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『天国と地獄』~極上のエンターテインメントをあなたに 指揮者・原田慶太楼さんからの誘い

原田慶太楼
Keitaro Harada

欧米・アジアを中心に目覚しい活躍を続けている期待の俊英。2021年4月東京交響楽団正指揮者に就任。2020年からサヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督。オペラ指揮者としてアリゾナやノースカロライナ、ブルガリア国立歌劇場等でも活躍。バレエ、ポップス、教育プログラム等にも積極的に携わっている。第29回渡邉曉雄音楽基金音楽賞、第20回齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞。
kharada.com / @Khconductor

始まりは『ウエストサイドストーリー』

─注目の若手指揮者として、世界で大活躍されていますね。

 今は、アメリカでとても歴史がある、古い町並みの残る東海岸のサヴァンナという海のすぐ近くに住んでいます。そこを拠点に世界中を飛び回っています。私の家は、1840年代に建てられた家なんですよ。

─音楽家になったきっかけは?

 東京で生まれ、小さい頃から東京のインターナショナルスクールに通っていましたが、姉妹校の高校生が演じたミュージカル『ウエストサイドストーリー』を観て、こんなに面白いものがあるんだと感動しました。もともとは、自分がミュージカルのステージに立ちたかったんです。その時、ミュージカルの作曲家としてのバーンスタインにも感銘を受けたので、演じることから方向転換、ブロードウェイのミュージシャンになって、世界を旅できたらいいなと思ったのがアメリカに行ったきっかけでした。私はマルチ(色々な楽器を演奏できること)なんですが、最初はサクソフォンから始めました。今、考えると『ウエストサイドストーリー』の冒頭のサクソフォンが、DNAに響いたんだと思います。

─今回、初めて東京二期会で指揮をされ、演目は『天国と地獄』ですね。以前、モーツァルトの交響曲のひとつを「ざるそば」にたとえてコメントされていましたが、『天国と地獄』は食べ物にたとえるとしたらなんでしょう?

 この作品の原作は悲劇のギリシャ神話ですが、これは原作とはかなりかけ離れたパロディじゃないですか。ですからたとえるとしたらギャップの激しい食べ物でしょうかね。注文したら全く想像と違う味のものが出てきたみたいな。なんたって原作が悲劇のコメディですからね。お料理番組(舞台)で食べてみたら塩(悲劇)と砂糖(喜劇)を間違えていたような感じでしょうか(笑)。これこそ、オッフェンバックの世界だと思います。

─オペラの指揮ではどういった点に留意していますか。

 オペラはそれぞれの演出家が異なる演出をしますよね。今回のようなコメディでも演出家によって全く違うカラーになります。ですから演出家の意図をきちんと理解してリスペクトし、それを音楽でサポートするのが私のポリシーですね。曲自体は変わらないわけですから、その演出にふさわしい音楽作りをすることを大切に考えています。だから自分自身も常にフレキシブルでなければと思っています。

良質のコメディほど難しいものはない

─今回の演目に関してはどうですか?

 コメディは本当に難しい。だからやりがいがあるといえます。ここで絶対笑いが起きると想定していたのに、ノーリアクションだったり、逆にお客さんが笑いたかったのに、間を取らず音楽が先走ってしまったり……。今回は日本語での上演という点もとても楽しみにしています。以前、『魔笛』を日本語、しかも関西弁で上演したことがあり、とても楽しかった思い出があります。ですから今回もとても上手くいく確信があり、絶対やりたいと思いました。

─ところで原田さんは多彩な才能に溢れ、フォトグラファーとしての顔もお持ちだとか。

 以前は、撮った写真を飛行機雑誌に連載していました。(飛行機とオーケストラの「ピット」を掛けて)私がオーケストラピットから写真を撮って、ピット内で私しか見ることができない光景を載せていました。

フォトグラファーとしての顔も持つ
原田さんの作品「Donna Elvira」。

─今、飛行機のお話が出ましたが、世界中を飛び回っている原田さんとしては、移動中の機内やプライベートではどのように過ごされていますか。

 私は「ルーティーン人間」なんです。ですからどこにいてもだいたい朝の4時に一日をスタートします。計画性を重んじ、カレンダーやノートに手書きで予定や、やらなくてはいけないことをびっしりと書く癖がついています。年間、日本国内だけでも40〜50の演奏会をこなしますが、ツアーやシリーズ公演を除いて、1年で2回同じ曲を演奏することはまずありません。勉強しなくてはならない曲が膨大なのです。そのため、きちんとプランニングせず、ぎりぎりになって焦るというのがとても嫌なんです。元来、そういう性格なんでしょうね。普段、映画館に行く時間が取れないので、機内では大好きな映画を見たり、ストレッチをしたり、スコアの勉強をしたりしています。読書も大好きですが、今は飛行機でもインターネットが繋がり、次々とメールが来るのでゆっくり本も読めないですね(笑)。本は特に伝記をよく読みます。亡くなる数ヶ月前のコンサートで私が指揮をしたアレサ=フランクリンをはじめ、マイルス・デイビス、そしてスティーブ・ジョブスの伝記はさすがだと思いましたね。最近は、オーディオブックでベートーヴェンの伝記を聴きながらジョギングをしています。ジャンルとしては基本的にノンフィクションが好きですね。だから時差ぼけで眠れないときはあえてフィクションを読みます(笑)。

─最後に舞台を楽しみにしているお客様にひと言お願いします。

 『天国と地獄』は、オペラ初心者や初めての方にもぴったりな演目だと思います。初演から数多く上演され、その後も進化していった名曲です。初演以来、ずっと愛され続け、愛されなかったことがないオペレッタ。そして前にも後にも唯一無二のジャンルを作った作曲家、オッフェンバックの作品。今、こういう厳しい時代に、2時間だけでも極上のエンターテインメントに浸り、芸術に抱きしめられてみてはいかがでしょう。

オッフェンバック 『天国と地獄』

オペレッタ全2幕
日本語訳詞上演(歌唱部分日本語字幕付)
指揮:原田慶太楼
演出:鵜山仁
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
日生劇場

2022年11月 23日(水・祝)17:00
24日(木)14:00
26日(土)14:00
27日(日)14:00