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特集 官能の愛と清純な愛のはざまで揺れ動く騎士の物語 オペラ『タンホイザー』2021年2月17日(水曜日)、18日(木曜日)、20 日(土曜日)、21日(日曜日)

禁断の世界で快楽を堪能した
タンホイザーは赦(ゆる)されるのか

 中世の吟遊詩人で騎士のタンホイザーが主人公。彼は禁断のヴェーヌスベルクという異世界で、女神ヴェーヌスと官能の日々を過ごしていた。ある日急に思い立って、ヴェーヌスが止めるのも聞かず、タンホイザーは現世に戻ることにする。

 友人のヴォルフラムたちはタンホイザーの帰還を喜ぶ。ちょうどヴァルトブルク城で歌合戦が開催されるというので彼も参加することに。友人たちは清純な愛を歌っているので、タンホイザーも様子を見ているが、徐々に高揚して官能の愛について語ってしまい、禁断のヴェーヌスベルクにいたことが明るみになり罪人扱いされてしまう。恋人エリーザベトのとりなしで、タンホイザーはローマへ巡礼の旅に出ることになる。

 教皇はタンホイザーを赦免してくれず、彼は自暴自棄になってローマから戻ってくる。再びヴェーヌスのもとに帰ろうとするタンホイザーに、ヴォルフラムがエリーザベトの名を叫ぶ。我に返ったタンホイザーの元にエリーザベトの亡骸が運ばれてくる。彼女の自己犠牲によってタンホイザーの魂は救済される。タンホイザーもエリーザベトの亡骸にすがって息絶える。神を称える合唱で幕が降りる。

『タンホイザー』の装置デザインを担当する
ボリス・クドルチカさんの仕事

ポーランドを拠点に世界で活躍する、スロバキア出身のボリス・クドルチカさん。東京二期会をはじめ多くのオペラ作品を手がける装置デザイナーとして、また気鋭の建築家としての仕事について聞いた。

2013年3、4月、ストラスブールのフランス国立ラン歌劇場で行われた『タンホイザー』の舞台。2021年2月に東京二期会公演が控えており、クドルチカさんも来日予定。© Alain Kaiser

自分の生きている世界のリアリティを表現したい

─装置家として、世界中の演出家と仕事をなさっていますね。日本では宮本亞門さんの作品を手がけられています。

ボリス・クドルチカさん(以下、クドルチカ。敬称略) 亞門さんとは『耳なし芳一』『金閣寺』『魔笛』などで一緒に仕事をしてきました。ポーランドの私の自宅にも何度も来ています。彼は素晴らしいストーリーテラーです。オープンな性格で、アイディアを忌憚なく話し合えるので、一緒に仕事をするのは楽しいです。協働し、昨年10月に東京二期会でワールドプレミエになった『蝶々夫人』は、来年1月からコペンハーゲンで上演されます。

─装置デザイン、それも主にオペラを手がけていらっしゃいますが、この仕事を始めたのはオペラファンだったからなのでしょうか?

クドルチカ 若い頃はオペラがまったく理解できませんでした。私はスロバキア出身で首都のブラチスラヴァにある芸術アカデミーで装置デザインを学びました。その後、ポーランド国立歌劇場で働くことになり、そこでアシスタントについた舞台美術の教授のおかげでオペラの舞台美術に開眼したのです。

─好きなオペラはありますか?

クドルチカ 正直に言うと、あまり仕事以外ではオペラは聴きませんね(笑)。ドラマチックすぎて、リラックスしたいときや車を運転するときにはちょっと……。コンテンポラリーオペラなら、トーマス・アデスやベンジャミン・ブリテン、20世紀のロシアの作曲家の作品が好きです。私が仕事を始めた20年前くらいから、オペラはコンテンポラリーになりました。観客、特にヨーロッパでは時代がかった作品より、現代的なものを好むようになっています。

