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オペラを楽しむ

『チャールダーシュの女』キャストインタビュー

醍醐園佳・宮本益光

  • 文=山崎浩太郎
  • 写真=伊藤竜太
醍醐園佳

─これまで、どんな役を歌われてきましたか?

 2009年二期会ニューウェーブ・オペラ『ウリッセの帰還』ヘンツェ版による日本初演に出演させていただきました。そして昨年2月に東京二期会で『こうもり』が上演されたとき、ヒロインのロザリンデ役のカヴァーをつとめさせていただきました。キャストの腰越満美さん、塩田美奈子さん、皆さんの歌と演技を見逃さないようにじっと見つめていたら、「なんでにらむんだ」なんて言われてしまいましたが(笑)、稽古では歌う機会もいただけたので、このチャンスを次につなげたいと思っていましたから、シルヴァの役は本当に嬉しいです。
 不器用なので役をつくるのに時間がかかるのですが、今回はどうしてもやりたいと思ったせいか、すんなりと入れました。シルヴァとシュタージ、どちらを受けようか迷ったのですが、ぜひシルヴァが歌いたいと思いました。オーディションではアリアと二重唱、そしてセリフを話すのですが、最後の一言は「愛してる」でした。相手役をつとめてくださった演出の田尾下さんを凝視して、「愛してる」と強くいいました(笑)。

─オペラは以前からお好きでしたか?

 私の母の家系が、みな音大で声楽を学んでいるのです。なかでも叔母は今も歌っていまして、小さいときからオペラに行く機会が多かったので、自分もオペラ歌手になるものだと思っていました。叔母が歌う『蝶々夫人』に憧れてきましたので、いつか歌ってみたい役です。
 でも、ぜんぜん歌えなくなった時期もありました。練習が楽しいと思えるタイプではなく、やめる方がつらいから続けるだけという気持ちになったことも。大学院まではいろいろな機会を与えられますけれど、社会に出るとそうはいかなくなる。声ってどうやって出すんだろうと迷ったり、楽しくない時期が研修生の時代にもかなり長く続きました。

─それが変わったきっかけは?

 高校で音楽を教えるようになって、子供たちと接してからです。学校の先生もすごく素敵な仕事ですし、子供たちにいい音楽を知ってもらうのは嬉しいことなのですが、いろいろな人の演奏会に行って聴いているうちに、自分もまた舞台で歌いたいと思うようになりました。

─今回の公演での目標を。

 まずはきちんと歌を聴いていただけることがいちばんですが、それに加えて、見て聴いて、全部を楽しんでいただきたいです。きっとダンスも必要になってくると思って、こっそりレッスンに通っています。ウィーン風とハンガリー風、両方なので頑張らないといけません。
 この音楽は華やかですが、根っから明るい感じではなく、深い哀愁もある。その点がとても魅力的だし、オペラよりも身近に感じてもらえると思います。ヒロインとエドウィンの関係は、現代でもいかにもありそうな関係ですし。

─生徒さんにも見てもらいたいですね。

 その通りなんですが、ラブシーンがあると困りますね。男子生徒が多いので(笑)。

醍醐園佳(だいご そのか) ソプラノ
東京都出身。東京音楽大学卒業、同大学院修士課程(オペラ科)修了。二期会オペラ研修所修了、修了時に優秀賞受賞。第17回日本声楽コンクール入賞、第24回ソレイユ新人オーディション優秀賞。第27回読売新人演奏会出演。二期会ニューウェーブ・オペラ『ウリッセの帰還』メラント、『フィガロの結婚』ケルビーノ、『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・アンナ、『ヘンゼルとグレーテル』ヘンゼル等を演じる。コンサートでは「第九」、ヴェルディ「レクイエム」等のソリストをつとめる。台湾における日本歌曲演奏会に出演するなど活躍の場を広げている。
二期会会員

宮本益光

─オペラにオペレッタ、大活躍の宮本さんですが、この作品については。

 知りません。いやそんなことはないんですが(笑)、歌ったことはありませんし、舞台を見たこともないんです。日本で上演される機会がそれほど多くありませんし、ウィーンに行ったときもチャンスはあったんですが、タイミングが合わなかったり。
 ヒロインが歌手、というのがいいですよね。歌手が歌手を演じる難しさ。下手だったらどうしようもないんだから(笑)。でも最高のチャレンジ。自分がソプラノならやりたいですよ。歌っている場面を歌で演じるなんて、歌手にとってはやり甲斐ありますよ。

