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オペラを楽しむ

『天国と地獄』出演歌手に聞く

高田正人・杉浦隆大

『天国と地獄』出演歌手の素顔

ギリシャ神話のパロディ、オッフェンバックのオペレッタ『天国と地獄』が、鵜山仁氏の演出で11月に上演されます。冥界の神・プルート役の高田正人と、神々の王であるジュピター役の杉浦隆大に話を聞き、舞台上とは異なる“意外な一面”を探りました。

撮影:奧 陽子 取材・文:松野玲子

プルート役を演じる
テノール高田正人
2022年11月24日(木)、27日(日)出演

イタリアに行きたいな〜と最近、しきりに思ってしまいます。留学していた2年の間、車で北から南まで、多くの土地を巡りました。あの頃を思い出しながら、チンクエ・テッレ(リグーリア州の景勝地)で海を眺めて、美味しいワインを飲んでいる自分を夢想しています。

イタリアでの生活にはイタリアらしいエピソードがいろいろあります。僕は駅まで歩いて5分くらいのところに住んでいたのですが、通りで知人に会うといちいち話をするために立ち止まり、駅まで20分くらいかかってしまう。時間はかかるが、人間味がある。

ひたすら感心したのが、女性が「最近、太っちゃって…」と言ったとします。日本だと「そんなことないよ」とか言って慰めませんか? イタリアの男性だと「僕の大好きな君がこの世界に1kg増えたんだね、素晴らしい!」なんです。さすが、Amore(アモーレ)の国です!

キャリア20年の今、コロナ禍をきっかけに
目の前の風景が少しずつ変わってきました

美味しい料理の数々も懐かしいですね。アクアパッツァやポルチーニのリゾットなど、イタリア料理を家で作ることも多いです。特に、コロナ禍になってからは家で料理することが増えました。コロナ禍の生活は悪いことばかりじゃなかったと思います。1歳と5歳になる娘たちとの時間が増えたし、家族でコロナに罹患したときは、映画『タイタニック』で、傾く船の客室で抱き合いながら時を待つ夫婦のような、濃密な連帯感が家族に生まれました。こんなふうに家族との絆を取り戻したお父さんたちも少なからずいたのでは?

仕事を始めて20年経ちますが、目の前の風景が少し変わってきたのは、コロナのおかげもあるのではと、ポジティブに受けて止めています。好きな言葉に、太宰治が『斜陽』の中で書いた「人間は恋と革命のために生まれてきた」という一文があります。自分にとっての革命とは、日常のなかで新しいことを見つけながら、少しずつクリエイティブに変容していくことだと思っています。舞台にも、誰かの小さな革命を助ける力があるんじゃないかと、いつも信じています。

高田正人(たかだ まさと) テノール

東京藝術大学卒業、同大学院修了。伊政府給費生、国際ロータリー財団奨学生としてイタリアで、文化庁新進芸術家在外研修員としてNYで研鑽。近年東京二期会では数多くのオペラ出演のほか、「高田正人のオペラWhy not?」と題したオペラ講座で講師も務める。NHK「ラジオ深夜便」出演や、大河ドラマ「西郷どん」歌唱指導も行う。二期会会員

ジュピター役を演じる
バリトン杉浦隆大
2022年11月24日(木)、27日(日)出演

最近、妻の実家から届く島根県のお米とじゃがいもが美味しくて止められず、また大きくなってしまいました(笑)。メーターが振り切れて正確な体重はわかりませんが、130kgくらいになったかな。ドイツ留学前は、「向こうの人は皆、体が大きいから、自分も目立たないだろう」と思っていたのに、あるコンサート会場で席に座ると、自分が頭ひとつ大きかったことにびっくりしました。

母方は力士の家系ですが、力士は早々に断念。
『もののけ姫』の裏声に夢中な小学生でした

実は母方が力士の家系なんです。小さい頃からたくさん食べていました。その道も考えないではなかったのですが、小学生のときにわんぱく相撲に出て、自分より体の小さい子に投げられたとき、「力士は無理」と確信しました。体は大きくても、気は小さかったんです。

そんな小学生時代に出会ったのが、映画『もののけ姫』。男性が裏声で歌う響きに心を奪われ、風呂の中でよく真似していました。中学生になって合唱コンクールに参加し、短いですがソロパートを担当したのが決定的でした。もう、ひとりで歌うのが気持ちよくて忘れられなくなったんです。とはいえ、高校に進んだときは、「大きな楽器を吹いてみたい」とオーケストラ部に入部。ここで指導をしてくださったOBがミュージカルを目指されていた方で、「歌ってみれば」と先生を紹介されました。当時は「バリトンってなんですか?」と聞いてしまうほど、実はオペラについて無知で、それからCDを聴きまくりました。

推しバリトンですか?マティアス・ゲルネですね。自分とはまた違うタイプのバリトンに惹かれます。彼が歌うシューベルトのゲーテ歌曲集は憧れです。いつか自分のリサイタルで歌いたいなと夢見ています。

1年間のドイツ留学から帰国すると、コロナで身動きができなくなりました。でも仕事のことで焦ることはありませんでした。妻が「急がなくていいよ」とゆったり構えていてくれたおかげですね。また機会ができたら、ドイツでもっと勉強したいと思いますが、次は妻を連れて訪れたいものです。

杉浦隆大(すぎうら たかひろ) バリトン

東京藝術大学卒業、同大学院及び二期会オペラ研修所修了。2018年より1年間、ドイツ、ハンブルクにて研鑽。二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『ジューリオ・チェーザレ』で二期会デビュー。その後多数のオペラに出演、本年4月『エドガール』でフランクを演じ、今後『パルジファル』『蝶々夫人』『天国と地獄』と続けて出演予定。二期会会員