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ダミアーノ・ミキエレットから日本のファンに贈るメッセージ (C)Luigi Caputo

9月に上演されるプッチーニ「三部作」の演出を手がけるダミアーノ・ミキエレット。
イタリア・オペラの新たな時代の担い手として世界中から引っ張りだこの若き演出家から、日本のファンへ贈るメッセージ。

—「三部作」は、一度に三作品が連続上演されるという特殊な形のオペラです。その点で特別な演出的効果も期待されそうですが、いかがでしょうか。

今回の私の解釈では、三つの違った性格の演目をドラマトゥルギー的(※)にも、ビジュアル的にも一つのストーリーに感じられるようにコンセプトしました。

私は、三作品に一貫して、「母性」や「父性」というテーマが根底にあると感じています。そして、それぞれの演目に登場する人物たちは、関係無いようで、どこかでつながっている。何か共通項を持っているのです。

特に、今回の演出では、各ストーリー展開の中に隠された「父性の存在」を一つの軸としている点にも注視して頂きたいです。実際に、それらを暗示するあるモノたちを、各演目をつなぐ“赤い糸”として象徴的に舞台に配置しています。

—ストーリー展開の中での“つながり”について、もう少し具体的にお話し頂けますか?

実際に、『外套』の女主人公ジョルジェッタと二番目の作品の主人公、修道女アンジェリカには、息子を失った悲しみに打ちひしがれているという共通の状況が与えられています。

ジョルジェッタは、息子を亡くしたことで夫婦の危機に陥り、不倫に走った挙句に夫に復讐されてしまう。そして、ジョルジェッタのその姿が、次の作品のアンジェリカに続けて投影されていくのです。不徳の子供を生み、世間から見放されて修道院に隔絶されたアンジェリカは、母を知らぬ哀れな息子を想い嘆く。

『ジャンニ・スキッキ』では、ドラマの軸となる一族の遺産相続の争いと、そのゴタゴタに乗じて娘のラウレッタが、“ある事”への許しを父ジャンニ・スキッキに乞うというドタバタな展開です。これらの一連の作品の中に、因果的というのでしょうか、「父性と母性の影」の連鎖を想像することができるのです。


ミキエレット演出、ローマ歌劇場公演より『外套』


同公演『修道女アンジェリカ』


同公演『ジャンニ・スキッキ』

—「三部作」に関して、特にどのような点でプッチーニの天才性が感じられますか?

メロディーのヒットメーカーであるプッチーニらしく、独自の音楽を通して、忘れがたいほどの強烈な人間像を描きだしてしまうところです。

「三部作」でも、それぞれの作品で、彼の音楽が持つ劇的な言葉が、聴き手を感動させてやみません。

思い浮かぶだけでも、例えば、『修道女アンジェリカ』のフィナーレ。あるいは、『ジャンニ・スキッキ』という人物を巧みに描写しているあの悪魔的なリズムの妙。そして『外套』では、ジョルジェッタの夫ミケーレの内的な葛藤を表わす音楽表現などです。

—日本のオペラ界にどんな印象を持っていますか? また、今後、期待することは?

毎回、関係者の皆さんのプロフェッショナルな姿勢と責任感には頭が下がる思いです。

「三部作」も、前向きに受け止めて頂けたら嬉しいですね。そして、(同作品が)日本のオペラ界にとって、イタリア・オペラの新しい流れを生みだすきっかけとなってくれたらと願っています。

—能楽堂や歌舞伎座には行きましたか? 演出家としては、興味があるのでは?

実を言うと、まだどちらも生では見たことがないんです。今回こそ絶対に劇場に足を運んでみたいと思っています。

能や歌舞伎は20世紀のヨーロッパ演劇に大きな影響を与えたのは事実ですし、多くの舞台演出家や舞台美術家たちが能の舞台効果にインスピレーションを受けています。私自身も自分の眼で、能の持つ本質と価値を探求してみたいと思っています。

—日本のファンにメッセージを。

日本の聴衆の皆さんのことは大好きで、まず全員に「ありがとう」と言いたいです。エレガントで、折り目正しいですし、この美徳を他の国の聴衆にも見習ってほしいですね(笑)。

「三部作」もぜひ見に来てくださいね。帰りにはぜひ皆さんで“サケ”を飲みに行きましょう!それでは皆さん、東京でお会いしましょう!

※ドラマトゥルギー:戯曲の構成、ドラマ展開の手法や技法などを指す。

Photo:Yasuko Kageyama_Opera di Roma_2015-16
聞き手・翻訳:朝岡久美子

ダミアーノ・ミキエレット
Damiano Michieletto

ヴェネツィア生まれ。ミラノのパオロ・グラッシ演劇学校で演出を、ヴェネツィア大学で現代文学を学ぶ。2007年ロッシーニ・オペラ・フェスティバルの『泥棒かささぎ』の演出で一躍世界の脚光を浴びる。12年にはザルツブルク音楽祭に『ラ・ボエーム』でデビュー。近年では、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで『ウィリアム・テル』、パリ・オペラ座『セビリアの理髪師』、ペーザロで『湖上の美人』、バルセロナのリセウ大劇場で『コシ・ファン・トゥッテ』などの作品を手がけている。東京二期会公演には14年の『イドメネオ』に続き、二回目の登場。

©Fabio Lovino