─見る方も楽しめそうですね。

 はい。ただし、甘えてはいけない作品です。ウィーンのフォルクスオーパーで『こうもり』を見たとき、強いショックを受けました。オペラよりももっと、強い民族性を感じたのです。自分も『こうもり』歌いましたなんて、これでは恥ずかしくて言えないなと。外国人が歌舞伎やると聞いたら、我々は自分が歌舞伎をよく知らなくても、「できるわけないじゃん」とか言ってしまうでしょう。まさにそれと同じことをウィーンの人に言われてしまうだろう。その場所でしかできないものがある。これは衝撃でした。

─その点は日本人には難しいですね。

 でも、そうしたオペレッタが日本でも受けいれられる理由はあると思うんです。その独特のリズムは民族性からうまれたのだけれど、国境をこえて伝わるものもある。阿波踊りを見て聞いて、なんか楽しそうだからやってみようと思う外国人もいるわけですよね。
 そうした普遍性に甘えるだけでなく、それをそれとして自覚した上で、さらにふところを広げるように取り組んでいく。そういう風にできればと。
 この作品の場合は、ウィーン風のワルツに加えて、ハンガリー舞曲のリズムもある。もう一つ民族性が加わるわけで、さらに難しいですね。ここからワルツ、ここからはハンガリー風と、一聴瞭然、音ではっきりわかる。それがただの借り物に聞こえてしまうのではいけない、と思います。

─お歌いになるフェリ・バーチという役は、そのオーストリアとハンガリー、両者をつなぐような役ですね。

 同時に、恋のつなぎ役でもある。若い人たちの恋愛は放っておいても進行するだろうけれど、この男のおかげで成就する部分がある。恋の進行をわきで眺めているあたりは、お客さんの代弁者でもあります。
 荒唐無稽な話が大人の洒落として成立するのが、オペレッタの面白さだと思うんです。洒脱な世界、おしゃれな世界。これを認めてもらうには、フェリ・バーチのような役が必要なんじゃないでしょうか。若い人の恋愛だけでなく、そこに大人の視点を加える。
 ハンガリーで暮らしていたことがある方に聞いたのですが、バーチって、ジジイとかオヤジとか、バカにして呼ぶときにつかう言葉なんですって。一方で愛称、関西弁のオトンみたいな、うさんくさいけど憎めない、というニュアンスもある。おしゃれで立ち居振舞いも格好いいんだけど、ハナほじってるみたいな(笑)。俳優さんでいえば役所広司さんが演じているような、いいかげんなんだけどなんかいい、おっちゃん。そういう、洒脱さをもった役にしたいです。

宮本益光(みやもと ますみつ) バリトン
愛媛県出身。東京芸術大学卒業、同大学院博士課程修了。'03年『欲望という名の電車』スタンリーで脚光を浴び、翌年二期会『ドン・ジョヴァンニ』(宮本亜門演出)タイトルロール。'10年神奈川県民・びわ湖『ラ・ボエーム』、新国立劇場『鹿鳴館』、'11年二期会『ドン・ジョヴァンニ』(K.グルーヴァー演出)タイトルロール、'12年日生劇場『メデア』イヤソン、'13年二期会『こうもり』ファルケ、新国立劇場『夜叉が池』(世界初演)学円、日生劇場『リア』(日本初演)オルバニー侯爵等、常に大舞台で活躍。コンサートでも読売日響、東京交響楽団、日本フィル等と共演。王子ホール「銀座ぶらっとコンサート~王子な午後」は人気シリーズとして17回を迎える。今年6月新国立劇場『鹿鳴館』、11月二期会『チャールダーシュの女王』出演予定。演出や作詞、訳詞、執筆でも多彩な才能を発揮。CD「碧のイタリア歌曲」(オクタヴィアレコード)、著作『宮本益光とオペラへ行こう』、詩集『もしも歌がなかったら』等。
二期会会員
http://www.mas-mits.com



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