TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

『タンホイザー』キャストインタビュー

竹多 倫子・大沼 徹

『タンホイザー』出演歌手の素顔

主人公・タンホイザーの親友ヴォルフラムを演じるバリトンの実力者、大沼徹と、タンホイザーを慕う姫エリーザベト役でイタリアから逆輸入でのデビューを飾る歌姫、竹多倫子。今回は注目の二人のインタビューをお届けします。

撮影:佐藤 久 取材・文:田中庸子 
撮影協力:鳩森八幡神社、ひつじのショーンビレッジショップ&カフェ

子どもが大きくなったら、こんなカフェで一緒に過ごしたいそう。

エリーザベト役を演じる
ソプラノ竹多 倫子
2021年2月18日(木)、21日(日)出演

「愛が深ければ深いほど
その役に魅力を感じます」

─ イタリアでの『蝶々夫人』が絶賛されたソプラノ竹多倫子が、待望の二期会デビュー。「深い愛情が込められた曲が好き」という彼女は、周囲を包み込むような朗らかで温かな癒しの空気を纏った歌姫だ。

 私はイタリアオペラを歌うことが多いのですが、『タンホイザー』のエリーザベトは私にとって特別な役なんです。彼女の「歌の殿堂のアリア」は、色んなコンクールやオーディションでいつも私を後押ししてくれた大切な曲なので、いつか全幕をやれたらと。今回のオーディションは格別の思い入れがあり、うまく歌えたか心配で一週間もふさぎ込んでしまったほど(笑)。(エリーザベト役で二期会デビューを果たせて)とにかくうれしいのひと言です。さらに努力を重ねて本番に臨みます。
 (エリーザベトはタンホイザーのために犠牲になりますが)私は結構、献身的な役が好きなんですよね。愛が深ければ深いほどその役を愛せるというか。『トゥーランドット』の女奴隷のリュー役とか、『蝶々夫人』の最後のアリア「さよなら坊や」なども、蝶々夫人の息子への計り知れない愛情が込められていて大好きですね。
 もともと歌手になりたいと思ったのは、音楽を通して「きらきらワクワクした空間を共有したい」という思いから。(研修していた)イタリアでは、クラシックの大歌手のコンサートでも「この曲、大好き!」って小さい声で一緒に歌っている観客もいるし、スカラ座の子ども向けオペラでもみんな大爆笑したりして、伸び伸び楽しんでいる。今年から地域創造のアウトリーチ活動で学校などを訪問していくので、私ももっとフラットに音楽を楽しめる空間づくりができたらなと思っています。(談)

研修先のミラノにて。
街の象徴ドゥオーモが見えるカフェでのひとコマ。

竹多 倫子(たけだ みちこ) ソプラノ

愛知県立芸術大学卒業。東京藝術大学大学院修了。日本音楽コンクール声楽部門(オペラアリア)第1位。オルヴィエート国際声楽コンクールにて『蝶々夫人』題名役で優勝。文化庁新進芸術家海 外研修制度及び五島記念文化賞オペラ部門新人賞により渡伊、マンチネッリ歌劇場『蝶々夫人』題名役でイタリアでのオペラデビューを果たす。近年国内では日生劇場『ルサルカ』題名役を演じた。二期会会員

二期会会館に近い鳩森八幡神社に公演の成功を願って。

ヴォルフラム役を演じる
バリトン大沼 徹
2021年2月17日(水)、20日(土)出演

「自ら役をつかみに行くより
つながっているご縁を大切にしたい」

─ 毎晩晩酌を欠かさず本番前にも子どもの送り迎えをこなす、素顔の大沼徹は大らかで自然体。これまで舞台で数々の大役を演じてきた彼だが、歌手としてもやはり自然体がキーワードのようだ。

 『オテロ』のイアーゴみたいな悪い役は演じていて楽しいですね。でも僕はもともと自分から役を獲りに行くタイプじゃないんです。「やりたい!」と思って頑張るとだいたい叶わない(笑)。来た役を一生懸命やるというスタンスです。何でも受けるというのではないのですが、オファーをいただくって、前からのご縁がつながっているという感じがするので、そういうものを無下にしちゃいかんだろうとも思うんです。
 歌手になったのも気づいたら(自然の流れで) (笑)。教員になるはずが、大学3年の頃に学生食堂で(師事していた)梶井龍太郎先生から「声がいいから、教師じゃなくて歌やったら?」って言われて、歌の道にひきずり込まれました(笑)。留学先も何もかも先生がお膳立てしてくださって。僕も今、大学で教えているんですが、学生の人生を変えるようなことはなかなか言えない。僕は師匠の作品ですから、彼の名前に泥を塗っちゃいけないって思ってやっています。
 『タンホイザー』のヴォルフラム役ですが、オペラを始めた頃からドイツ系バリトンとして「夕星の歌」だけは歌えなきゃいけないなと思っていました。なので今回やらせていただけることに決まり、「やっと来た!」と(笑)。ヴォルフラムって、(エリーザベトが好きなのに)純潔性とかにこだわって「行きたいけど行けない」やつなんです。彼のアリアはかっこいいけど、この人の本質はそうじゃない。ピュアというか、まあ僕そのものですね(笑)。(談)

ユピテル役を演じた東京二期会オペラ劇場
『ダナエの愛』(2015年)より。
©︎ 三枝近志

大沼 徹(おおぬま とおる) バリトン

東海大学卒業。同大学院在学中、フンボルト大学で学ぶ。二期会オペラ研修所修了(最優秀賞)。五島記念文化賞オペラ部門新人賞により、独マイセンに留学。二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『ウリッセの帰還』題名役で二期会デビュー。東京二期会、新国立劇場、日生劇場等で数多くの役を演じ、オペラに欠かせないバリトンとして活躍を続けている。二期会会員