TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

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オペラを楽しむ

男女の恋の駆け引きを描いた、お洒落でユーモラスなオペレッタ レハール『メリー・ウィドー』

好きだからこそ素直になれない
じれったい大人たちの恋模様

パリにある架空の小国、ポンテヴェドロ国の公使館が舞台。公使ミルコ・ツェータ男爵は、莫大な遺産を所有している未亡人のハンナ・グラヴァリが国外の男性と結婚したら、彼女の財産もごっそり国外に流出してしまうのを案じ、ハンナの元恋人である書記官のダニロ・ダニロヴィッチ伯爵に、彼女とよりを戻させようとする。しかし、ダニロはなかなか素直になれない。

翌日のハンナ邸での夜会にて、ツェータ男爵の妻ヴァランシェンヌが、色男のカミーユ・ド・ロジョンの誘惑に負けて庭の小屋で密会している。妻の不貞を勘づいた夫のツェータ男爵が踏み込むと、小屋からはカミーユとともにヴァランシェンヌをかばおうと入れ替わったハンナが出てくる。ハンナがその場の流れでカミーユとの偽りの婚約発表を行ったため、不測の事態にダニロは大きな衝撃を受ける。

ハンナとカミーユとの件が誤解だったことを知って、ダニロはやっとハンナとうち解ける。ハンナとダニロが結婚することにより、ポンテヴェドロは国の財産流出も免れ、一方、ヴァランシェンヌの浮気もことなきを得る。フィナーレは「女にゃ勝てない!」の大合唱。

話題の日本人女性指揮者
沖澤のどかさんと『メリー・ウィドー』

『メリー・ウィドー』を指揮するのは、昨年、世界的に知られる「ブザンソン国際指揮者コンクール」に優勝し、ますます期待が高まる沖澤のどかさん。
ドイツでの生活やオペラを指揮することなど自身について語っていただいた。

昨年12月、ベルリンのコンツェルトハウスで母校、ハンス・アイスラー音楽大学の学生オーケストラを指揮する沖澤のどかさん。
©Astrid Ackermann

軽妙で物語性を楽しめる
オペレッタの魅力を

─昨年「ブザンソン国際指揮者コンクール」で優勝されましたが日本人としては10人目の快挙だそうですね。受賞の前後では普段の生活に変化がありましたか?

沖澤のどかさん(以下、沖澤。敬称略) 賞をいただく前は、コンクールやオーディションで、まずは自分の演奏ができるかどうかもわからないという状況でも準備をしなくてはならない、というストレスがありました。今はいかによい演奏にするか思い悩むことはあっても、晴れ舞台に立てないかもしれないという不安はなくなりましたね。

─そもそも指揮者になられたきっかけは? 地元青森の高校時代には、オーボエを演奏していらしたとか。

沖澤 はい。高校時代は吹奏楽部に所属してオーボエを担当していました。オーボエは、とても熱中して、体調が優れず高校の授業は休んでも、部活の朝練習だけは出たようなことも(笑)。音大入学は意識しておらず、オーケストラのサークルが有名な一般の大学に、くらいにしか考えていませんでした。ことさら指揮者を目指してはいませんでした。結局、東京藝大の指揮科に入学できましたが、オーボエのほか、子どもの頃、ジュニアオーケストラではチェロを、3、4歳からはピアノを習っていて、さまざまな楽器と身近に触れてきた経験は指揮者になるうえで役に立ったと思います。

子どもの頃は、地元のジュニアオーケストラでチェロを担当。写真左が沖澤さんで右はお姉さま。

─憧れている指揮者、目指している指揮者はいますか?

沖澤 たくさんいますね。例えばベルリン・フィルの首席指揮者のキリル・ペトレンコさん。この夏からペトレンコさんのアシスタントを務める予定で、彼の公演は欠かさず足を運んでいます。シンフォニーもオペラも指揮できる点でも私の理想です。

─指揮者として女性であることは何か影響がありますか?

沖澤 まだまだ女性指揮者は少ないので、覚えていただきやすいですね。欧米では女性指揮者を後押しするムーブメントがあり、一長一短ですが起用されやすい面はあります。けれど「指揮者のひとり」ではなく「女性指揮者のひとり」と捉えられる印象はありますね。

─すでにオペラの副指揮者としても多くの経験をされていますね。以前、別の記事で「オペラの指揮もしていきたい」とおっしゃっていましたが、オペラの醍醐味は何でしょうか?

沖澤 第一に演目に物語性があるという点です。音楽だけでなく芝居との間合いや流れがとても面白いですね。また、準備期間が長いので、ひとり一人の音楽性や演劇性を重ね合わせ稽古しながらそれを積み上げたり、練り上げたりしていく作業が好きです。

─この5月に日本に帰国する予定だったとお聞きしましたが、残念ながら中止になったそうですね。今はドイツでどのように過ごされていますか?

沖澤 6月に日本でのお仕事の予定があったのですが(新型コロナウイルスの流行で)叶いませんでした。もともとインドア派なのでうちの中で読書やピアノを弾いたり、料理を作ったりしてのんびり過ごしています。最近は、DIYで棚を作りました(笑)。一年ほど前に、IT関連の仕事をするリトアニア人の男性と結婚しましたが、今はうちで夫と過ごす時間が長いですね。

─留学してからドイツをメインに生活されてきて「メンタリティ」が強くなったとおっしゃっていましたが、具体的には?

沖澤 一番は「自分の言葉で口にしないと伝わらない」ということです。日本で暮らしていた時ほど、人からどう思われているのか?ということが気にならなくなりました。結果、人と違う意見を言うことや議論をすることが怖くなくなったというのが大きいですね。違う意見を言うことと、その人の人格を否定することとは違う、ということを学びました。

─今年11月に『メリー・ウィドー』を指揮されますが、意気込みなどあれば教えてください。

沖澤 オペレッタはオペラと全く違うと思います。2014年、日生劇場で上演された東京二期会のオペレッタ『チャールダーシュの女王』で副指揮をやらせていただきました。演出の田尾下哲さんのほとんどの立ち稽古に立ち合い、オペレッタや演劇の物語性のお話をたくさんさせていただいたので、その時の経験が活かせたらいいと思っています。

おきさわ のどか

東京藝術大学音楽学部指揮科首席卒業、同大学院修士課程修了。ドイツのハンス・アイスラー音楽大学ベルリン修士課程指揮専攻修了。第56回ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。同時に聴衆賞、オーケストラ賞を受賞。第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉にて第1位及び齋藤秀雄賞を受賞。オーケストラ・アンサンブル金沢元指揮研究員。指揮を高関健、尾高忠明、クリスツィアン・エーヴァルトなどに師事。また下野竜也、井上道義、パーヴォ・ヤルヴィ、クルト・マズア、リッカルド・ムーティの指導も受ける。

レハール 『メリー・ウィドー』

オペレッタ全3幕 日本語訳詞上演(歌唱部分日本語字幕付)
指揮:沖澤のどか 演出:眞鍋卓嗣 合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団
日生劇場

2020年11月 26日(木)18:30、27日(金)14:00、
28日(土)14:00、29日(日)14:00