむ

『蝶々夫人』出演歌手の素顔 日本を舞台にした悲恋といえば、世界的に有名なこのオペラ。2024年、宮本亞門氏の演出で再び上演されることになりました。主役はフレッシュな顔ぶれ。お話を通じて、2人の素顔をのぞくことができました。

蝶々夫人役を演じる ソプラノ髙橋絵理 2024年7月19日(金)、21日(日)出演

小学4年生のとき、合唱に出会いました。「これだ!」と自分が開放されたあの感覚を今でも覚えています。そして中学2年生、オペラ歌手の歌声を聞く機会がありました。あまりに衝撃過ぎて、何の曲だったのかは記憶にないんです。とにかく、「見つけた‼」という歓喜の気持ちでいっぱいだったように思います。オペラに目覚めたのは、『ラ・ボエーム』を観た大学時代でした。その時は号泣するほど感動しました。

私にとってのオペラの魅力は、稽古をしながら一曲一曲、作り上げていくところにあります。コロナ禍でパンやケーキ作りを楽しむようになったのですが、生地を作って、発酵させて、焼き上げ、ときには実験するように工夫も必要ですよね。何かを形にしていくことが好きな性質なのかもしれません。

ミミ役のときは食が細くなってしまうし、
トスカ役のときは肉食になったり(笑)

ときどき役に入り込み過ぎることがあるので、気をつけています。たとえば、『ラ・ボエーム』で病弱なミミを演じるときは、なんだか自分も食が細くなってしまったり、人を殺めるシーンがある『トスカ』を演じていると、なぜかお肉を食べがちになったり…(笑)。役作りは必要ですが、稽古を終えてアドレナリン全開のままでは夜も眠れなくなってしまうことも。ですから、お稽古が終わったら楽譜は見ない!
できるだけ普通の生活を保つようにしています。

気分転換というか、自分メンテナンスで最近、気に入っているのが酵素風呂です。立ちっぱなしで歌い続けていると、思ったより首、肩、背中がコリコリになって片頭痛までしてくるときもあります。ぬか100%の中に体を横たえると、最初はポカポカと心地よいものの、5分を過ぎるとどんどん熱くなり、15分ほどの“入浴”を済ませると、マラソンを走ったのかというくらい汗が出ます。これが爽快なんです。出てしばらくは二次発汗が続いて、個人的にはサウナよりすっきりします。
おすすめです!

次に演じるのは15歳の少女。崇高な思いを胸に秘めた強さと、耐える日々の合間に見せる無邪気な姿のギャップがせつなくて、涙を誘います。日本の魂のような部分を大切にお稽古に励みます。

たかはし えり ・ 国立音楽大学卒業、同大学院、二期会オペラ研修所及び新国立劇場オペラ研修所修了。第6回静岡国際オペラコンクール第3位及びオーディエンス賞。五島記念文化賞オペラ部門新人賞によりボローニャにて研鑽。近年東京二期会では『ファルスタッフ』アリーチェ、『エドガール』フィデーリア等の他、宮本亞門演出『フィガロの結婚』伯爵夫人も演じた。二期会会員

ピンカートン役を演じる バリトン 古橋郷平 2024年7月19日(金)、21日(日)出演

運動が好きだったので、進路を決めるときに、体育か音楽か、迷いました。音楽の先生に相談すると、「大学名ではなく、自分に合った先生に付くのが一番」と、長年の師匠となる高丈二先生がいらっしゃる沖縄県立芸術大学に入学しました。

僕は本当に人との出会いに恵まれた人生で、大学では故・祖堅方正先生にもかわいがってもらいました。卒業生の活動の場として琉球交響楽団を設立した方です。先生は「人のために何かをする」ということを身をもって教えてくれました。

もしかしたら体育の先生になっていたかも…
歌手になれたのは人との出会いに恵まれたから

イタリア留学では価値観が変わりましたね。いろいろな人がいるし、「人間とはどうあるべきか」も考えさせられたし、生まれながらに悪い奴はいないと思っていたけど、やっぱりいることもわかりました(笑)。もっと世界を見たいと思うようになりました。

だから、またイタリアに戻るために帰国後は資金稼ぎに、建築現場で働くことにしました。演奏活動に合わせて働きたかったということと、「腰に道具袋を下げた姿がカッコいい」という単純な理由もあったのですが、日雇いの現場では取り繕ったりせず、アホな話でも盛り上がれて楽しかった!履歴書には「オペラ歌手」と書いていて、オペラ歌手として舐められたくなかったので、大きな声で挨拶をし、人の倍働いて、人の嫌がる仕事も率先してやるようにしました。

人に恵まれた話に戻りますが、小4のときの担任の先生も僕の人生で忘れられない出会いです。中米から帰国したばかりだった先生は自分の意見をしっかり言う、その時代には珍しいタイプ。「結婚してください!」とラブレターを送ったほどです。

20年後、その先生が僕の演奏会の楽屋を訪ねてくれました。小学生当時に書いた「12年後の夢」という作文を持って。何を書いていたのかは覚えていませんでしたが、作文をちゃんと持っていてくれて、直接返しに来てくれるような先生のもとで学べたことも感謝でしたし、何よりその作文を見て驚きました。「オペラ歌手になる」と書いてあったんです。

今回はピンカートンという、この役もいただけました。しっかりと良き準備をして舞台に臨みます。

こはし ごうへい ・ 沖縄県立芸術大学卒業、同大学院修了。ボローニャ国立音楽院留学後、同市立歌劇場でオペラデビュー。トスティ歌曲国際コンクールアジア予選優勝、イタリア本選第3位、聴衆賞。フランス大使公邸での元サッカー日本代表監督トルシエ氏叙勲式でフランス国歌独唱。東京二期会では『チャールダーシュの女王』『リゴレット』主演の他、2017年も当役で出演。二期会会員