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猪子寿之さんが語るチームラボ×『トゥーランドット』 光が織りなす神秘的なスペクタクル。没入型アートで舞台と客席が一体化

舞台中央の空中に無数の光線が重なり合あって生まれる立体的な“光の彫刻”。不思議な視覚効果に観客は目を奪われる。
ⓒ Magali Dougados, Courtesy Daniel Kramer, Grand Théâtre de Genève, and Pace Gallery

今年6月、ジュネーヴ大劇場でのワールドプレミエで大喝采を浴びた、
新制作『トゥーランドット』。
セノグラフィーを手がけたのは国際的アート集団「チームラボ」です。

東京・豊洲の「チームラボプラネッツ TOKYO DMM.com」は、
水に入るミュージアムと花と一体化する庭園。©チームラボ

猪子寿之さんが率いるチームラボとは

猪子寿之さんは2001 年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にアート集団、チームラボ創業。チームラボは、アーティスト、プログラマ、エンジニア、CG アニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成され、その幅広い活動は国内外で高く評価されている。作品は世界中の美術館に収蔵されているほか、東京・豊洲には没入型のアート空間「チームラボプラネッツ」 がある。

ームラボの代表、猪子寿之さんは、2017年、展覧会を開催していたロンドンのギャラリーを通じ、演出家であるダニエル・クレーマー氏からオファーを受けたと言います。
 「チームラボは光で立体を作り、没入感のある作品を手がけてきたので、オペラの“背景”という二次元的美術に最初はピンと来ませんでした。ただお話をいただいた当時は、光の線で作る“光の彫刻空間”を発展させたいと思っていた時期。ダニエルさんのオペラ×現代のゲームショーというコンセプトのなかで、背景の概念ではなく、光によって客席と舞台の境界を曖昧にした空間でキャストが演じていくのは面白いのではないかと、初めてオペラのセノグラフィーに挑戦しました」。
 6月20日のワールドプレミエは、幕が下りると客席は大歓声に包まれました。
 「ジュネーヴ大劇場の観客は厳しいと聞いていましたからホッとしました。常に『新しいものを取り入れたい』と考える、天才的な演出家ダニエルのおかげで貴重な体験をさせてもらいました。日本公演は2月です。ぜひ、光に包まれ、どこまでが舞台でどこまでが客席かわからない感覚、今までにない空間で物語が進んでいくのをお楽しみください」。

『トゥーランドット』を現場で担当したアートディレクター、アダム・ブースさんに聞く

 今回、ジュネーヴ大劇場で現場作業に携わったのはチームラボの7人のメンバー。現場で指揮を執ったアートディレクターのアダム・ブースさんに、初めて手がけたオペラのセノグラフィーについて、またワールドプレミエの様子、手ごたえなどをうかがいました。

─初となるオペラのセノグラフィーはどのように出来上がっていったのでしょうか?

 正直なところ、私にとってオペラは身近とは言えませんでしたから、宮本亞門さん演出の『金閣寺』などを見て勉強させてもらいました。演出のダニエル(・クレーマー)は、『トゥーランドット』を女性優位のディストピア(反理想郷)における、ゲームショーのように描こうとしていました。司会者とクイズの解答者が向き合い、それを観客が眺めるテレビ番組『クイズ・ミリオネア』がイメージです。ダニエルの要望はただ一言「白」と抽象的なこともありましたが、イメージをふくらませるのは私たちの得意分野です。

─具体的にはどのような構成ですか?

 舞台は回転する2つの側面で構成されています。ゲームショーの場面では、トゥーランドットの謎かけに挑戦する男たちを、女たちが宙に浮いた白い箱から鑑賞します。舞台装置はミニマルに抑え、レーザーによる面を組み合わせて光の彫刻空間を作り上げました。回転するとLEDと鏡を敷き詰めた巨大な三角形の装置が現れます。空間に映像が反射し万華鏡のような効果を生み出すことで、苦悩するカラフの潜在意識を表現しました。

─チームラボといえば没入的なアート体験。今回も観客は没入感に浸れるのでしょうか?

 はい。観客がスタジオでゲームショーを見ている感覚を味わえるように、舞台をはみ出して光の空間が作り出されます。

─初めての試みで難しかったことは?

 レーザーを映し出すスモークのコントロールや、照明との兼ね合いなどでしょうか。レーザーでのセノグラフィーに不安がなかったとは言えませんが、心配していたら思い切った作品はできません。ダニエルも新しいものを取り入れることに積極的です。チームラボも伝統を大切にし、それを新しいデジタル手法で表現するということをしてきました。日本での公演を楽しみにしていてください。

潜在意識を表す、3つの空間に区切られた三角形の装置。鏡に反射した映像がゆっくりと動く様子はまるで万華鏡のよう。
ⓒ Magali Dougados, Courtesy Daniel Kramer,Grand Théâtre de Genève, and Pace Gallery

アダムさんが見どころのひとつとしてあげた、3人の大臣、ピン・パン・ポンの場面。奇異な外見とコミカルな演技、そして歌声が強い印象を残す。

ジュネーヴ大劇場との共同制作
プッチーニ 『トゥーランドット』
(ルチアーノ・ベリオによる第3幕補作版)

オペラ全3幕 日本語字幕付原語(イタリア語)上演
指揮:ディエゴ・マテウス
演出:ダニエル・クレーマー
セノグラフィー、デジタル&ライトアート:チームラボ
ステージデザイン:チームラボアーキテクツ
合唱:二期会合唱団
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
東京文化会館 大ホール

2023年2月 23日(木・祝)18:00、24日(金)14:00
25日(土)14:00、26日(日)14:00