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オペラを楽しむ

「オペラの楽しみ」 室田尚子

第7回「このオペラが効く!その3」
この年末、デートで行きたいオペラ

 

クリスマスに年越しと、何かとイベント続きのこの季節。イルミネーションを見て、フランス料理を食べて……でも、毎年同じことの繰り返しで何となくつまらないな、と思っているあなた。今年はちょっと趣向を変えて、オシャレしてオペラを観に行ってはいかが。いつもと違う時間を味わうのに、オペラはぴったりのエンターテインメントです。もし劇場に足を運ぶのはちょっと、というならば、家で少しだけ贅沢な食事を楽しみながらのビデオ鑑賞も素敵です。今回はそんな、この季節にぴったりの作品をご紹介します。

 

(1) ヨハン・シュトラウス2世:『こうもり』

2001年2月J.シュトラウス2世『こうもり』東京文化会館 撮影:鍔山英次
2001年2月J.シュトラウス2世『こうもり』東京文化会館 撮影:鍔山英次
 ヨハン・シュトラウス2世は、別名「ワルツ王」とも呼ばれる作曲家。有名な「美しく青きドナウ」をはじめ数百曲ものウィンナ・ワルツの名曲を残し、今でもウィーンの人たちにとっては心のふるさととして愛されています。『こうもり』は、そんなヨハン・シュトラウスが書いたオペレッタの傑作。オペレッタとは、オペラより少しだけくだけたスタイルと内容をもつジャンル。アリア以外の部分では登場人物たちは台詞を話し、お芝居としての要素も大きいので、オペラにあまり馴染みのない人でも充分楽しめます。
 さて、『こうもり』は、ウィーンでは年末に上演されるのが恒例となっている作品で、いわばウィーンの年末の風物詩といえます。物語は、倦怠期を迎えた一組の夫婦が主人公。それぞれ身分を隠してやってきた仮面舞踏会で、夫は妻をそれと知らずに口説き、妻は夫の浮気現場を押さえようと画策する。そこに、女優になりすました女中やら、ヒマをもてあました青年貴族やら、酔っぱらいの刑務所長などが絡んで、一夜のドタバタ喜劇を繰り広げます。ただし、そこはウィーンのこと、舞台はあくまでも上品で優雅でお洒落。最後にすべてがバレて白日の下にさらされても、「シャンパンの泡のせい」と言ってしまうところなど、いかにも「ウィーン風」です。純愛まっしぐらの若者カップルよりは、酸いも甘いもかみ分けた大人のカップル向けの作品。




(2) リヒャルト・シュトラウス:『ばらの騎士』

2003年7月R.シュトラウス『ばらの騎士』東京文化会館
撮影:竹原伸治
 同じウィーンが舞台の作品ですが、こちらはもう少し辛口のワイン、といった趣。幕が開くと、そこは身分の高い元帥夫人の寝室。愛の一夜を過ごした元帥夫人と彼女の年若い愛人オクタヴィアンが朝の会話を交わしています。「年上の女」「不倫」といった、いかにものテーマが描かれているようですが、実は元帥夫人は、若いオクタヴィアンがやがて自分を捨てて真実の愛に目覚める時が来るだろうことを予感しています。彼女の予想通り、オクタヴィアンは、婚約の使いとして銀の薔薇を届けにいった先の令嬢ゾフィーに一目惚れ。ゾフィーも、粗野で好色な婚約者より誠実なオクタヴィアンを愛してしまい、結局最後は元帥夫人自身の計らいで、若い2人は結ばれることになります。
 このオペラで描かれているのも、ウィーン風の甘い恋愛遊戯なのですが、主人公である元帥夫人の存在が、他のオペラやオペレッタとはひと味違う秀逸なもの。彼女は、「人生にはどうしても思い通りにならないものがある」ということを知っている本物の「大人の女性」です。オクタヴィアンを心から愛しているものの、自分の立場や彼の幸福のために身を引くことができる賢さを持っています。おそらく、同じように人生の真実を知り尽くした女性たち(と、そんな女心を理解できる男性)にとっては、胸に迫る作品といえるでしょう
2003年7月R.シュトラウス『ばらの騎士』東京文化会館



(3) プッチーニ:『ラ・ボエーム』

2006年2月G.プッチーニ『ボエーム』Bunkamuraオーチャードホール 撮影:鍔山英次
 最後は、純愛を貫きたいカップル向けの作品。『ラ・ボエーム』は、クリスマス頃のパリを舞台に、若い詩人ロドルフォとお針子ミミとの悲恋が描かれています。ふたりを引き裂くものは、そう、貧乏と病気。ロドルフォは詩人としては未だ目が出ず、ミミは実は重い病を患っています。一目で恋に落ち、楽しいクリスマス・イヴを過ごしたものの、結局貧乏と病気のためにふたりの恋は破れ、最後にミミはこの世を去ります。
 この設定、何かに似ていませんか。そう、ここ数年大人気の「韓流ドラマ」にそっくり。いつの時代でも、人は「結ばれない恋」に涙する生き物なのでしょうか。あまり深刻な悲劇はともかく、クリスマスという「恋人たちの季節」に、ただひたすら純粋な「愛」の美しさに浸るのも悪くはないのではないでしょうか。

このページ写真提供すべて東京二期会オペラ劇場

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