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オペラを楽しむ

めくるめく装いに酔う正統派舞台 衣裳で楽しむ オペラ『椿姫』

パリのドゥミ・モンドで繰り広げられる、美しく悲しい愛の物語『椿姫』が2023年7月に上演されます。宝塚歌劇団所属の演出家、原田諒さんにより2020年2月プレミエで約10年ぶりに新演出となった『椿姫』は、「原点回帰」「王道オペラ」とも評された絢爛豪華な舞台。衣裳を担当した前田文子さんは「演出家、原田さんから、とにかくクラシカルな衣裳を、とのことで、最近のオペラではなかなかオーダーされないので初めは戸惑いましたが、1860年代のパリの社交界をイメージし、時代考証を踏まえつつ、主役のヴィオレッタの置かれた環境や心の機微を衣裳に込めました」と語ります。”これぞオペラ!”ともいうべき舞台を、衣裳とともにお楽しみください。

『椿姫』の主役・ヴィオレッタの衣裳

  • Ayako’s Point

    [2幕2場]

    「誰よりも深い黒いドレスは彼女の心を映す暗い闇」

    失意のまま社交界に復帰するヴィオレッタのドレスは、そのシーンに登場する他の誰よりも深い漆黒の色香漂うドレス。晴れやかな白でもなく、華やかな赤でもなく。その黒は、愛を諦めた、悲しい女心をも感じさせます。

  • Ayako’s Point

    [2幕1場]

    「社交界を離れ、郊外での穏やかな生活を衣裳にも」

    半ば隠遁生活とも言える暮らしを衣裳で想起させるため、襟はしっかりと隠し、優しく静かな印象に。自然豊かな郊外に合わせて素材もリネンなどナチュラルなものを多用しています。色も真っ白というよりやや生成りに。

  • Ayako’s Point

    [1幕]

    「社交界に咲く白い椿をイメージ」

    ハートシェイプのデコルテを広く取り、19世紀のサロンを象徴するような、裾が大きく広がったクリノリンスタイルのドレス。素材も肉厚のシルクサテンを使用し、白椿の清らかかつ、花びらの肉厚な感じをイメージ。

パリ社交界に咲いた一輪の椿

当代随一と言われる高級娼婦ヴィオレッタの館で開かれた宴で、貴族の青年アルフレードは美しいヴィオレッタに恋をしてしまう。ヴィオレッタもはじめはアルフレードの純粋な愛にとまどうが、一途な気持ちに胸を打たれ、徐々に心を溶かしていく。

その後ヴィオレッタは華やかな社交界の暮らしを捨て、アルフレードとともに幸福な日々を過ごしていた。ある時、ヴィオレッタのもとに厳格なアルフレードの父、ジェルモンが訪ねてくる。「息子が破滅に向かっている」「娘の縁談が破談になりそうだ」などと言って息子アルフレードと別れるように迫る。ヴィオレッタは真実の愛を訴えるが、結局事実を話さず、別れを決意し置き手紙を残し、去っていく。事情を知らないアルフレードは、彼女に裏切られたと思い怒り絶望する。

その後パリの社交界に復帰するヴィオレッタ。誤解が解けぬままアルフレードと再会する。その数ヶ月後、病魔に冒されていたヴィオレッタは、病の床に伏せていた。すべての誤解が解け、パリを離れ一緒に暮らすことを約束するが、すでにヴィオレッタの命の灯は消えかけていた。

息子との別れを迫りに行く、アルフレードの父・ジェルモンの衣裳はチャコールグレーのテールコート。冷たい印象や堅実できっちりとした性格を感じさせる中年男性を表現。

2人の出会いのシーンでは、アルフレードはミッドナイトブルーの燕尾服。他の女性は赤の椿をイメージした肉厚のシルクサテンのドレスで華やぎを添えて。

高級娼婦でヴィオレッタの友人、フローラの衣裳は、華やかながら渋い色調で小意気な印象に。社交界やサロンに頻繁に出入りするこなれた感じをドレスに込めて。ヴィオレッタと対照的なイメージ。

劇中のダンサーたちの衣裳にも注目。中近東をモチーフに黒と金の世界を表現。エキゾチックで大人の舞台を繰り広げる旅芸人一座や、「ムーラン・ルージュ」や「クレイジー・ホース」の舞台のダンサーをイメージしたそう。

前田文子
Ayako Maeda

まえだ あやこ・衣裳デザインを緒方規矩子氏に師事。1998年度の文化庁在外研修員として渡英。帰国後、バレエやミュージカルなどさまざまなジャンルの舞台衣裳を手掛ける。オペラでは宮本亞門演出『フィガロの結婚』、栗山民也演出『蝶々夫人』『リア』、岩田逹宗演出『ラ・ボエーム』などの舞台衣裳を創作。伊藤熹朔(きさく)賞、読売演劇大賞優秀スタッフ賞、橘秋子賞クリエイティブスタッフ賞、紀伊国屋演劇賞個人賞などを受賞。

ヴェルディ 『椿姫』

オペラ全3幕 日本語字幕付原語(イタリア語)上演
指揮:アレクサンダー・ソディー 演出:原田諒(宝塚歌劇団)
合唱:二期会合唱団 管弦楽:読売日本交響楽団
東京文化会館 大ホール

2023年7月 13日(木)18:30、15日(土)14:00
16日(日)14:00、17日(月・祝)14:00