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オペラを楽しむ

『ファルスタッフ』で主演を務める黒田博の私と二期会

間もなく創立70周年を迎える二期会は、2700名もの歌手が所属するオペラの殿堂。
名実ともにトップクラスのひとり、バリトン黒田博が二期会の思い出を語りました。

二期会のオペラデビュー

初舞台となった1992年の『ラ・ボエーム』。同い年のテノール福井敬もロドルフォ役でデビューした。
©︎鍔山英次

若き日の思い出の舞台

2002年の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より。ハンス・ザックス役は、その後の歌手人生の転機となった。
©︎鍔山英次

「役柄がオペラ歌手としての私を育ててくれた」黒田博

 「子どもの頃、立川清登さん、島田祐子さんなど往年の二期会の大スターがよく音楽番組に出演、輝いていました。母が音楽教師で、そうした番組を見る機会も多く、声楽家は二期会の人だと刷り込まれていました」と語る黒田博。「上京し、歌手になるなら他の団体という選択肢もありましたが、当時の私は、モーツァルトが合っていると感じていたので、迷うことなく二期会に入りたいと思いました」。

 入会当時の印象は「まだ創設理念が残る二期会をぎりぎり知っている世代でしょうか。当時、舞台出演が歌手としてのステイタスを上げ、社会に認識されるのだと思っていましたから、オペラは手弁当でやるもの、と考えていました。今は当時に比べると出演料も上がりました。歌い手の意識も変わり、立ち稽古もしばらくの間は楽譜を持ちながらが一般的でしたが、現在は立ち稽古初日に楽譜を持つ者はいません。色々な意味でプロ意識が高くなったと思います」。

 デビューは二期会創立40周年、1992年の『ラ・ボエーム』ショナール役。現在、新国立劇場のオペラ芸術監督である大野和士指揮、栗山昌良演出でした。「栗山先生は厳しい方でしたが、舞台人として多くのことを教えていただきました。緊張しましたがのびのびと歌えましたし、錚々たる顔ぶれと同じ舞台に立てたことは良い思い出です」。

名演出家との出会い

2008年の『エフゲニー・オネーギン』。コンヴィチュニーの演出に大きな衝撃を受けた。
©︎鍔山英次

宮本亞門演出の舞台にも多数出演している。2015年『魔笛』ではパパゲーノ役を務めた。
©︎三枝近志

 長い歌手人生で印象的な舞台のひとつは、創立50周年の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』だそう。「30代の終わりにハンス・ザックス役をいただきました。2年がかりでやらないとできない大役と言われ、出番も多く、非常に難しい役でした。それでも立ち稽古初日に楽譜を持たないで挑もうと思い、先輩がその様子を見て驚いていました。若さもありましたが『迷った時は前へ!』という勇気を与えてくれました。〝役が私を育ててくれた〟ありがたい経験です」。

 東京二期会では今期、宮本亞門演出『魔笛』、 コンヴィチュニー演出『影のない女』も予定。黒田は過去二人の作品に主演しています。「コンヴィチュニー演出『エフゲニー・オネーギン』では劇中、華やかなポロネーズに合わせ、決闘で殺してしまったレンスキーの亡骸を抱き上げて踊るシーンがあり、胸がドキドキするほど強烈でした。今でも曲を耳にするとその場面が蘇ります。亞門さんには、オペラ以外の舞台にも出演させていただきました。オペラ歌手も関係なく動きの要望が多いのですが、やらないことにはオペラ歌手の名がすたる!と、自宅で必死に練習しました。ある時、リハーサルの休憩中に亞門さんから『黒田さんって本当にオペラ歌手なの?』と。私は最高の褒め言葉を頂戴したと思っています」。

 7月『ファルスタッフ』では、題名役を務める黒田。「ヴェルディはこの喜劇を作曲している時、楽しかったのでは、と想像します。劇中の十重唱は聴衆をわくわくさせますし、ソロの旋律も素晴らしい。主人公は懲らしめられるけど哲学的で、魅力ある人物。こんなおじさんになれたなら運河に沈められてもいいかも、と思えてきます(笑)。ぜひ、劇場に足を運んでください」。

黒田 博(くろだ ひろし)

京都府出身。京都市立芸術大学卒業。東京藝術大学大学院修了後渡伊。幅広いレパートリーで、これまでに東京二期会『ドン・ジョヴァンニ』題名役や新国立劇場『鹿鳴館』影山悠敏伯爵等で絶賛される。近年東京二期会では『フィガロの結婚』題名役、『蝶々夫人』シャープレス、『フィデリオ』ドン・フェルナンド等を演じる。国立音楽大学教授。二期会会員

ヴェルディ 『ファルスタッフ』

オペラ全3幕 日本語及び英語字幕付原語(イタリア語)上演
指揮:レオナルド・シーニ
演出・衣裳:ロラン・ペリー
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
東京文化会館 大ホール

2021年7月

16日(金)18:30
17日(土)14:00
18日(日)14:00
19日(月)14:00