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オペラを楽しむ

躍進めざましい2人が登場 『トゥーランドット』の出演歌手をフィーチャー

2020年東京二期会『フィデリオ』レオノーレ(右)
ⓒ西村廣起

イタリア・ルッカの、プッチーニ生家の前で歌う土屋優子。

プッチーニの名作へとナビゲートする両名にご自身のストーリーを語っていただきました。

主役に大抜擢で意気の上がるトゥーランドット役を演じる ソプラノ 土屋優子 2023年2月24日(金曜日)、26日(日曜日)出演

自分以外の人生を演じられる
それがオペラ歌手の醍醐味

 一昨年『フィデリオ』のレオノーレに続いて、憧れの役、トゥーランドットを東京二期会の舞台で演じられることを心からうれしく思っています。実は一昨年にイタリア、パルマ王立歌劇場の子ども向けの舞台で、この役を歌う予定でした。伝統ある劇場の舞台に立てるはずでしたが、パンデミックには勝てず、中止に。そのこともあり喜びもひとしおです。

二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『ジューリオ・チェーザレ』コルネリア(左)。ⓒ 三枝近志

 また、国内公演なので、地元北海道に住んでいる両親を会場に呼ぶことができるのもうれしいです。役が決まった時、本当に喜んでくれましたから。
 歌手になったきっかけは、小学3年生で合唱部に入ったことです。個人レッスンで先生に就きますが、そのうちソロで歌う楽しさに目覚め、音大を志すようになりました。
 今はヴェローナでホームステイをして、地元の人と触れ合いながら生活しています。

トータルで約5年イタリアにいますが、カラっと晴れている日が多く、人もその天候のように気さくでフレンドリー。すぐに知り合いになり、毎日が刺激的です。
 オペラの醍醐味は、自分以外の人生や性格を演じられること。今回のトゥーランドットのように、たくさんの人に求婚されて、気に入らないと処刑をするなんて現実はありえないじゃないですか(笑)。今、ちょうどプッチーニ・フェスティバルに関わっていて稽古が見られるのですが、『蝶々夫人』は耐え忍び待ち続ける女性……。これは私も日本人だからわかります。『トスカ』は好きでもない人に言い寄られ、愛する人と自分の貞節を守るために、その相手を殺してしまう……。気性が荒いというか、刹那的というか。でもイタリアに住んでみて、少しわかるようになりました。とにかくイタリア人は喜怒哀楽が激しく、私もなんらかの影響を受けている気がします(笑)。トゥーランドットは気性が荒いキャラクターも声の強さも求められますが、3幕になると乙女のようにガラっと変わるので、その二面性をうまく演じ分けたいと思っています。
 今後は、イタリアオペラとドイツオペラを両方やっていけるように、ドイツでの生活も視野に入れています。欲を言えば日本とヨーロッパを行き来して、グローバルな歌手活動をするのが夢ですね。

土屋優子(つちや ゆうこ) ソプラノ

武蔵野音楽大学卒業、同大学院及び二期会オペラ研修所修了。第9回マリア・マリブラン国際声楽コンクール(イタリア)オペラ部門第1位等、国内外で多数受賞。『ジューリオ・チェーザレ』コルネリアで二期会デビュー、その後『フィデリオ』に主演。この夏はイタリア、トッレ・デル・ラーゴでのプッチーニ・フェスティバル『トゥーランドット』にも携わる。二期会会員

今年は新国立劇場『さまよえるオランダ人』で題名役に抜擢、絶賛された河野鉄平。歌だけでなくダンスや演技も得意だとか。

今、人気上昇の話題のバス ティムール役を演じる バス 河野鉄平 2023年2月24日(金曜日)、26日(日曜日)出演

アメリカから日本に帰国して10年
これから目指す歌手像とは

 私の父はホテルマンで、いわゆる転勤族。福島で生まれ、大阪で育ちました。幼少期は、「シブがき隊」「少年隊」「光GENJI」といったアイドル全盛期でジャニーズ事務所に入るのが夢でした。ローラースケートも買いましたよ(笑)。
 小学校高学年には、父の仕事の関係でグアム島に。現地校に入学しますが、英語の上達や、他の生徒と親交を深めるため、先生の勧めもあって合唱部に入りました。カトリックの学校でしたが、賛美歌以外にもミュージカル曲やディズニー曲も歌い、楽しい思い出です。入部当初はボーイソプラノでしたが変声期を迎え数日くらいで低い声になり、瞬く間にテノールからバリトンに。

 その後、アメリカ本土の音大に進学。大学院修了後はバリトンとして、少しずつ仕事も増え順調でしたが、ある時、本番で声が働かず、技術でもフォローできませんでした。日々悩み、旧友にフロリダの先生を紹介してもらうことに。その先生は「これまで喉を潰さなかったのが奇跡だ。親に感謝しなさい。技術がないのによくそんな高い声が出せたね!」と一刀両断。摩訶不思議な発声練習が6ヶ月続いた後、先生が「君はテノールかバスだね。君の場合、テノールなら禁酒はもちろん、規則正しい、ストイックな生活をしなくてはならないよ。バスならこれまでの生活でいいけどね」と。テノールには憧れていましたが、間髪入れずバスを選びました(笑)。
 今回のティムールは初役です。不憫な盲目の老人という役どころですが、「深い家族愛」「不幸に翻弄されるドン底人生」「希望の光に向かっていく」という人物像は登場人物の中で最もお客様が共感や感情移入できる役なのでは。
 少なくとも70歳までは歌いたい、演じたいと思っています。好きな人も多いが、嫌いな人も多い、私が好きなチョコミント味のアイスクリームのような、そういう個性ある、息の長い歌手になりたいですね。

河野鉄平(こうの てっぺい) バス

クリーヴランド音楽院、シカゴ芸術大学ディプロマコース及びシカゴ・オペラ・シアター研修プログラム修了。サンフランシスコ歌劇場メローラオペラプログラム参加。23年間の在米の後、セイジ・オザワ松本フェスティバル等に出演。新国立劇場『夏の夜の夢』パックでの身体能力と演劇性が話題を呼び、『さまよえるオランダ人』題名役も鮮烈な印象を与えた。二期会会員