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「ルル」キャストインタビュー

冨平安希子・前川健生

  • 取材・文:朝岡久美子/写真:近澤幸司

冨平安希子
ルル役

演じる役にも温かなまなざしを。
舞台で輝くプリマは、気さくでフレンドリー

今や二期会の舞台には欠かせない存在となったソプラノの冨平安希子。二女のママでもありながら、少女のような純粋さと気さくさで誰をも惹きつけてしまう。

「たまに子供たちに舞台を見せると、ママ別人みたい〜!と言われます。普段の生活では、ドラマティックな要素が全くない、フツ〜ウな人間なので、きっとそう感じるのだと思います。演出家にも、『ミステリアスな役なのに、フレンドリーすぎるんだよね』とよく指摘されます(笑)」

そう語る冨平だが、近年は“ミステリアスで妖艶な”役どころも多い。7月公演の『ルル』では、タイトルロールを見事につかみ取った。

「この役は以前からずっとやりたいと思っていました。早く演じたい、ルルになれるのが嬉しいという気持ちでいっぱいです」

オペラ作品の中でも、最も複雑で難解な役の一つといわれるルル。しかし、寸分の気負いもない。

「ルルはとても素直で嘘をつけない少女のようなところがあるんですね。自らの妖艶さにも気付いていないんじゃないかと思うんです。男たちが好き勝手にルルの中に思いを投影していく…、彼女はそうやって犠牲者にされてしまうんです」

自然にルルという役に共感し、寄り添う友人のように温かいまなざしを注ぐ。一つひとつの言葉に冨平らしさがあふれ出る。持ち前のフレンドリーさは、歌い、演じる役柄に対しても作用するのかもしれない。

「普段がニュートラルな状態なので、どんな役でも素直に演じられるのかもしれません。その分、与えられたものを十二分に吸収してしまうというか。例えば映画を見ても一か月くらい引きずっていたりと、感情移入してしまうとなかなか抜け出せないんですね。でも、家に帰ると普段のドラマティックでない私にすぐ戻れるんです。こういうのはAB型の二面性なのかもしれません(笑)」

家では一日中スポーティファイが流れ、夜は録りためたお笑い番組をまとめて見て大笑い。楽屋での気分転換は、しばし仲間との“お笑い談義”という思いがけない一面も。緊迫感漲る舞台を数多くこなしてきた冨平ならではの気晴らし方なのかもしれない。

フレンドリーで、きさくで、意外な面もいっぱい持つ優しいママが、『ルル』の舞台でこよなく愛する“友”の姿を演じる日が待ち遠しい。

冨平安希子(とみひら あきこ) ソプラノ

東京藝術大学卒業、同大学院修了。シュトゥットガルト音楽大学修了。バイエルン州立歌劇場オペラ研修所在籍中、同劇場にてペーター・シュナイダー、ケント・ナガノら著名な指揮者と共演。近年東京二期会では『後宮からの逃走』『金閣寺』等数多く出演。表情豊かな声質と華やかな舞台姿、卓越した演技力で活躍の場を広げている。二期会会員

前川健生
アルヴァ役

東京二期会 スターテノール チームに
ユニークなニューフェース登場

『ルル』でアルヴァ役を歌う前川健生。2月上演の『椿姫』でもアルフレード役に大抜擢された期待の逸材だ。

「両役とも、弱さのある三枚目的な人間臭さが愛おしいですね。アルヴァは、一人で舞い上がって、何の計画もなしに好きな女性に向かって猪突猛進してしまうダメなところも満載の人物です。『椿姫』のアルフレードも、いつも浮足立っていて、余裕がない。ちょっと不器用なんだけど、愛に向かって突進していく姿に、実は僕自身シンパシーを感じています(笑)」

自他ともに認める遅咲きのテノール。高音を駆使するまでにかなりの歳月を要し、24歳でようやく歌い手としての道を究めるチャレンジ精神に目覚めたという。

「大きく遠回りをしてやっと今の地点に到達したような感があります。大学時代も実技は成績下位でしたし、大学院に入るのにも苦労しました。ところが、24歳で出会った先生の一言で、目から鱗が落ちたというのでしょうか、自然体で歌うことを感覚的に掴めたんです」

由緒ある寺に生まれ、祖父、父ともに声明の第一人者。声で表現することに憧れて育った。

「父の声と息の長さに日々圧倒されて育ちまして…、なので、最初、あえてピアノを選びました。それでも人前で何か堂々と表現したくて…、当時『爆笑オンエアバトル』に刺激されて友人とお笑いコンビを作ったんです(笑)。大向こうのリアクションを掴みながら、客席との間に生まれる絶妙な距離感の大切さを学びました」

そんな経験も今や人間味あふれるモーツァルトやベルカントオペラのキャラクターを多彩にこなすテノール前川健生を育んだのだろう。実はもう一つ、前川を語るに欠かせないものがある。

「中学時代に、とある“中華料理マンガ”にはまりまして、両親から中華鍋をプレゼントしてもらったんです。以来、料理は僕の人生の一部。食べ物になぞらえて役作りのイメージをすることもあるんですよ。僕の中では、料理を作る楽しみと、音楽の上で“イイな”と思えるツボが同じなんです!」

なんとユニークな新時代のテノールだろうか。そんな彼が迫る二人の優男。ぜひ前川自身の多彩な人間像に思いを馳せつつ、両者見比べてみてはいかがだろうか。

前川健生(まえかわ けんしょう) テノール

国立音楽大学卒業。東京学芸大学大学院修了。第37回ソレイユ音楽コンクール第1位音楽現代新人賞。近年東京二期会では『ばらの騎士』『ノルマ』『アルチーナ』『外套』『ジャンニ・スキッキ』等出演の他、『トスカ』カヴァラドッシ、『蝶々夫人』ピンカートン、『エロディアード』ジャンのカヴァーキャストを務めた。二期会会員