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オペラを楽しむ

Alban Berg LuLu

ベルク『ルル』の舞台を彩る4人の女性

男性を次々に虜にしていく女性が主人公のオペラ『ルル』。今回のプロダクションをリードする女性スタッフや出演者にも、ぜひご注目ください。

演出

Karoline Gruber
カロリーネ・グルーバー

Who is she?

ヤーコプス指揮『月の世界』の演出で脚光を浴び、以来ウィーン国立歌劇場はじめ多くの劇場で作品を手がけ、オーパンヴェルト誌の年間最優秀演出家ノミネートの常連となっている。2014年よりザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学教授。東京二期会では『フィレンツェの悲劇』『ジャンニ・スキッキ』(ダブルビル公演)、『ドン・ジョヴァンニ』(ライン・ドイツ・オペラとの共同制作)、『ナクソス島のアリアドネ』(ライプツィヒ歌劇場との提携公演)を演出。

Message

●ルルについて

ルルは環境の犠牲者だと思います。12歳でシェーン博士に拾われて売春婦になりますが、彼は彼女の最初の“客”の一人です。児童虐待もあったでしょう。そんな女性が普通の人生を歩めるでしょうか?彼女が男性をもて遊んだとしても仕方がない。ルルが女性たちの共感を得られなくても、それは彼女のせいではなく彼女を暴力的に扱ってきた男性たちのせいなのです。

●『ルル』の演出について

ルルの人生の悲劇と男性たちが加えた虐待と暴力について、観客の皆さんに理解していただきたいと思っています。“#Me Too”ムーブメントの今だからこそオープンに語ることが大切なのです。

●読者の皆様へ

この作品に限ったことではなく、皆さんに、分かったような気がしていることを、より深く見つめるようにしていただきたいと思っています。人の行動には背景があります。それを知らずに非難すべきではない。ルルをジャッジする前に彼女自身のストーリーを知るべきなのです。

振付・ダンサー

撮影:江野耕治

Yo Nakamura
中村 蓉

Who is she?

早稲田大学在学時コンテンポラリーダンスを始める。ルーマニア・シビウ国際演劇祭、東アジア文化都市式典等国内外で作品を上演。ロックバンドsumika「MAGIC」MVや2018年バイエルン放送年間最優秀作品10に選出されたオペラ『ニクソン・イン・チャイナ』等幅広く振付。郷ひろみ「笑顔にカンパイ!」、アブリル・ラヴィーン「Hello Kitty」MVにはダンサーとして出演。東京二期会では『ジューリオ・チェーザレ』で振付を担当、2021年『セルセ』で演出家デビューを果たす。

Message

●ルルについて

鏡のような人。向き合う人を、大きくも小さくもせず、欲望含め忠実に映し出すから、ルルの虜となる人々は自分の真実を目の当たりにして狂っていくのでは?

●ダンサーの役割について

鏡に映るものに関心はあっても、鏡そのものを注目することは稀。ダンサーの役割は、鏡(=ルル)そのものを見つめる作業と、現在そこに何が映し出されるのか探究し舞台上に表出させること。

●歌手とのコラボレーション

歌手の皆さんは歌、私はダンス、表現方法が異なる分だけ、同じゴールを目指すためのビジョンの共有と、何よりリスペクトを伝えること。

●読者の皆様へ

『ルル』の物語が「昔の話・フィクションのお話」ではなく「私が生きている世界で起きた話だ」と感じていただけるようリアリティを持って取り組みます。素晴らしい方々とご一緒できる喜びを噛み締めて創作に励み、刺激的な作品とともに劇場でお待ちしております。

主演(ルル役)

Mari Moriya
森谷 真理

Who is she?

武蔵野音楽大学卒業、同大学院及びマネス音楽院修了。これまでメトロポリタン歌劇場『魔笛』夜の女王はじめ29の国内外歌劇場で『トゥーランドット』リュー、『サロメ』『マリア・ストゥアルダ』『椿姫』各題名役等37役を演じる。NHKニューイヤーオペラコンサート等メディアへの出演も多い。二期会会員

Message

●ルルについて

場面ごとに、相手の男性は各々ルルに違う女性としての魅力を求めていますが、一貫して持ち続けている彼女の無邪気さを表現したいと思ってい ます。

●この作品の魅力

歌と語りの融合だと思います。より語りに近い“歌”が求められています。立ち稽古が楽しみです。

●読者の皆様へ

無事公演ができるように祈りながら、皆で準備を進めています。観に来てよかった!と仰っていただけるように、名作と呼ばれる『ルル』の魅力を堪能していただけるように、全力を尽くします。

主演(ルル役)

© Yoshinobu Fukaya/aura.Y2

Akiko Tomihira
冨平 安希子

Who is she?

東京藝術大学卒業、同大学院及びシュトゥットガルト音楽大学修了。バイエルン州立歌劇場オペラ研修所在籍中、同劇場にてペーター・シュナイダー、ケント・ナガノら著名な指揮者と共演。近年東京二期会では『後宮からの逃走』『金閣寺』等に出演、9月には『フィデリオ』マルツェリーネも予定される。二期会会員

Message

●ルルについて

ファム・ファタル、悪女というイメージが強いようですが、私から見ると犠牲者。周りの理想を投影されながら求められ、その結果悲劇を生んでしまう。(彼女が時折見せる極端な冷酷さは理解できなくても)その戸惑い、失望には寄り添える気がしています。彼女が本当にほしかったものは、シェーン博士の心からの愛情だけなのだと思います。ベルクの旋律には彼女の心情が音として表れているので、どう演じるかというより彼女の心情に寄り添って演じたいと思っています。

●読者の皆様へ

『ルル』は上演機会がとても少ない作品。ベルクの濃厚な音楽美とともに、ルルと彼女を取り巻く人間の生き様を目撃しにいらしてください。

魔性の女の転落劇
20世紀オペラの最高傑作

オペラ『ルル』は、ウィーン世紀末の退廃を色濃く反映したフランク・ヴェーデキントの戯曲をもとに、アルバン・ベルクが台本、作曲を手がけた作品だ。貧民街で拾われた過去をもち、周囲の男たちを魅了しては次々と自滅させていく魔性の女ルルの転落の人生が描かれる。作品を完成させずにベルクが亡くなっているため、『ルル』には今回上演される未完の2幕版とツェルハが補筆した全3幕完成版がある。全3幕完成版は、2003年に日生劇場と東京二期会が日本初演した。

2003年公演より © 鍔山英次