TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

『ファルスタッフ』キャストインタビュー

今井 俊輔・宮里 直樹

『ファルスタッフ』出演歌手の素顔

ファルスタッフ役は今回が初役となるバリトン今井俊輔と、フェントン役を演じる気鋭のテノール宮里直樹。2017年の東京二期会オペラ劇場『蝶々夫人』で共演して以来、親交を深めているというふたりに話を聞いた。

撮影:佐藤 久 取材・文:田中庸子
撮影協力:竹富島、炭火焙煎珈琲. 凛 本店

大好きな小浜島に思いを馳せながら、ゆるい空気が心地よい銀座の沖縄料理店にて。

ファルスタッフ役を演じる
バリトン今井 俊輔
2021年7月16日(金)、18日(日)出演

「もっといろんな形で
クラシックを楽しんでもらえたら」

─ 「海なし県、群馬県出身なので海に強い憧れがあるんです」と語る今井俊輔。
学生時代は水泳選手としてトレーニングに明け暮れ、水泳インストラクターやライフセーバーをしながら声楽家に転身したという異色の経歴の持ち主だ。

 大学院を修了したのは30歳の時です。25歳くらいまでにオーディションを受けてデビューするのがイタリアなどでは一般的なんですが、そちらのレールには完全に乗り遅れてしまった。それなら大好きな日本で活躍しようと決めました。日本ではオペラやクラシックの愛好家はまだ少ないので、興味を持ってもらえるような種を蒔いていくことも僕の仕事だと感じ、様々な取り組みを続けてきました。

 リサイタルでは映画音楽や日本歌曲なども歌いますし、5時間ヴェルディだけ、山田耕筰だけのコンサートを企画したり、2月末からはYouTube の配信も週2回続けています。先日はライブハウスからストリーミングライブを行ったのですが、オペラやクラシックもスマートフォンの画面で鑑賞したっていいし、もっと自由な楽しみ方ができるんじゃないでしょうか。また、第一線で活躍している歌手の音楽を届けることも大事だと思うので、宮里(直樹)くんを「お前うまいからムカつくんだよ!」と口説いて(笑)、公演活動をご一緒したりもしています。いつかオペラ専用の劇場が造られて、何か月も作品をロングランできるようになったらいいですね。観たいと思った時に気軽に立ち寄れるような環境ができたら、日本のクラシックの状況も変わりますよ。

 『ファルスタッフ』では僕が主役をやれるなんて思ってもみませんでした。この役は記念にポートレートを撮影してもらうほどステイタスになる役なんですよ。僕は救いのない役とか悪い奴の役が大好物なんですが(笑)、だからこそ喜劇をやるときは思い切りはっちゃけてやりたい。稽古が始まるのが今から楽しみですね。(談)

2018年東京二期会オペラ劇場
『ジャンニ・スキッキ』題名役(前列中央
©︎ 三枝近志

今井 俊輔(いまい しゅんすけ) バリトン

東京藝術大学卒業、同大学院修了。イタリアにて研鑽。東京二期会では『トスカ』スカルピア、『外套』ミケーレ、『ジャンニ・スキッキ』題名役等、主要な役を演じる。また、グランドオペラ共同制作シリーズ出演も各地で好評を博す。BS日テレ「こころの歌」にコーラスグループ“フォレスタ”としてレギュラー出演。昨年は自身初の全国リサイタル開催、初のソロCDをリリース。二期会会員

銀座のカフェでゆったりとした時間を。自ら生豆を取り寄せて焙煎するほどコーヒーにはこだわりがある。

フェントン役を演じる
テノール宮里 直樹
2021年7月16日(金)、18日(日)出演

「結局僕がやりたいことは“音楽”
声楽に転向したのはその思いから」

─ 売れっ子のテノール宮里直樹は大のコーヒー好きで、休日はひとりでカフェを訪れることもあるという。たくさんの舞台をこなしつつプライベートでは新米パパでもある彼は、もっぱら自家焙煎でおうちカフェを楽しんでいるそうだ。

 家にいる時はずっと息子と遊んでいて、抱っこをせがまれていつもどこかが筋肉痛です(笑)。僕たち声楽家は、ほぼ一年中、暗譜に追われているのですが、今は本当に時間がなくて。オペラは物語があるのでまだいいのですが、歌曲だけのコンサートなどが続くと本当に大変です(笑)。時には「ごめん! 2時間ちょうだい!」と家族に言ってカフェなどに籠り、集中して暗譜することもあります。

 両親ともにバイオリニストだったので、僕も子供の頃からバイオリンをやっていたんです。でも高校1年生で入ったジュニア・フィルハーモニック・オーケストラはとにかく優秀な子が多くて。もしかして僕はダメなのかもしれない、父親はNHK交響楽団にいるのにって、変なプレッシャーも感じていたりして。悩みに悩んだ末、声楽に転向しました。妹が宝塚歌劇団受験で付いていた歌の先生に勧められたのも大きかったのですが、結局僕のやりたいことは“音楽”なのかなって。最初は楽器ケースを持っている友達を見るとやっぱり複雑でしたけど、両親がやってこなかったことを始めた瞬間になんだかとても解放感がありました。今でこそという感じですが、指揮者の先生たちから「宮里は音楽がしっかりできている」と褒めていただいたりすると、バイオリンでの経験がきちんと生きているんだなと思ったりしますね。

 『ファルスタッフ』で僕が演じるフェントン役はすごく美しいアリアを与えられているんです。周囲が大騒ぎしている中で、ぽーんと一筋声を飛ばす、僕の役目は劇中における一服の清涼剤のような感じかなと思っています。(談)

2017年東京二期会オペラ劇場『蝶々夫人』
ピンカートン役
©︎ 三枝近志

宮里 直樹(みやさと なおき) テノール

東京藝術大学卒業、同大学院修了後、ウィーン国立音楽大学にて学ぶ。第23回R. ザンドナイ国際声楽コンクール第2位等多数受賞。藤原歌劇団『愛の妙薬』ネモリーノ、日生劇場『ラ・ボエーム』ロドルフォ、二期会デビューとなった『蝶々夫人』ピンカートン等で絶賛される。国内主要管弦楽団との共演も多く、「第九」等で活躍。本年はNHK ニューイヤーオペラコンサートに初出演。二期会会員