TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

『魔笛』を彩る女性たちが母娘を語る

超絶技巧を要するあの有名なアリアで夜の女王が娘パミーナに訴えるのは、「憎きザラストロを殺せ! 殺さないなら縁を切る!」という衝撃的な内容だ。この母娘を演じる女性歌手4人に、強烈な母親キャラ・夜の女王についての印象や作品の魅力について話を聞いた。

夜の女王役

安井 陽子

Yoko Yasui

ソプラノSoprano

Profile

桐朋学園大学卒業、同研究科修了。二期会オペラ研修所修了後、文化庁在外研修員として渡墺、ウィーン国立音楽大学研究課程修了。コロラトゥーラの見事な歌唱と豊かな表現が絶賛され、当役は東京二期会だけでなく、新国立劇場、日生劇場等国内外問わず様々な舞台で披露している。東京二期会には2013年『ホフマン物語』オランピア以来の出演となる。二期会会員

Message

●作品の魅力 序曲からフィナーレの最後の音に至るまで、どこを聴いても音楽が素晴らしいです。まさに魔法の音楽!

●夜の女王役について 最初に取り組んだのは24歳の試験の時。毎日毎日練習して、やっと“3点F”が出せた瞬間のことを今でも覚えています。私をコロラトゥーラの世界へと導いてくれ、あらゆることを教えてくれた偉大な役です。今でも歌うたびに新しい発見があります。

●母としての夜の女王 (彼女は)かなり強烈ですよね! こんな母親は嫌です(笑)。私自身は子ども達から「面白くておっちょこちょいの優しいアンパンマン」と言われます。また、深夜まで起きて家事などをしていると、夫に「夜行性の女王」とからかわれたりすることも(笑)。

●タミーノ役について もしも娘がこんな理想的な男性を連れてきたなら、目がハートになりつつニコニコと「うんうん! いいよいいよ!」と何でも許してしまいそう。自慢の息子よ、ウェルカム!

●読者の皆様へ 天才モーツァルトが作り上げた宝箱のような『魔笛』は、私が一番最初に聴いたオペラであり一番好きなオペラでもあります。(『魔笛』の)異空間で素敵な時間を過ごしていただけるよう私も全力で稽古します! ご一緒にモーツァルトワールドを堪能しましょう!

夜の女王役

高橋 維

Yui Takahashi

ソプラノSoprano

Profile

東京学芸大学卒業、同大学院及び東京藝術大学大学院修了。二期会オペラ研修所修了 (奨励賞、優秀賞)。五島記念文化賞オペラ部門新人賞により渡墺。二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『ジューリオ・チェーザレ』クレオパトラで二期会デビュー後、様々な演目に主演。2015年『魔笛』東京初演で夜の女王を演じた。本年11月『こうもり』アデーレも予定される。二期会会員

Message

●作品の魅力 『魔笛』はどのナンバーもキャッチーで大好きです! ストーリーや設定に謎な部分が多いのも魅力の一つかなと思います。

●夜の女王役について 東京初演時に亞門さんは「夜の女王は美しくて魅力的な人だ」とおっしゃっていて、パミーナのような年齢の娘がいる女性をどのように演じたら良いか迷っていた私にとって大きなヒントになりました。今回も、ただインパクトがあって怖い女王ではなく特別に美しく人知を超えた存在として、夜の女王を演じたいと思っています。

●母としての夜の女王 パミーナのためならどんなことでもできるくらい愛しているから、彼女にも同じ熱量で自分を愛して行動して欲しい。そんな気持ちが「夜の女王のアリア」の裏側にあるような気がします。娘を自分の分身のように思っているのかも。

●タミーノ役について 夜の女王は、タミーノの純粋でまっすぐなところが利用しやすいと考えたのではないでしょうか。もしかしたら他にもタミーノのような王子の候補がいたかもしれないと想像しています。

●読者の皆様へ 『魔笛』の面白さを最大限引き出した亞門さんの演出は必見です。2015年の東京初演からパワーアップした高橋維を観ていただけるように頑張ります。ご来場お待ちしております!

