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俳優 大和田伸也、セリム役で登場

『後宮からの逃走』にハーレムの主、太守セリム役で出演の俳優大和田伸也氏。初めてのオペラ出演を心待ちにする氏に、セリムという役への思いを聞いた。

開口一番、その美声に圧倒される。バス歌手のような低声の浪々たる語り口は、すでにセリムの威厳を感じさせずにはいられない。
 「オペラの持つ芸術性や世界観には、かねてから憧れていましてね。モーツァルトのオペラに歌わない役があると聞いてはいましたが、今回、その役で二期会の皆さんとご一緒できるのは何よりも嬉しいですね」
 劇団四季出身の大和田伸也氏。かつて、ミュージカルの殿堂として知られた日生劇場で日夜舞台に立ち、その後、伝説のミュージカル『アニー』では、歴代のバス歌手たちも演じてきた大富豪ウォーバックス役で聴衆の心をわしづかみにした。演劇界で最も“歌心”を知る俳優なのだ。

右)ミュージカル『アニー』より。物語の最後に、主人公の孤児アニーは、大富豪ウォーバックスの養女になることを受け入れる。父娘となった二人が互いに喜び合う感動的なフィナーレ。ウォーバックス役は、大和田氏の俳優人生を語る上で、最も重要な役の一つだという。 左)蜷川幸雄演出による舞台『王女メディア』イアーソーン役。海外でも大成功を納めた名作。写真はヨルダンのローマ遺跡での上演舞台。妻、王女メディアの激情的な復讐によって滅びゆく夫の姿。王としての威厳を持ちつつも苦悩する父親の姿は、氏が演じた中で最もドラマティックな役柄の一つだという。

さまざまな試練に直面しながらも、決して夢と希望を忘れない孤児アニーを養女に迎え、最後は少女と固く心を結び合う大富豪ウォーバックス。今、目の前で語る大和田氏の人間的な深みと魅力というものが、おのずとオーバーラップしてくるかのようだ。
 「太守セリムという役の、激しくも人間的な温かさを持った大きな存在とキャラクターに役者として大変惹かれます。強権を持ちながらも最後の最後に勇気ある若者たちに寛大な心を示すという意味で、『アニー』のウォーバックスと共通点があると感じています。僕は地が好奇心いっぱいで、“お茶目”だから(笑)、コメディーも大好きだけど、やはり、こういうキャラクター的に厚みのある役は挑み甲斐があっていいですね。セリムの存在が、ストーリー展開にさらにドラマティックな膨らみを持たせられるよう、そして、聴衆の皆さん、共演者の皆さんの双方を感動させられたらいいな、と思っています」
 偶然にも、今回『後宮からの逃走』が上演されるのも日生劇場だ。
「劇団四季の創設期は日生劇場を本拠にしていたんですよ。ですから、僕にとっては、まさに“青春の庭”。日々通い詰めた学び舎へ帰るという感じで、感慨深いですね」
 なんと、45年ぶりの同劇場への出演だという。勝手知ったる古巣への大和田氏待望の帰還。共演者全員が氏の人間的な大きさと俳優としての魅力に触発され、芸術家として火花を散らす姿(!)をぜひ期待したいものだ。

大和田伸也
Shinya Owada

1947年福井県敦賀市生まれ。早稲田大学在学中に演劇を始め、劇団四季を経てNHK 朝の連続テレビ小説『藍より青く』で人気を博す。 その後、『水戸黄門』などのテレビや映画『犬神の悪霊』、舞台『細雪『』王女メディア』、ミュージカル『 アニー』など、数多く出演。また、舞台演出や映画監督、エッセイストとしても活躍中。特技は、居合(夢想神伝流三段)。趣味は絵画・写真・文筆。