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オペラを楽しむ

ダンサー・振付家・演出家  オペラを創る匠たち 中村 蓉さん ©Shinichiro Saigo

昨年の東京二期会スペシャル・ガラ・コンサートでは、森谷真理とのコラボレーションで『ルル』の主人公の心象をダンスで表現した中村蓉さん。彼女の身体全体から伝わってくるヒリヒリした切実さに心揺さぶられた方も多いのでは。主にダンサー・振付家として国内外で活躍している彼女の活動についてご紹介したい。

 中村蓉さんは学生時代にコンテンポラリーダンスを始め、小野寺修二さん、近藤良平さん、故・室伏鴻さんなど、様々な個性を持つアーティストの作品に出演し、アシスタントを務めた経験を持つ。2010年からは自身の作品を発表。2013年にソロ『別れの詩』で「横浜ダンスコレクションEX 2013」審査員賞・シビウ国際演劇祭賞などを受賞。以後、海外でも精力的に公演やワークショップを行っているほか、2014年にはナショナル・シアター・ウェールズでのレジデンス企画に参加するなど研鑽を積んできた。

 中村さんは、松本清張の推理小説や向田邦子脚本の名作ドラマ『阿修羅のごとく』をモチーフにするなど、SNSやスマホのなかった時代の濃厚な空気感を取り入れることが多く、演技や笑い、小物遣いも巧みで、観客を飽きさせない。ダンスは表現力豊かで雄弁。そして何より、人間の内面に潜む闇の部分に迫るなど、様々なシーンを心に残るひとつの作品としてまとめ上げるセンスが秀逸だ。

 昨年は4月に予定していた長編ソロ公演がコロナ禍で中止に。しかし「今生まれた踊り・エネルギーをどうしても届けたい」との思いから、長回し一発撮りのダンス映像の無料オンライン配信に踏み切った。「『ジゼル』特別30分版」はバレエの名作をモチーフに、恋人に裏切られたショックで息を引き取ったジゼルの愛と真実を描いた作品だ。ウィリ(霊)のミルタが場末のクラブのママ(しかも牛!)として登場。ほろ酔いで友人ジゼルを語るというお楽しみも盛り込みつつ、一軒家を丸ごと使って演じ切り、踊り切り、劇場に行けないファンを喜ばせた。

 不測の事態にあっても決して諦めない舞台人としての矜持を見せた彼女。初のオペラ演出となる『セルセ』では、どんな舞台を見せてくれるのか。期待は高まるばかりだ。

中村 蓉(なかむら よう)

早稲田大学在学時コンテンポラリーダンスを始め、国内外で作品を上演。ロックバンドsumikaのMV、『ニクソン・イン・チャイナ』(バイエルン放送年間最優秀作品10選出)等幅広く振付。郷ひろみやアブリル・ラヴィーンMVでダンサーを務める。「歌謡曲スイッチ」と題し、昭和歌謡の歌詞の主人公になり切って踊るワークショップを各地で展開中。東京二期会では2015年『ジューリオ・チェーザレ』で振付、『セルセ』で演出家デビュー、『ルル』では振付兼ダンサーを務める予定。

二期会ニューウェーブ・オペラ劇場 ヘンデル 『セルセ』

オペラ全3幕
日本語字幕付原語(イタリア語)上演
指揮:鈴木秀美
演出:中村 蓉
合唱:二期会合唱団
管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ
めぐろパーシモンホール 大ホール
2021年5月
22日(土)17:00
23日(日)14:00

東京二期会オペラ劇場ベルク『ルル』

オペラ全2幕
日本語及び英語字幕付原語(ドイツ語)上演
指揮:マキシム・パスカル
演出:カロリーネ・グルーバー
振付・ソロダンサー:中村 蓉
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
新宿文化センター 大ホール
2021年8月
28日(土)17:00
29日(日)14:00
31日(火)14:00