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オペラを楽しむ

『椿姫』出演歌手に聞く

種谷典子・村上公太

『椿姫』出演歌手の素顔

『椿姫』が宝塚歌劇団の原田諒さんの演出により、2023 年7月に上演されます。ヴィオレッタを演じる種谷典子、アルフレード役の村上公太、主役の2人にお話を聞きました。「お好み焼き」が日常にあるという意外な共通点も発覚。舞台上とは違う表情をのぞかせてくれました。

撮影:奥 陽子 取材・文:松野玲子

ヴィオレッタ役を演じる
ソプラノ種谷典子
2023年7月15日(土)、17日(月・祝)出演

休日の楽しみは料理です。広島県出身だからか、「やっぱりお好み焼き?」と聞かれることも多いのですが、やっぱりお好み焼きは大好きです。週に1度は食べたくなってしまいます。
 料理が楽しくなってきたのは、文化庁の研修員としてミラノに行ってからかもしれません。生活費は限られていましたが、野菜は美味しいし、スーパーでは切りたての生ハムやモッツァレラチーズを安く手に入れることができて、食生活は充実していました。
 初心者の頃は2時間くらいかけて料理をしていましたが、今は要領を得て、週末にまとめて買物をし、きんぴらや切り昆布などのおかずを1週間分、作り置きするようになりました。平日も疲れたときこそ、夜中にミートソースを作ったり。いい気分転換になるんです。

料理で体と心をリフレッシュ! 週1で食べたいのはやっぱりお好み焼きです

きちんと食事を摂るうちに疲れにくくなり、食の大切さを実感します。体だけでなく、心も癒してくれるのが食事。そんな体験をロシアでしました。イタリア研修中にひとりでロシアにコンクールを受けに行ったことがあります。やっとの思いで宿にたどり着くと、予約とは違う部屋に通され、諦めきれずに夜中の3時まで交渉。いつもの自分では考えられないくらいまくしたて、精魂尽き果てました。結局、返金してもらい別のホテルをとったのですが、そこでとても親切にしてもらったのです。
 コンクールは残念ながら準決勝で敗れてしまいました。帰りに重い体を引きずりつつスーパーでインスタントチキンスープらしきもの―キリル文字だからなんだかわからなかったので―を買い、ホテルのお兄さんに温めを頼みました。するとチキンスープだけでなく、小さなパンケーキを添えて持ってきてくれたんです。ホロリときました。
 来年は『椿姫』で初めてヴィオレッタを演じます。「歌う前にまず設計。言葉、フレーズをどう描くかを考えること」というイタリア時代に指導してくれたマエストラの言葉を常に意識して、丁寧に楽譜を読んで本番に備えたいと思います。

種谷典子(たねたに のりこ) ソプラノ

国立音楽大学卒業(武岡賞)、同大学院修了(声楽専攻最優秀賞)、新国立劇場オペラ研修所修了。文化庁新進芸術家海外研修制度にてミラノ、ルガーノで研鑽。第91回日本音楽コンクール第2位等、受賞多数。宮本亞門演出『魔笛』パパゲーナで二期会デビュー。来年1月、2022グランドオペラフェスティバルin Japan『フィガロの結婚』スザンナも予定される。二期会会員

アルフレード役を演じる
テノール村上公太
2023年7月13日(木)、16日(日)出演

育ちは埼玉ですが両親が広島出身なのでやきそば入りのお好み焼きをよく食べていました。妻の実家が大阪なので最近は大阪風のほうが食卓にのぼります。麺あり・なしという違いだけでなく、具はもちろん工程やソースも微妙に違いますからね…って、こんなお話でいいんですか(笑)?ソースの話が出たのでお話ししますが、公演で各地に行ったときに気になってしまうのが醤油です。台所には買い集めた醤油がズラッと並び、そのなかでもうちには欠かせない広島の牡蠣醤油は1リットルサイズで幅を利かせています。牡蠣醤油もそうですが、関西から西の甘めの醤油が好みです。刺身用、トンカツ用など、メニューによって使い分けます。トンカツと言えば豚の脂は喉の回復にとてもいいんですよ!家ではトンカツとサムギョプサルをよく作りますね。

演歌やフォークソング、
高音で歌うビジュアル系ロックは原点

休日は5歳になる娘のピアノの練習や遊びにつきあうことが多いです。僕もちょうど5歳のときにピアノを習いたいと親に頼み込み、音楽を志すきっかけとなりました。同じ声楽家である妻はのんきに「うまくなったら譜読みを手伝ってもらいたいな」などと言っています(笑)。
 その後も小、中学校とピアノを続け、高校生のときに初めて観たオペラに感激してこの道を目指したのですが、クラシックひと筋だったかというとそうでもなくて。子どもの頃から父が演歌やフォークソングをよく歌っていたので、一緒に歌うことも多かったですし、ビジュアル系バンド全盛期にはコピーバンドでボーカルやドラムを担当していた時期もありました。様々なジャンルを歌うことで歌手としてのテクニックや表現力が自然と身についていった気がします。
 『椿姫』は日本だけではなく、シンガポールでも演じた、思い入れのある作品です。喜怒哀楽の激しいアルフレードは、共感できる部分もあり、大好きな役のひとつ。宝塚歌劇団の演出家、原田諒さんとご一緒できるということもあり、今から楽しみです。

村上公太(むらかみ こうた) テノール

東京音楽大学声楽演奏家コース卒業、新国立劇場オペラ研修所修了。文化庁在外派遣研修員として渡伊。G・ディ・ステーファノ国際コンクールにおいて『リゴレット』マントヴァ公爵を獲得し出演。東京二期会をはじめ新国立劇場、日生劇場等、国内主要劇場での活躍の他、シンガポールでは『ラ・ボエーム』『魔笛』『サロメ』『椿姫』と数多く客演。二期会会員