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オペラを楽しむ

『午後の曳航』出演歌手の素顔 思春期の少年の複雑な心理を描いた三島由紀夫の長編小説が、宮本亞門氏と東京二期会の協働として、日本で初めてドイツ語版で舞台上演されます。シリアスな主役を演じる2人が、舞台を離れた日常をユーモアたっぷりに話してくれました。

黒田房子役を演じる ソプラノ 林 正子 2023年11月23日(木曜日・祝日)、25日(土曜日)出演

1週間前にアルゼンチンから帰ってきました。私の声を聴き「会いたい」と言ってくださるマエストロに会うためでした。バレンボイムが弾くタンゴで憧れたアルゼンチン、実際に訪れてみると美しい街並みとおいしい牛肉も加わり、すっかり恋をしてしまいました。牛肉はとにかくおすすめ。肉屋に行き、カタコトのスペイン語で「一番おいしくて、やわらかいところを3枚!」とまくしたててみると、気迫で伝わったのか思い通りの部位を手に入れられました。しかも3枚でおよそ500円!驚きです。

どちらかと言えば、波乱に満ちた人生。
どんな境遇もとりあえず楽しんでみることが信条に

フランスに住んでいると言うと、お洒落で優雅なイメージを持たれることがありますが、実際は闘いと諦めの連続です。家の工事を頼んでも、時間も約束も当てになりません。約束の時間に来ないどころか、相手の都合で勝手に前倒し、もあります。なのに全く悪びれないのがフランス人です(笑)。

私の人生は存外、波乱に満ちています。音楽の道を親に反対され、家庭教師のアルバイトをして藝大に入ったり、ようやくヨーロッパの劇場で歌えるようになったときに親の介護で日本への帰国を余儀なくされたりと、神様に歌うことを反対されているのかと意気消沈もしました。でも、人生は一度きり。どんな境遇もとりあえず楽しんでみようと思うことにしました。

クラシックだけでなく、ポップスに挑戦しているのもそのひとつ。来年はアルゼンチンで野外コンサートが予定されていますが、そのときはモリコーネの映画音楽のメドレーなんかも歌えたらいいですね。

『午後の曳航』で演じる房子は母親でもあり、年若い未亡人でもあります。恋人ができるのも自然だし、ごく普通に良き母として生きているように私の目には映ります。淡々とした母を演じられたら、それが子どもたちの異常性をより際立たせ、迫力のある舞台にできるのではと思っています。

はやし まさこ ・ 東京藝術大学卒業、同大学院及び二期会オペラ研修所修了。五島記念文化賞オペラ部門新人賞。ジュネーヴ音楽院修了後、スイス・ロマンド管弦楽団等に客演。近年は東京二期会『ばらの騎士』元帥夫人、新国立劇場『ニュルンベルクのマイスタージンガー』エーファ等で主演。NHK ニューイヤーオペラコンサートや、「崖の上のポニョ」オープニング曲等でも活躍。二期会会員

黒田房子役を演じる ソプラノ 北原瑠美 2023年11月24日(金曜日)、26日(日曜日)出演

お酒が大好きでよく飲みます。お気に入りは黒糖焼酎。「奄美の隠し酒」というのがあって、これにシークニンという奄美の柑橘を絞っていただくのが最高です。でも、飲んでばかりでは体にも良くないので、なるべく歩く、なるべくエスカレーターを使わない、毎日家トレをする、を習慣にしています。

A型の特性なのでしょうか、今までの習慣を変えるとドキドキするし、突然の変化はもう恐怖に近かったのですが、コロナ禍で少し変化がありました。それまで目を向けていなかった身の回りの楽しみに関心が行くようになったんです。たとえば植物の栽培。サボテンでさえ枯らしてヘソの緒のようにしてしまう自分だったのが、実家の母が株分けしてくれるバラを育てるようになり、今ではいろいろな種類のバラを眺める生活! お酒の話から始まってしまったので、これで少しオペラ歌手っぽくイメージアップになったでしょうか?!

時代劇や「極妻」のおなじみの展開が好き。
女剣士や姐さんの格好良さにも憧れます

変化が苦手という性質は見るテレビ番組にも表れてしまいます。毎回、おなじみの展開が繰り広げられた末、1話で完結…と言えば、時代劇です。幼い頃、祖父と暮らしていた影響もあり、お気に入りは「剣客商売」です。池波正太郎の小説が原作なので食事のシーンにも興味を惹かれるし、着物を着こなす女性たちのたたずまいも楽しみ。

「極道の妻たち」シリーズも好きですね。こちらも筋がだいたい同じで安心なうえ、独特の言葉遣い、大きなお屋敷でのパーティー、着物の胸元に大きいダイヤのネックレスを光らせる姐さんたちの格好良さが、自分の住む世界とはかけ離れていて憧れました。岩下志麻さんの演じる姐さんや、「剣客商売」で女剣士を演じる寺島しのぶさんのカッコよさには少なからず影響を受けています。『午後の曳航』では初めて母役を演じます。母でありながら恋人をいじらしく待つ女でもある房子の心情は女性ならどなたでもわかるのではないでしょうか? ドイツ語で歌いあげなければならない難しさもありますが、『魔笛』でもご一緒している宮本亞門さんの演出もとても楽しみです。

きたはら るみ ・ 東京藝術大学卒業、同大学院及び二期会オペラ研修所修了後、渡伊。東京二期会には宮本亞門演出『魔笛』侍女Ⅰでデビュー、『外套』『修道女アンジェリカ』主演でも評価を受け、日生劇場『ラ・ボエーム』、東京・春・音楽祭『マクベス』(ムーティ指揮)等にも出演。「サクラ大戦ライブ 2013 紐育星組ショウ」「イノサンmusicale」等、ミュージカルでも活躍。二期会会員