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オペラを楽しむ

金閣寺』キャストインタビュー

宮本益光・与那城敬

  • 写真・最上梨沙 佐藤久

宮本益光

~オペラ歌手的生活のススメ~
その1: 職業=宮本益光。劇場型人生

 ファッションにも生き方にもスキのないこだわりを見せる。オペラ界屈指のカッコいい、爽やか系エンターテイナーと思いきや、自他ともに認める完全なオタク。
 趣味も、遊びも、仕事も「音楽」一筋のバリトン宮本益光。どうやら、プロの音楽家として期待される内容以上のことを達成しないと、ムズムズしてしまうらしい。曲が生みだされた背景や作曲家の人物像はもちろんのこと、彼らが作曲中に感じた空気感や景色…、「そんなモノまでモノにしないと歌えない!」これが宮本の信条だ。
 信奉するモーツァルトが敢行した17 回のヨーロッパ演奏旅行のうち、数ルートは制覇(?)したとの情報も。(ご本人曰く、その時に“馬車”があれば、なお良かったと…笑)。リサーチのための追体験と資料収集だけでギャラを超えかねないというツワモノぶりを発揮する。
 自分をオペラのキャラクターに例えたら?
 「実はね、昔から寺山修司の『人生劇場』とか『職業=寺山修司』というのに憧れてまして…。言わば、『職業=宮本益光。劇場型人生のススメ』ですかね。まず、役柄に浸る前に、自分というキャラクターを認識することが大事なんですよ」
 超変化球が飛んできた。しかし、彼の言う“劇場型人生”は、決して自分ファーストではない。自らを知り、自らの引き出しをより豊かにすることで、初めて音楽のある生活の豊かさと夢を人々に伝えられる―表現者としての使命感からなのだ。
 とかく派手な面が注目されがちな宮本だが、一人でも多くの人々と音楽の楽しみと喜びを分かち合えるよう、アマチュアの合唱指導、歌詞翻訳、作詞・企画・演出、執筆、オリジナル作品の台本制作までもこなす。多忙な人生劇場の中にも、他人に愛を注ぎ続ける“人間好き”を遺憾なく発揮する人情派でもある。
 モノスゴイ体力と気力で、周囲を巻き込みつつ、日々、人生という舞台をプロデュースし続けるマルチバリトン、宮本益光。来年の『金閣寺』公演では、希代の放火犯、溝口に挑む。宮本劇場プロデューサーが昭和のサイコパス的人間像にいかに迫るか―。
乞うご期待。

宮本益光(みやもと ますみつ) バリトン

東京藝術大学卒業、同大学院博士課程修了。04年『ドン・ジョヴァンニ』(宮本亜門演出)タイトルロールで衝撃的な二期会デビューを飾る。その後も新国立劇場『鹿鳴館』『夜叉ヶ池』をはじめ日生劇場、神奈川県民ホールなどで数々の作品に出演するほか、作詞・訳詞・執筆・演出等でも多彩な才能を発揮し、創造性あふれるステージで聴衆を魅了している。
二期会会員

与那城敬

~オペラ歌手的生活のススメ~
その2: ニュートラル的人生、時に発火

 2006年、“オペラ界の貴公子”というキャッチフレーズとともに颯爽とデビューを果たしたバリトンの与那城敬。次々と与えられる重要な役をエレガントに歌い、演じ、文字通り、期待に違わぬ実力を発揮し続けてきた。周囲のイメージに振り回されることなく、淡々と与えられた役を自分のものにしてしまう力。それが与那城の強みだ。
 「僕自身は、自分に全く色が無いな、と感じています。ニュートラルと言うと聞こえがいいんですが…。昔から、踊ると手と足が一緒に出るタイプなんで、きっと不器用なんでしょうね。一つが終わると、また色のない自分が出てきて、次もまたゼロから始まるんです」
 いやいや、間違いなく、その生真面目さと持ち前のニュートラルさこそが与那城を真のオペラ歌手として支えているに違いない。
 「よく考えてみると、確かに与えられた課題に向かって、つねに一番良い状態に気分を高めていくのは割と得意かもしれません」と、さしものストイックな与那城もこう自身を認める。
 「舞台に乗ると、不思議と欲が出てくるんですね。普段の生活でも切羽詰まると火が付くタイプみたいで。目の前にゴールがあれば、どんなことにも全力投球するというか…。例えば、エレベーターのドアが閉まりそうなのを見ると、それだけでもう火が付くんですよ(笑)」
 普段の生活でハマっていることは?
 「没頭できるものを見つけたいですね」
 もしかして、何事にも全力投球で没頭できる自分を認識していない?
 「もし、歌い手になっていなかったらですか…。うーん、ダンサーになっていたかもしれません。手と足が一緒に出てしまうコンプレックスから、踊りのできる人に憧れるんです。身体を使って自由に感情表現ができるってカッコイイですよね!」
 今後の目標は?
 「第二の人生をどうしようか考え中です」
 ??… 。自然体の大真面目なギャグ連発になんとも和む。いや、この対話の流れこそが、バリトン与那城敬が紡ぐ“自分色”の歌の魅力なのだ。
 ニュートラル的人生、時に発火。こうなると、火が付いた時の与那城版放火犯、溝口の姿も楽しみでならない。マッチが無くても、金閣寺が燃えるかもしれない!?

与那城敬(よなしろ けい) バリトン

桐朋学園大学卒業。同大学研究科、新国立劇場オペラ研修所修了。文化庁在外研修員としてミラノに留学。新国立劇場をはじめ兵庫県立芸術文化センター、日生劇場など数々の舞台で活躍。コンサートにおいても国内主要オーケストラと共演するほか「東急ジルベスターコンサート」「NHK ニューイヤーオペラコンサート」に出演し各方面から注目を集めている。
二期会会員