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オペラを楽しむ

「オペラの楽しみ」 室田尚子

第3回「いよいよ開幕!」

 

 何度訪れても、劇場で幕が開く瞬間というのは特別なものです。照明が落とされ、それまでザワザワしていた客席が水を打ったように静まりかえる時、「いよいよ始まる!」という思いで、知らず知らずのうちに胸がドキドキしてきます。
 何十回、何百回と足を運んでいれば、ドキドキしなくなってしまうんじゃないですかって? いえいえ、たとえ毎週のようにオペラ劇場に通っていたとしても、開幕の瞬間のドキドキ感は決してなくなることはありません。いやむしろ、劇場とは、そしてオペラとは、そんなドキドキ感を与えてくれる、素敵なオモチャ箱のようなものであるはずなんです。
 さて、それでは何が飛び出すかわからないオモチャ箱のフタを、ご一緒に開けてみることにしましょう。

 

(1) 指揮者登場
 客席の照明が落ちると、まず指揮者が登場します。普通のコンサートと違ってオペラの場合、オーケストラは、舞台の前面に設けられた「オーケストラ・ピット」という場所に押し込められています。ピットは舞台の高さより下にありますから、まるで穴ぐらのような感じ。上からのぞき込まないと、オーケストラのメンバーを見ることはできません。指揮者は、このオーケストラ・ピットにやって来るわけですから、1階席だと登場したのかどうかよくわからないこともしばしば。そんな時はいつ拍手したらいいのかわかりませんが、そこはよくしたもので、2階席などピットがよく見える席の人が我先にと拍手を始めるので、それに合わせてしまえばいいのです。

 

(2) 本当の本当に幕が上がる前に
 オペラでは、幕が上がる前に「序曲」や「前奏曲」が演奏されます。これは大抵、オペラ本編の中の有名なアリアのメロディなどを繋げた音楽になっていて、まさに、これから始まるドラマの予告の役目を果たしています。前奏曲でカッコイイのはビゼーの『カルメン』。お馴染みの闘牛士のメロディが登場して、いやが上にも幕開きへの期待が高まります。中には、オペラの本編とはまったく関係ない素材で作られた序曲もあります。例えばモーツァルトの『フィガロの結婚』がこのタイプとしては有名です。
 また作品によって、序曲がなく、いきなり幕が上がるものもあります。たとえばプッチーニのオペラには序曲のないもの(あってもごく短い「序奏」)がほとんどです。

 

(3) いよいよ開幕!ところで「幕」って?
 オペラ作品は、たいてい「第1幕」「第2幕」という風に分けられています。これは、ストーリーと音楽の大きな区切り。幕はそれぞれ違う場面となるのが普通で、つまり、舞台装置も大きく変わることになります(ちなみに、ひとつの幕の中での場面転換は「第1場」「第2場」と呼びます)。各幕の終わりでは、必ず本物の幕が下がってきますので、「よかった」と思ったらここで大きな拍手をして下さい。いったん幕が下がった後、間髪を入れずに幕が上がり、今終わった場面をそのままストップモーションで見せる、という演出もあります。
 幕が下がると指揮者が退場します。そのあと、拍手が鳴りやまない場合には、下がった幕の前に登場人物が一人ずつ出てきて拍手にこたえる「カーテンコール」となります。カーテンコールが終わると休憩です。幕間には休憩があるのが普通ですが、最近では、短い幕は休憩を挟まず、続けて演奏するスタイルも増えてきました。どこに休憩があるのかは、劇場の入口付近に各幕と休憩のおおよその時間を書いたボード(タイムテーブル)が出ているので、事前にチェックしておきましょう。

 

(4) 感動!感激!のフィナーレ
 歌手の歌声が劇場の天井にこだまし、オーケストラが最後の音を奏で終わると同時に下りる幕。感動のフィナーレを経験するたびに、「オペラって本当にイイものだな?」としみじみと実感します。
 さて、フィナーレの幕が下りた後は大拍手の嵐になりますが、そうすると幕がもう一度開きます。そう、フィナーレの後のカーテンコールは、それまでのように下りた幕の前ではなく、幕を上げて舞台上で行われます。合唱団を皮切りに、ソリストが一人ずつ登場して観客の拍手を浴びるのです。最後、主役が出てきた後全員でお辞儀、そして指揮者が舞台上に呼ばれます。数時間にわたる長丁場をずっと穴ぐらのようなピットで過ごしてきた指揮者が、初めて舞台上に登場する瞬間です。その後、演出家や他のスタッフも舞台上に呼ばれ、最後に全員でお辞儀をして本当の閉幕となります。
 こうして、キャスト・指揮者が一人一人挨拶をするカーテンコールは、また、それぞれに対する観客の評価を伝える場でもあります。素晴らしい歌声を聴かせてくれた歌手には誰よりも大きな拍手が与えられますが、よくない演奏や演出には遠慮なく「ブーイング」が浴びせかけられることもあります。初めてブーイングを聞くとちょっとびっくりしますが、目と耳の肥えた観客による評価を自分の感想と比べてみるのも面白いかもしれません。