歴史ある19世紀のホテルを改築したワルシャワのラッフルズホテル。クドルチカさんは内装を担当。最初にゲストの目を奪うのがこのロビー。

─ひと昔前のオペラに比べ、最近は古典作品でも現代的な背景に置き換えられていますね。

クドルチカ 古典作品にも必ず現代に通ずる普遍的な価値観や、人間の心理があるものです。ですから舞台を現代に換えても十分に通用します。時代だけでなく、文化を超えることもできます。たとえば、私は日本の文学をベースにした『金閣寺』や『耳なし芳一』の舞台装置を担当しました。金閣寺は「人と違うこと」や「孤独感」がテーマです。世界中の誰もが共感できるテーマではないでしょうか? 『耳なし芳一』は幽霊が人間のもとを訪れるという話ですが、似たようなおとぎ話はヨーロッパにも存在します。ですから舞台が日本であっても、誰もが楽しめるはずです。

─オペラ界にも新しい時代がやってきて、あなたの手がけるコンテンポラリーな装置デザインは高く評価されています。

クドルチカ 自分の生きている世界のリアリティをデザインにも反映したいと考えています。私は装置デザインと同じくらい建築に興味がありました。上海万博ポーランド館をデザインした2010年くらいから、装置デザイナーと建築家という2つのキャリアを両立してきました。オペラを観た方に「建築的なセットがコンテンポラリーでよかった」と言われると嬉しいですね。

2019年に日本で公演された宮本亞門さん演出の東京二期会オペラ劇場『蝶々夫人』。日本の伝統的な建築をクドルチカさんは木の箱を模して表現した。
© 三枝近志

前衛的な装置家であり、建築家でもあるクドルチカさん。世界中で活躍する一方で、「人生で一番大切なのは家族」と家庭人の一面も見せる。

─2018年にはワルシャワのホテル「ラッフルズ・オイロペスキー・ワルシャワ」の内装を手がけられました。随所にオペラの舞台でも見られる、クドルチカさんならではの幾何学的でモダンなデザインが見られます。

クドルチカ 19世紀に建てられた当時は欧州最大のホテルだったそうです。建物は補修して残し、内装は5つ星レベルに一新。私は客室、パブリックスペース、スパを担当しました。今もヨーロッパや中東でオフィスビルやレジデンスの建築プロジェクトが進行中です。

─現在、準備中の舞台を教えてください。

クドルチカ パウル・ヒンデミットの『カルディヤック』。連続殺人犯の話はまるでコミックのようで、言ってみればパンクなオペラです。それからフランクフルトで上演される『ボリス・ゴドゥノフ』とプラハの『トリスタンとイゾルデ』。来年2月には東京で『タンホイザー』の公演が予定されています。タンホイザーは、可動式バルコニーのあるひとつの大きな部屋ですべてが展開していきます。様々なシーン、登場人物の心の動きがこの部屋の中で表現されますから、楽しみにしていてください。

ボリス・クドルチカ

スロバキアのブラチスラヴァとオランダのグローニンゲンの両芸術アカデミーで装置デザインを学び、オペラを中心に活動。キース・ウォーナーやマリウシュ・トレリンスキら著名演出家との協働も数多く、メトロポリタン歌劇場はじめ主要歌劇場に招聘される。宮本亞門演出では『魔笛』『蝶々夫人』、オペラ及び演劇の『金閣寺』で装置を担当。現在はポーランド歴史博物館常設展のコンセプト作りに携わるほか、自身のブランドで家具をデザイン。ラッフルズ・オイロペスキー・ワルシャワで手がけた内装は、『タイム』誌による2018年世界のデザイン特集に取り上げられるなど、数多くの栄誉に輝いている。

フランス国立ラン歌劇場との提携公演
ワーグナー 『タンホイザー』

オペラ全3幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
指揮:アクセル・コーバー
演出:キース・ウォーナー
装置:ボリス・クドルチカ
管弦楽:読売日本交響楽団
東京文化会館 大ホール

2021年2月 17日(水)17:00
18日(木)14:00
20日(土)14:00
21日(日)14:00