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オペラを楽しむ

『こうもり』キャストインタビュー

加耒 徹・斉木健詞

『こうもり』出演歌手の素顔

ワルツ王ヨハン・シュトラウスⅡ世が手がけたオペレッタ(喜歌劇)の傑作『こうもり』。
東京二期会の十八番であり、オペラビギナーにもわかりやすく楽しめる演目のひとつ。
大舞台では初めてオペレッタに臨むという、加耒徹と斉木健詞が歌への想いを語る。

撮影:佐藤久 取材・文:吉浦由子
撮影協力:ザ・プリンス パークタワー東京

「アビスパ福岡」の特注ユニフォーム(背番号51は5月1日の誕生日から)に身を包み、国歌独唱の幸せな時間を興奮して語る加耒。さすがにその際は燕尾服で登場したそう。

ファルケ役を演じる
バリトン加耒 徹
2021年11月26日(金)、28日(日)出演

「サッカーの応援は、音楽に大切な日常
自然体で臨み、最高のパフォーマンスを発揮」

─ 今年、Jリーグ「アビスパ福岡」の開幕戦で念願の国歌独唱を果たした加耒徹。クラブから直々にオファーをもらえたという経緯を尋ねると、「長年、猛アピールを繰り返した作戦だった」とニヤリ。冷静沈着に計画を練り実行するファルケがそこにいた。

 幼少期から楽器に親しみ、音楽は身近なものでした。母が声楽をやっていた縁もあり、歌はその人にしかない楽器、自分の声を生かせる仕事は貴重だなと思い、この道へ。でも人前で歌うの苦手だったんです(笑)。転機は大学院生のオペラに参加できるオーディションに合格したこと。学部生からしてみたら別次元のキャストが揃っている中、人と芝居をやる楽しさを知り、本気でこの道を目指そうと思いました。今はバロック時代のレパートリーがメインですが、これもちょっとした縁。巡り合わせで人との出会いがあるのも音楽の魅力。タイミングよく前向きに考えられたのが今につながっているのかもしれません。根はネガティブな性格で、昔は人の目も気になり、よく見せたいという意識にとらわれていました。でもバロック時代の楽譜には装飾など多くの情報は記されていないから、音楽ってこんなに自由でいいんだと。肩の力が抜け、自然体で歌えるようになりました。経験は大切。音楽だけの人生で終わるよりいろいろなことに興味を持っていたい。私にとっては、それがまさにサッカーで、「アビスパ福岡」の熱狂的サポーターです。音楽にはない勝負の世界に刺激を感じています。オペラもチームスポーツでメンタル面は共通。ひとつネジが外れるとズタボロだし、ミスを怖がってプレーしてもうまくいかない。

 『こうもり』は学生時代にアイゼンシュタイン役を演じています。演出家から「君は絶対ファルケだよ」と打ちのめされたのが心に残っていて、いつかはやるべき役だろうなと思っていました。ファルケは冷静沈着で人をだます。でも悪役ではなく、みんなが幸せになるためのいたずら作戦。その奥に秘めたかわいさを、出していきたいです。(談)

加耒 徹(かく とおる) バリトン

福岡県出身。東京藝術大学卒業、同大学院首席修了、同声会賞及び大学院アカンサス賞。二期会オペラ研修所修了(総代、最優秀賞及び川崎靜子賞)。近年東京二期会では『ナクソス島のアリアドネ』『金閣寺』に出演、正統派からコミカルな役まで好演。またバッハ・コレギウム・ジャパン声楽メンバーとして海外ツアー、録音にも参加し、ソリストも数多く務める。二期会会員

イタリア研修中、毎日のように食べていた生ハム。家庭用の生ハムスライサーを購入したこともあり、ついには1か月熟成させて手作りしたそう。何事にも丹念に取り組む真摯な姿がこんなところでも。

フランク役を演じる
バス斉木 健詞
2021年11月25日(木)、11月27日(土)出演

「楽譜に書かれていることをきちんとやる。観客に感動は必ず伝わります」

─ 「インタビューは初めてで緊張しています」と現れた斉木健詞。バスならではの重厚な声の響きに感動しつつも、どっしりと構えた威厳ある役柄のイメージが強いためか少々意外。でも生真面目で何事にも真剣に取り組む姿勢を垣間見ることができた。

 大舞台でのオペレッタは初めて。東京二期会、大丈夫か?と(笑)。だって『魔笛』(9月公演)の神々しいザラストロ役の後に、『こうもり』のとぼけた刑務所長フランク役ですからキャラが違いすぎるでしょ。気持ちの切り替えはすんなりできますが、作曲家や時代、役柄によって声がまったく違うから体には気を遣います。両者の声の聴き比べもオペラの楽しみ方のひとつかも。自分では気づいていない能力を引き出し、導いてもらえるからいろいろ挑戦したいです。音大に入学してすぐに『魔笛』の公演に出る機会があり、合唱はもちろん、搬入・搬出、調光室で照明合わせの手伝いなどあらゆることをやりました。大先輩を間近で見てチームワークで作り上げた経験がオペラにはまった理由です。さらに思い出話をすると、大学図書館でドミンゴの指揮する『こうもり』を観たんです。3時間、ゲラゲラ笑いっぱなしで引き込まれました。楽譜に書かれていることを100%再現すれば、観衆は必ず笑ってくれる。感動がきちんと伝わる。役を自分のものにするために入念な準備を。これが僕のアプローチの仕方です。ギャグセンスはないから台本よろしく! ついでに早く 欲しいです(笑)。

 小粋なユーモアが散りばめられ、歌もセリフも重要なオペレッタはやりがいがあります。僕なりのフランクで、大いに笑ってもらえたら。オペレッタの楽しさを観衆に伝える使命感に燃えてます!どんな役でも存在感を示したい。いつかは『ドン・カルロ』のフィリッポII世を演じたいですね。

 験担(げんかつ)ぎは入り時間よりも早めに劇場に入ること。そして舞台の中央に立って劇場の神様に公演の成功を祈ります。(談)

2018年東京二期会オペラ劇場『後宮からの逃走』オスミン役
© 三枝近志
超早口と超低音の難役。豊かな声で存在感を示した。

斉木 健詞(さいき けんじ) バス

国立音楽大学卒業、同大学院及び二期会オペラ研修所修了。文化庁在外研修員として渡伊。東京二期会での出演はもちろん、新国立劇場『カルメン』『アイーダ』、日生劇場『フィデリオ』『ドン・ジョヴァンニ』、びわ湖ホール「ニーベルングの指環」、兵庫県立芸術文化センター『トスカ』『椿姫』等で公演成功に寄与。「第九」等のソリストでも評価を得る。二期会会員