TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

『魔笛』キャストインタビュー

萩原 潤・近藤 圭

『魔笛』出演歌手の素顔

『魔笛』の登場人物の中でも抜群にチャーミングなキャラクターで聴衆から愛されるパパゲーノ役を演じる萩原潤と近藤圭。各々の個性が発揮されるWキャストゆえの面白さは見どころのひとつ。ふたりの人柄をのぞいてみよう。

撮影:佐藤久 取材・文:吉浦由子

インタビュー中もひたすら巨人話で大盛り上がり。『魔笛』の話は正味5分程度?(笑)で、巨人愛にあふれています。

パパゲーノ役を演じる
バリトン萩原 潤
2021年9月8日(水)、11日(土)出演

「オペラ歌手としての引退試合は―
東京ドームでの独唱が果たせたら本望です」

─ 職業は巨人ファンと公言するほど巨人愛全開。ドイツにいても日本シリーズ観戦のためだけに帰国していたと語る萩原潤。仕事でクタクタに疲れていても巨人の勝利で瞬時に元気パワー注入。歌への活力、楽しい人生の原動力となっているそうだ。

 地元の大学に進学し音楽教師になる予定でしたが、選択肢が広がることもあり藝大に。吹奏楽をずっとやっていたので自信はあったけど鼻をへし折られました。劣等感でしょぼくれた時期もありましたが、優秀な同級生と同じレベルにはなりたいと努力しました。

 宮本亞門さんとの初舞台は『フィガロの結婚』の伯爵役。亞門さんは威厳ある伯爵像をイメージしていたけど、僕はどうしてもフレンドリーな雰囲気が出てしまう。絶対的な強さを持つ人間、伯爵は孤独なんだからと、稽古場で話すことを禁止されたんですよ。でもね、日が経つうちに威厳どころか元気がなくなっていてね。「君の性格を見誤った。もし将来、僕が『魔笛』を演出して君がパパゲーノ役をやることがあれば自由にしていいから、お願いだから伯爵だけは言うこと聞いて」って(笑)。亞門さんの演出は一般的な解釈と真逆のとらえ方をするシーンもあって、刺激的でおもしろいです。

 職業は巨人ファンです。稽古着はもちろん20枚ほど持っている巨人軍Tシャツで、初日は必ず背番号3を着用します。ミスターは神様、験担ぎです。夢は東京ドームでの日本シリーズ試合前セレモニーで国歌を独唱すること。もうその願いが叶ったら、オペラ歌手を引退してもいい。有終の美です。

 パパゲーノのパンフルートはドイツ・バロック様式パイプオルガンの製作者として世界的に知られる横田宗隆さんに作っていただいた宝物。1本のクルミの木をくり抜いて仕上げ、文献を参考に『魔笛』が作られたウィーン時代のピッチ(基音)に調律されているんです。パパゲーノお手製の笛感を出すために、音程ずらしたりして演じています。素晴らしい音色ですのでお楽しみに。

(左)動き回るパパゲーノのために、硬いクルミの木をくり抜いて5本の管を束ねたように仕上げたパンフルート。(デザイン:横田宗隆 製作:加藤万梨耶)
(右)松井秀喜のホームランカードはすべて収集。

萩原 潤(はぎわら じゅん) バリトン

東京藝術大学卒業、同大学院及び二期会オペラ研修所修了(優秀賞)。ベルリン・ハンス・アイスラー音楽大学大学院で学ぶ。ラインスベルク音楽祭『セビリャの理髪師』フィガロに抜擢され、以降ドイツを拠点に欧州で活動。これまで宮本亞門演出のオペラに数多く出演しており、『魔笛』パパゲーノ、『フィガロの結婚』伯爵及び題名役等を演じる。二期会会員

パパゲーノ役は何度も演じていますが、宮本亞門さんとの初舞台に興奮しています。

パパゲーノ役を演じる
バリトン近藤 圭
2021年9月9日(木)、12日(日)出演

「鳥も一生懸命練習して日々上達。その姿に、よし今日も頑張ろうって!」

─ 自然に囲まれて暮らすのが大好きな近藤圭。散策中に出合った鳥を自分と重ね合わせるエピソードはユニークだが、歌に対する真摯な姿勢がうかがえる。ご褒美飯は郷土の信州そば。いまはなかなか長野に帰れず、お気に入りの店に行けないと嘆く。

 趣味のない男なのですが、長野で育ったので自然に惹かれます。ドイツにいた時も田舎の藁葺き屋根の家に住んでいました。いまは神奈川で、家の裏には小さな山がありよく散策に出かけます。15分ほど登れば東京を一望できる風景が広がり気持ちいい。タヌキと遭遇したり野鳥のさえずりを耳にしたり。すごく下手な歌を奏でる鳥がいてね。でも一生懸命練習して、徐々にうまくなっていくんです。鳥は最初からうまいと思っていたからおもしろい発見でした。僕も器用な方ではなく、日々鍛錬を積み重ねているので励みになります。

 クラシックの音楽が流れる家庭でしたので指揮者に憧れました。高校時代に声がいいからとすすめられて歌を始めましたが、日本人にオペラは難しいという固定観念があって興味はなかったです。でもある舞台を観劇して、日本人だからこそできる演出に感動。デビューの『ドン・ジョヴァンニ』では、なんだこの楽しさは、もうこのまま死んでもいいやと思ったくらいのトランス状態でオペラの世界から抜け出せなくなりました。

 宮本亞門さんとは初めて。東京での初演を観て斬新な演出に釘付けになったのでいまからワクワクしています。パパゲーノはおばかちゃんな人物像と思われがちですが、初演でパパゲーノを演じたのは台本を書いたエマヌエル・シカネーダー。彼は世の中の悪いところもよいところもすべて知っている。だから彼の憧れる人物がパパゲーノなのではないかと想像を巡らせて演じています。萩原さんの愛らしいパパゲーノは何度も観ていて勉強させてもらっています。僕なりの個性が表れるパパゲーノを心から楽しんで演じますので期待してください。

オペラの魅力に開眼したという作品『ドン・ジョヴァンニ』。2011年東京二期会ではマゼット役(左)を務め、豊かな表現力で絶賛された。

近藤 圭(こんどう けい) バリトン

国立音楽大学大学院、新国立劇場オペラ研修所修了。ローム ミュージック ファンデーション奨学生として渡独。『ドン・ジョヴァンニ』題名役でデビュー。東京二期会では『ナクソス島のアリアドネ』ハルレキン、『タンホイザー』ビーテロルフ等を務める。昨年は新国立劇場『夏の夜の夢』ディミートリアス、同劇場関西公演『魔笛』でもパパゲーノを演じた。二期会会員