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『パルジファル』出演歌手の素顔

伊藤達人・加藤宏隆

『パルジファル』出演歌手の素顔

宮本亞門演出による新制作、ワーグナー最後の大作『パルジファル』に出演予定の歌手から、題名役の伊藤達人と老騎士グルネマンツ役でワーグナーに初挑戦となる加藤宏隆、このふたりのインタビューをお届けいたします。

撮影:宮川 久 取材・文:此花 藍 
撮影協力:芝パークホテル

コロナ禍で公演延期により空いた期間は、思いのままに漫画やアニメ漬けの毎日を送っていたそう。おすすめの漫画&アニメは女性武器商人が主人公の作品『ヨルムンガンド』。

パルジファル役を演じる
テノール伊藤 達人
2022年7月14日(木)、17日(日)出演

「ヒーロー役だけでなく
キャラクターにも挑戦していきたい」

─ 「いつもリュックに数冊入れている」という漫画本を手に現れた伊藤達人。合唱王国・福島県が生んだ気鋭のテノールは今、舞台が続き忙しい毎日を過ごしているようだが、漫画やアニメの話題満載で茶目っ気たっぷりに舞台への想いを語ってくれた。

  高校時代から合唱をやっていたのですが、楽しいことで生計を立てられたらいいなと思って藝大を目指してみようかなと。僕は子どもの頃から漫画やアニメが大好きなんですが、藝大受験の時には、その頃教わっていた80歳近いおばあちゃんのピアノの先生に『のだめカンタービレ』(講談社/二ノ宮知子作)を薦めてもらい、漫画を読んで音大生活のイメージを膨らませつつ頑張りました。

 僕はヘルデンテノール(力強さのあるテノール)の中でもユーゲント、例えばローエングリンやパルジファルのような役を専門にしていきたいと思っています。でもそういうヒーロー役だけでなく、僕にしかやれないような濃いキャラクターの役にもとても魅力を感じていて、両方挑戦していけたらなあと。以前、父の日に『ヘンゼルとグレーテル』の舞台で魔女役をやったことがあるのですが、メイクをして網タイツに厚底ブーツを履き192センチの大女になって登場したので、観劇に来た父も苦笑していました(笑)。漫画やアニメと同じように、普通に生きていたらありえない世界を作れることは本当に幸せ。自分じゃない自分になれるのが楽しいですね。

 このところコロナ禍で延期になった舞台の影響でスケジュールが詰まっており、暗譜やドイツ語の勉強に追われていて、のだめのような耳があったらドイツ語なんてすぐペラペラになるのにって思います(笑)※。『パルジファル』も大作なので正直、準備は大変だと思いますが、初めての方にもヒーローとして感情移入してもらえるように演じられたら。観に来た方が日常を忘れてその世界に浸っていただけるような舞台にしていけたらいいなと思っています。(談)

※『のだめカンタービレ』にて、主人公のだめは耳がいいので、大好きなアニメ『プリごろ太』のフランス語版を見て、短期間でフランス語をマスターする。

2016年 東京二期会オペラ劇場『ナクソス島のアリアドネ』ブリゲッラ役(左)
ⓒ三枝近志

伊藤 達人(いとう たつんど) テノール

東京藝術大学卒業、同大学院及び新国立劇場オペラ研修所修了。文化庁在外研修員としてベルリンにて研鑽。近年の主な出演には日生劇場『魔笛』『ヘンゼルとグレーテル』、新国立劇場『夜鳴きうぐいす』『ニュルンベルクのマイスタージンガー』等があり、東京二期会では『ナクソス島のアリアドネ』ブリゲッラ、『清教徒』(演奏会形式)ブルーノを演じ、好評を得ている。二期会会員

お酒は基本、毎日たしなむ。街の散歩や自転車、古着など、プライベートでは多趣味。今も週2回はX JAPANを聴きジャズも大好き。ジャズ好きもYOSHIKIさんの影響なのだとか。

グルネマンツ役を演じる
バス・バリトン加藤 宏隆
2022年7月13日(水)、16日(土)出演

「ワーグナーは壮大な音の構築物
 ターニングポイントとなる舞台に」

─ クールな外見と、淡々と落ち着いた無駄のない語り口。もし彼がオペラ歌手だと知らない人ならば、IT系や建築業界のビジネスマンといった印象を受けるかもしれない。そんな加藤宏隆をクラシックの世界へと導いたのは意外な人物だった。

 音楽をやろうって決めたのは、小学校6年生でX(現在のX JAPAN)の「Silent Jealousy」っていう曲を聴いたとき。もう 「これだ!」と思ってハマっていったんですが、(音楽誌の記事か何かで)YOSHIKIさんが「音楽の基本はクラシックだからクラシックを勉強しなきゃ」みたいなことを語っていて、「そうか!」と思ってクラシックを聴くように。そのうちなんとなくオペラにも興味を持つようになっていきました。

 藝大を卒業しても自分の適性があまりよく分からなかったのもあって、とにかく思い切り勉強できる場所へ行きたいと思い、留学先にはアメリカを選びました。アメリカにはトータルで7年間いましたが、クラシックを歌っている人が週末はバーでジャズを歌っていたりして、ボーダーレスな感じがあるのも面白かったですね。

 そろそろ日本でのキャリアを築かなければと思い、2011年に帰国し、帰国後の10年間は、オペラ以外では主にバロックに取り組んできました。僕は自然も好きですが人が作ったもの、特に建築などを見たりするのが大好きなんです。バッハなんかは音が構築物みたいに聴こえたりするので、そういうところがすごく好きなんですよね。

 この『パルジファル』は僕の初めてのワーグナーです。ワーグナーも壮大な音の構築物という感じがするので、ずっと頭のどこかでやりたいなと思っていました。40代に入って発声技術にもそろそろ自信がついてきましたし、こういう形でかかわらせていただけて本当に楽しみ。できたらこの先 10年くらいかけてワーグナーをじっくり極めていけたらと思っています。(談)

2018年 東京二期会オペラ劇場『魔弾の射手』カスパル役
ⓒ三枝近志

加藤 宏隆(かとう ひろたか) バス・バリトン

東京藝術大学卒業、ジョンズ・ホプキンス大学ピーボディ音楽院修士課程、インディアナ大学ジェイコブズ音楽院ディプロマ課程修了。フィレンツェでも研鑽。米国では多くのオペラで活躍、各紙で好評を得る。アスペン音楽祭にも参加。帰国後も東京・春・音楽祭、日生劇場等に数多く出演。近年東京二期会では『後宮からの逃走』オスミン、『ファルスタッフ』ピストーラ等を演じる。二期会会員