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オペラを楽しむ

数々の名作オペラの原作者 シラーが手がけたヴェルディのオペラ「ドン・カルロ」

東京二期会では、7月の『椿姫』に続いて10月の『ドン・カルロ』とヴェルディ作品が続きます。『ドン・カルロ』はヴェルディの中期の傑作として知られており、ドン・カルロやその父、国王のフィリッポII世は実在した人物で、エリザベッタがカルロではなく、国王に嫁いだことも史実です。そうした真実に基づいたストーリーもまた、このグランドオペラの魅力と言えるでしょう。

その原作となったのは、フリードリヒ・フォン・シラーの戯曲『ドン・カルロス』です。フリードリヒ・フォン・シラー(1759年- 1805年)は、詩人、劇作家、思想家、歴史学者でゲーテと並ぶドイツ古典主義の代表として知られています。

シラー原作による、ヴェルディ円熟期の傑作『ドン・カルロ』。ロッテ・デ・ベア演出、シュトゥットガルト州立歌劇場公演より。
ⓒ Matthias Baus

多くのオペラの原作に

オペラの原作となった作品も多く、この『ドン・カルロ』(原作では『ドン・カルロス』)をはじめ、1781年に発表した処女作『群盗』、ジャンヌ・ダルクを題材にした『オルレアンの処女』(1801年)、シューマンの序曲などにもその名が冠され、戯曲に合唱を取り入れた『メッシーナの花嫁』(1803年)、そして誰もが知るスイス独立運動を題材にした『ヴィルヘルム・テル』(1804年)など、枚挙にいとまがありません。また、劇作家だけではなく、詩人としての顔ももち、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」の原詞の作者としてもよく知られています。この詩は今も精緻かつ、優美なドイツ詩の手本として、ドイツ国民に愛されているそうです。

オペラ『ドン・カルロ』ではシラーの原作とだいぶ異なる場面もあります。原作とオペラを比べながら鑑賞することも作品を楽しむひとつの方法かもしれません。

スペイン宮廷を舞台に描かれる 壮大な歴史ドラマ

スペインの王子ドン・カルロの許嫁、フランスの王女エリザベッタは、政略結婚によってカルロの父であるフィリッポII世に王妃として迎えられる。絶望するカルロに対し、親友ロドリーゴは「圧政に苦しむ民を救うために立ち上がろう」と彼を奮い立たせる。しかし、カルロは血気あまり王に向かって剣を抜いてしまった罪で捕まってしまう。

一方、カルロを慕うエボリ公女は、思いがけない出来事からカルロの本心を知ってしまい、エリザベッタへの嫉妬を燃えあがらせ、彼女を陥れる。さらに、カルロを救おうとしたロドリーゴは宗教裁判長の刺客により殺害される。ロドリーゴの身代わりによって解放されたカルロは、フランドルへ向かう前にエリザベッタに別れを告げる。そこへ国王と宗教裁判長が現れ、2人を逮捕しようとするが、前王カルロV世の霊声が響き渡り、カルロは前王の霊廟に引き込まれていく。

  • シラー処女作による、ヴェルディ11作目のオペラ『郡盗』より。自由への願望、権力への反抗を表現した作品です。
    写真提供:びわ湖ホール

  • ジャンヌ・ダルクを描いた、チャイコフスキー作曲『オルレアンの処女』。演出は、『ドン・カルロ』と同じくロッテ・デ・ベア。
    Die Jungfrau von Orleans, Theater an der Wien 2019. Foto Werner Kmetitsch

  • 詩人としても知られるシラーの詩はベートーヴェン「第九」の「歓喜の歌」に。2022年12月の新日本フィル、二期会合唱団の舞台より。
    ⓒ堀田力丸

  • シラー作品は現代劇でもよく上演されます。『ドン・カルロス』は東京二期会でもおなじみの深作健太さんが演出。
    撮影:阿部章仁

フリードリヒ・フォン・シラー

Friedrich von Schiller

1759年11月10日ー1805年5月9日

ドイツの詩人、歴史学者、劇作家、思想家。ゲーテと並ぶドイツ古典主義の代表者であり、ドイツの詩・小説・劇作・評論など多方面で活躍した文学者。青年時代には肉体的自由を、晩年には精神的自由をテーマとし、作品は総じて不屈の精神で理想を求めることがテーマとなっている。オペラ作品の題材になった戯曲は『ドン・カルロス』『群盗』『ヴィルヘルム・テル』『メアリー・ステュアート』『ヴァレンシュタイン』『オルレアンの処女』など数多い。

東京二期会オペラ劇場
ヴェルディ『ドン・カルロ』

オペラ全5幕 日本語字幕付原語(イタリア語)上演
指揮:レオナルド・シーニ※
演出:ロッテ・デ・ベア 合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
東京文化会館 大ホール

2023年10月 13日(金)18:00、14日(土)14:00
15日(日)14:00

※…当初発表の指揮者から変更になっております。