パミーナ役

嘉目 真木子

Makiko Yoshime

ソプラノSoprano

© T.Tairadate

Profile

国立音楽大学卒業、同大学院修了。二期会オペラ研修所修了(優秀賞)。文化庁在外研修員として渡伊。東京二期会では様々な役で出演、2015年 『魔笛』東京初演でもパミーナを演じた。フランス国立ラン歌劇場との共同制作『金閣寺』(宮本亞門演出)ではフランスデビューを飾った。「第九」等でも活躍の他、NHKニューイヤーオペラコンサートにも出演。二期会会員

Message

●作品の魅力 ファンタジーのひと言では片付けられない深さを持った作品だと思います。生きるとは、人間とは、愛とは何なのか。それを学んでいくそれぞれのキャラクターの成長物語のように思います。

●パミーナ役について 「パミーナは決して弱い女性ではない」ということを前回の舞台で亞門さんともお話ししました。河のように、美しいだけでなく醜いものも受け入れながら浄化する力のある人。そんなイメージを持って演じたいです。

●母としての夜の女王 「子どもは親の所有物ではありません!」と言いたくなりますね。愛情の表現が歪んでいる人。キャラクターとして常に劇的に登場するところはワクワク感を煽られるので好きです(笑)。

●タミーノ役について 理想的なヒーロー像でありながら、苦悩していたり蛇にやられそうになって気を失ったりと、カッコ悪いところも持っているというのが、ますます好感度大! 自分の恋人だったら弱さを支え、強さに甘えたいです。娘の結婚相手だったら…。うーん、もう少しだけ強い人だと安心できそうです(笑)。

●読者の皆様へ キャラクターの悲喜こもごもに身を委ねてみてください! きっと現実世界でも少し人に優しく接したくなると思います。

パミーナ役

盛田 麻央

Mao Morita

ソプラノSoprano

Profile

国立音楽大学卒業、同大学院フランス歌曲コース修了。二期会オペラ研修所修了(奨励賞、優秀賞)。パリ・エコール・ノルマル音楽院首席卒業、パリ国立高等音楽院修了。第17回日仏声楽コンクール第1位及び竹村賞。第12回東京音楽コンクール第2位。東京二期会では昨年『メリー・ウィドー』ヴァランシェンヌを演じ、それに続く出演。二期会会員

Message

●作品の魅力 『魔笛』の中には様々な愛の形が描かれていて、それぞれの心の中を覗き見ることができるのが楽しいです。童子とパミーナの四重唱で、美しい童子たちのハーモニーの中から切なく美しいメロディが浮かび上がってくるところが特に好きです。

●パミーナ役について パミーナ役は周りからの予期せぬ刺激が多過ぎて、歌っていると心や頭の中がぐるぐると混乱してしまいます。でも信じる心を持っているパミーナを見習って、私も刺激に打ち勝って成長していきたいと思っています。『魔笛』は今までで一番歌う機会が多かったオペラ。また新たな『魔笛』と出会えることを本当に楽しみにしています!

●母としての夜の女王 親が子離れすることは本当に大変なんだろうなと日々思います。子どもは色々なことを吸収してみるみる大きくなっていきます。それに少し寂しさを感じてしまうところは、(私も)夜の女王とも似ているのでしょうか…。

●タミーノ役について タミーノは会ったことのない人を絵姿で好きになれてしまう。娘のお相手にはすすめたくないですね(笑)。

●読者の皆様へ お客様がふと気づくと、コロナ禍の日常から『魔笛』の世界へと入り込んでいた… そんな公演になるよう稽古に励みます!

人物相関図

構成:田中庸子

モーツァルト 『魔笛』

オペラ全2幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
指揮:ギエドレ・シュレキーテ
演出:宮本亞門
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
東京文化会館 大ホール

2021年9月

8日(水)18:30
9日(木)14:00
11日(土)14:00
12日(日)14:00