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オペラを創る匠たち オペレッタ『メリー・ウィドー』を演出する 眞鍋 卓嗣さん 演出家 撮影:佐藤 久

いよいよ11月に迫った東京二期会のオペレッタ『メリー・ウィドー』。今回の演出を担当するのは、名実ともに日本を代表する劇団のひとつ、劇団俳優座に所属する眞鍋卓嗣さん。オペレッタを初めて演出するという演劇人・眞鍋さんに熱い舞台芸術への思いや、『メリー・ウィドー』への意欲をうかがった。

東京二期会のオペラに演出スタッフとして関わったのは2006年、宮本亞門さん演出の『フィガロの結婚』や『コジ・ファン・トゥッテ』などで。この年はモーツァルト生誕250年のメモリアル・イヤーだった。

俳優座気鋭の演出家による
極上のオペレッタ『メリー・ウィドー』

 「子どもの頃から漠然と演劇関係の仕事に就くだろうな、と思っていました」と話す演出家の眞鍋卓嗣さん。お母様は宝塚歌劇団の方と親交があったことから幼い時には芝居やミュージカルをはじめ、公演前のリハーサルなども観る機会に恵まれたそうだ。子ども時代に観て印象的だったのは「劇団四季の『キャッツ』や、ぬいぐるみ人形劇の劇団飛行船の舞台。猫に扮装したキャストが客席から登場したり、とても精巧なぬいぐるみを被ったりしてのミュージカルはとてもエキサイティングで、その時のことをよく覚えています」と話す。

 高校では音楽に熱中し、2人組のバンドを結成。メジャーデビューも果たし、アルバムも数枚出すほどの人気者に。思春期を迎え演劇熱は冷めたかと思いきや「実は、その間も演劇活動はしていて、変わらず演劇の道へ進むんだろうなという気持ちが常にありました。中学生くらいから作品を動かしている張本人は誰だろう、と考えるようになり、最終的に演出家という三文字が浮かびました。宮本亞門さんの『ミュージカルにディープ・キス』という本にも影響を受けたと思います」。

①ロシア・ルーマニアツアーより、別役実作『象』の舞台。被爆者の心象風景を描いた作品。②公演が行われたサンクトペテルブルクにあるボリショイ・ドラマ劇場。③④ ボリショイ・ドラマ劇場と、ルーマニアのクルージ・ナポカという都市にあるマジャル劇場で頒布された同作品のパンフレット。

オペラと演劇の演出法の違いを経験

 デビューしてから3年ほどして音楽活動を休止、演出を一から学ぼうと俳優座研究所の扉を叩く。28歳という年齢になってからの入所ということもあり、眞鍋さんにとってその時代は真剣そのものだったという。今回、東京二期会のオペレッタを初演出する眞鍋さんだが、実は準劇団員時代の2006年に宮本亞門さん演出のオペラ『フィガロの結婚』や『コジ・ファン・トゥッテ』の演出スタッフとしてクレジットに名を連ねている。当時、初めてのオペラ演出スタッフとして得た感想をこう語る。

 「俳優座はリアリズム演劇。決められた会話ややりとりを俳優がこだわり抜いてストイックに演じ切るという芝居に触れて来た私としては、外国語のセリフ、譜面や音楽中心の進行に加え、スケールの大きさに圧倒されました。また、細かい動きや動作を逐一指示していく宮本亞門さんのオペラの演出手法を目の当たりにして、オペラと演劇の演技に対する考え方が違うということも実感しました」。

海外での観劇で感じた舞台芸術への姿勢

 これまでさまざまに演劇の研鑽を積んできた眞鍋さん。演劇人として印象に残っていることをたずねると、世界的に知られるロシアの演技理論を学んだり、実際に海外に足を運び公演を行ったりしたことだという。「日本で行われたモスクワ芸術座の演出家のワークショップに参加し、本場のスタニスラフスキー・システムという演技理論に触れました。そこで心の機微だけではなく身体メソッドがとても重要であることを知りました。実際に2013年にはモスクワに赴き舞台を見ましたが“エンタメ”という、ある意味易きに流れるような印象とは一線を画し、観客の“熱量”、俳優という仕事や演技に対しての“誇り”が劇場内に漂い、舞台芸術をいかに大切にしているかがひしひしと伝わり、感動しました」。

 また2018年には不条理劇の第一人者で、今年惜しくも亡くなった劇作家、別役実さん作で演出を手掛けた『象』を引っさげ、モスクワ、サンクトペテルブルクやルーマニアでのツアーを行う。「原爆に関わる内容に対する現地観客の興味の高さや、サンクトペテルブルクでのアフタートークなどの経験も現在の血肉になっている」と語る。

 最後に『メリー・ウィドー』の演出に当たり「コロナウイルスの流行などもあり世の中がシリアスで不寛容な時代に、不倫を軸とした享楽的な内容に後ろめたい気持ちもなくはありません。でも当時の背景を考えれば、不倫もひとつの恋愛の形ですし、ハンナとダニロも愛し合っているのに歯車が噛み合わず距離(ディスタンス)を強いられている。『愛』という普遍的なテーマに焦点を合わせ、こんな時代ならではの楽しい舞台にしたいと思っています」と締めくくった。

眞鍋 卓嗣(まなべ たかし)

1975年生まれ。東京都出身。大学在学中から音楽活動、演劇活動を並行して始める。1998年に自身のバンドでメジャーデビュー、2001年まで活動。2002年俳優座研究所入所。その後、劇団俳優座に入団。同文藝演出部所属。同付属演劇研究所講師。現在演出家として活動するかたわら、東京工学院専門学校、総合学園ヒューマンアカデミー横浜校非常勤講師として教鞭を執る。最近の演出作品は、俳優座『雉はじめて鳴く』(作:横山拓也)、オペラシアターこんにゃく座『遠野物語』(作:長田育恵)、別役実の最後の書き下ろしとなった名取事務所『ああ、それなのに、それなのに』など。また、ステージングとして中島みゆき『夜会』シリーズにも参加している。

レハール 『メリー・ウィドー』

オペレッタ全3幕
日本語訳詞上演(歌唱部分のみ日本語字幕付)
指揮:沖澤のどか
演出:眞鍋卓嗣
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団
日生劇場
※11月25日(水)18: 30 はプレビュー公演
2020年11月26日(木)18:30
27日(金)14:00
28日(土)14:00
29日(日)14:00