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「オペラの楽しみ」 室田尚子

第8回「このオペラが効く!その4」
こどもが登場するオペラ

春は、学校や会社など、様々なところで新しい生活がスタートする季節です。こどもの頃は4月といえば、学年がひとつ上がって、何となく少し大人に近づいた気がしたもの。と同時に、新しいクラスにはどんな先生が来るのかな、とドキドキしたり、大好きな友だちと同じクラスになって喜んだり、と、一年の中でいちばん「心が大きく動く季節」でもありました。
今回ご紹介するオペラは、すべて、こどもが登場して重要な役割を演じる作品。忘れていたこどもの頃のことを思い出しながら、大きく心を動かしてみましょう。


(1) モーツァルト:『魔笛』
『魔笛』2007年7月26日、27日、28日、29日
新国立劇場オペラ劇場 指揮:高関健 演出:実相寺昭雄(写真:高嶋ちぐさ)
『魔笛』は、モーツァルトのオペラの中でも特に人気の高い作品です。二期会でも昨年、故実相寺昭雄演出の舞台の再演が話題となったのは、記憶に新しいところ。王子様が悪者に囚われたお姫様を救いにいく、という筋立てはいかにもファンタジックで、こどもが観ても楽しめる『魔笛』ですが、実はそのストーリーは結構こみ入っています。一説には、モーツァルトが属していた秘密結社フリーメーソンの教義が盛り込まれている、ともいわれていて、そのあたりを追求していくとかなり奥深い意味のある作品なのです。
さて『魔笛』に登場するこどもは、「3人の童子」。彼らは、姫パミーナを救いに行く主人公タミーノを見守り、導くという役割を与えられています。第1幕の終曲では、銀色の椰子の枝を持った3人の童子が、タミーノに「この道はあなたを目的に導く。けれど若者よ、男らしく勝たなければなりません」という注意を与える歌が登場します。また終盤では、恋人パパゲーナを見失って自殺しようと嘆くパパゲーノに、「鈴を鳴らせ」と教える場面もあります。主人公たちを導く「天使」である3人の童子は、ぜひ本物のボーイ・ソプラノで聴いてみたいもの。ウィーン少年合唱団のメンバーが三人の童子を歌う舞台などでは、まさにピッタリの「天使の歌声」が楽しめます。




(2) フンパーディンク:『ヘンゼルとグレーテル』
『ヘンゼルとグレーテル』1989年12月27日、28日 新宿文化センター
指揮:佐藤功太郎 演出:栗山昌良(写真:鍔山英次)
有名なグリム童話『ヘンゼルとグレーテル』もオペラになっています。作曲したのは、後期ドイツ・ロマン派の作曲家として名高いフンパーディンク。彼はワーグナーの音楽に影響を受けたことで知られていますが、このオペラも、ワーグナーの楽劇の理論に基づいて書かれた作品です。もともとはフンパーディンクの妹からの、夫の誕生日に家庭で上演する、グリム童話を題材にした劇の音楽を書いてほしいという頼みにこたえて作られました。その後フンパーディンクは、自分の婚約者へのプレゼントにするため、三幕からなるジングシュピールに発展させました。
ジングシュピールはといえば先ほどあげた『魔笛』がその代表ですが、民話やおとぎ話が題材となったストーリーはわかりやすく、また音楽も親しみやすさを感じさせるのが特徴。『ヘンゼルとグレーテル』の音楽も、全体的にあたたかい雰囲気を持っています。またこの作品はドイツではクリスマスに上演されるのが恒例となっており、多くのこどもたちが舞台を観に行くといいます。
ちなみに、ヘンゼルとグレーテルはさすがに本物のこどもが歌うわけにはいきませんので、兄であるヘンゼルはメゾソプラノ、そして妹グレーテルはソプラノが歌うことになっています。



(3) ラヴェル:『子供と魔法』
ラヴェル『子供と魔法』全曲CD
指揮:アンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団/新ロンドン児童合唱団/ロンドン交響合唱団/他
※タワーレコードにて発売中
その作品のほとんどが現在でも世界中で愛され、演奏されているラヴェル。けれども、ピアノやオーケストラの作品に比べて、彼が書いた2つのオペラはそれほど知られていません。そのうちのひとつ『子供と魔法』は、ラヴェル自身によって「ファンタジー・リリック(詩的幻想)」と呼ばれている作品。いたずら盛りの坊や(メゾソプラノが歌います)と、彼がいたずらした様々なものたち─ひじかけ椅子、茶碗、ティー・ポット、大時計、リス、羊たち、おとぎ話の絵本のお姫様、猫などが登場します。色彩感あふれる絵画的な音楽には、ラヴェルの才能が存分に発揮されています。また、擬音のような発声を用いたり、1925年当時流行していたジャズの要素を取り入れたりしているところも見逃せません。ケガをした坊やが動物たちに運ばれて家に戻り、最後に一言「ママン!」と叫んでそのまま一切の音楽がなく終わる、という幕切れが何とも鮮やかです。

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