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オペラを楽しむ

ベルク『ルル』気鋭のアーティストによる映像デザインに注目! 映像作家 上田大樹氏に聞く

近年、オペラの舞台でも最新の映像アートが華を添えている。
東京二期会でも、2015年の『魔笛』、2019年の『金閣寺』で
プロジェクションマッピングがダイナミックに使われ、
そのドラマチックな舞台表現は大きな話題を呼んだ。
そして、今年7月公演の『ルル』では、今を時めく気鋭の映像アーティストを迎える。

─オペラとのコラボレーションは初めてということですが、今回『ルル』の映像制作のオファーを受けられた理由は?

上田大樹(以下U) 東京二期会さんからの打診を受け、世界のオペラ界で高く評価されている演出家のカロリーネ・グルーバーさんとお会いして、今回の彼女の演出コンセプトが意欲的で現代社会にとてもマッチしていることなどに大変興味を持ちました。新しい解釈も随所に試みるということですし、僕自身もオペラという未知の分野での挑戦で、新たなる発見が得られたらと思い、お受けしました。

─ 近年、スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」での劇場全体を覆うような壮大な舞台映像や、テレビでも、NHK大河ドラマ「いだてん」のタイトルバックなど、メジャーな作品も多数手がけていますが、どのような活動が中心ですか?

U 5割くらいがストレートプレイなどの舞台演劇とのコラボですね。一口に舞台上での映像効果といっても、プロジェクションマッピングや劇中映像など、かたちは様々です。スーパー歌舞伎などはとても印象に残っています。あとは、テレビ番組や映画のタイトルバックやCG効果、コンサート、イベントセッションなどの映像効果も手がけています。

─ ご自身の個展的なインスタレーションも手がけられていますか?

U 監督として、パッケージとしての作品を制作することもありますが、最近は、映像という手段を通して、他の分野の方々とコラボすることが多いですね。例えば、演劇だったら、時間の流れを暗示するためだったり、演技そのものでは描き出すのが困難な部分を補完する役割を持つ映像を創造したりと、一つの作品をより効果的にするためのある種のスパイス的な存在として参加するというかたちが多いです。

Bunkamuraのシアターコクーンで上演された『プルートゥ 』(2018)の舞台より。
上田氏が映像・装置を担当している。

浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース
監修・手塚眞 協力・手塚プロダクション/小学館
鉄腕アトム「地上最大のロボット」より『プルートゥ PLUTO』(2018)
Bunkamura シアターコクーン(撮影:宮川舞子)

Based on PLUTO © Naoki Urasawa, Takashi Nagasaki, Tezuka Productions

─ ステージ・ヴィジュアル(舞台上での映像効果)の面白さや醍醐味は、作り手側としてどのような点にありますか?

U 僕自身、大学時代に映像に興味を持ったのですが、その頃、演劇と映画両方のサークルに属していまして、人間が生身で作り出すライブ感に満ちた演劇と、フィクションであれ、ノンフィクションであれ、あらかじめ別の場所で作られた“映像”というものが一つのコンテクストの中でシンクロする面白さに興味を覚えました。そんな体験が、今の仕事につながっています。

─ クリエーターとして、どのような事から一番刺激を受けますか?

U 普段から展示会や様々なアーティストの作品を見たり、ということもありますが、僕の場合は、何よりも現場で出会う演出家、ディレクター、映画監督など、違う分野のエキスパートの方々との交流が一番の刺激ですね。互いに意見を出し合ったり、あるいは彼らから、目から鱗が落ちるような提案・指示を与えられたりと、一つの作品を巡ってあらゆる角度から自分の映像を見つめ、考えるきっかけを与えられ、多くのことを学ばせて頂きました。それらの積み重ねが、僕のクリエーションの中で一番のインスピレーションになっています。

─ 他の分野とのコラボレーションにおいて、つねに心がけていることは?

U 映像というのは、よくも悪くも、とても目立ってしまって、一つの作品の色やトーンを崩してしまうことも容易に可能なくらい影響力があるものですから、まず第一に、抑制を効かせて作品と良いバランスを保つよう心がけています。そして、周囲の状況を認識しつつ、多方面の意見を汲みつつ、フレキシブルにその場の状況に対応できるようにもしています。

─ 『ルル』では、作曲家のベルク自身の希望によって、音楽と同様、あるいはそれ以上に劇中映像が重要視されています。そういう意味では、むしろ存在感が要求されるかもしれませんね?

U そうですね。実際、劇中映像でルルという登場人物の人生の一部の展開をショートフィルム的に語り、しかも手法的にも〝シンメトリックに描き出す〟というような指定があるようですね。それを演出家がどうコンセプトしていくかにもよりますが、僕なりに映像的な存在感を出せるのではと思っています。

オペラは、音楽、オーケストラ、舞台とそれぞれの要素が増え、段階を経るごとに、歌手の動きや全体のピッチが絶えず変化していくと伺ったので、それらの点も踏まえつつフレキシブルに構えていきたいと思っています。オペラという世界に、僕なりに少しでも新しい風を吹き込めたら嬉しいです。

上田大樹 Taiki Ueda

1978年生まれ。クリエイティブスタジオ&FICTION!代表。映像作家・ディレクター。早稲田大学在学中より映像制作を始める。「ナイロン100℃」「劇団☆新感線」などの劇中映像の制作、「いきものがかり」「槇原敬之」などのMV、「Mr.Children」などのLIVE における演出映像、および、NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」等のTVや映画のタイトルバック、CHANEL 銀座ビルのファサードアニメーション、その他イベント・LIVE の演出映像、ショートフィルム、グラフィックデザインなど多岐にわたる映像作品を手がけている。 andfiction.jp/

※当初、2020年7月に上演を予定しておりました『ルル』公演は、新型コロナウイルス感染拡大の状況により2021年8月28日(土)、29日(日)、31日(火)に延期されました。何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。