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オペラを楽しむ

バロック・オペラに挑む新星 梶田真未、和田朝妃、市川浩平

「二期会ニューウェーブ・オペラ劇場」は、二期会の登竜門的存在。3年に一度の開催年である今年、演目はヘンデルの『アルチーナ』、二期会初演だ。この貴重な上演に抜擢されたニューフェースのうちの3人が、梶田真未(ソプラノ:アルチーナ)、和田朝妃(メゾソプラノ:ブラダマンテ)、そして市川浩平(テノール:オロンテ)。二期会研修所卒業3年以内という原則下での選抜だが、性格や個性も三人三様。役柄そのままだ。

「今の僕の声質は軽めのテノールなので、オロンテに合っているのか、無理なく歌えます。今だからできる役だと思います」とおっとりとした口調の市川。「ブラダマンテはとても遣り甲斐のある役。物語に一番関わっていると思いますね。私が居なかったら話が盛り上がらない(笑)」。そんな和田を受けて梶田は「そうですよね。私はタイトルロールですが、他の役がとても重要。もちろん決まった時はとても嬉しかったのですが、時間が経つにつれて不安になってきました。アルチーナは魔女なのですが、魔法を使わず自分の魅力で男を虜にしていくんです。それが表現できるかどうか……」。そんな控えめな梶田の発言に、市川も和田も声を合わせて「できる(笑)」。

そう励ましながら、市川の「ただ、やはりレチタティーヴォを今磨いている最中」という発言には、梶田も和田も深く頷く。市川は『メサイア』でヘンデル体験済みだが、3人ともバロック・オペラは初めてだ。「歌ってはいけない、それでいて聴衆に届く言葉、声で発声しなくてはならないレチタティーヴォは大変!」

口々にその難しさを述べる。が、その顔は「やる気」に満ちている。ヘンデルならではの美しく多彩なアリアに加え、バロック・オペラ特有のレチタティーヴォの難しさ、そして鈴木秀美指揮による古楽器オーケストラのもとでの演技。5月の上演まで時間がないと言いつつ、目を輝かせる3人。難しければ難しいほど背筋が伸び、挑戦といった面持だ。

市川の考えるオロンテ像は「男性らしい男。ズルくて、計算高く、嫉妬深い。単純で弱くて、アホ。よく理解できるし、似ていると思う(笑)。男の女々しさを出したい」。

「私(梶田)はバロック・オペラの凄さを改めて感じました。アルチーナの心の複雑で繊細な機微が、隅から隅まで表現されています。アルチーナの隠された心の闇とか、深層部分が面白い。勉強すればするほど非情な魔女ではなく、恋を知らなかった可哀想な少女と思える。そこが可愛くて男性がほっておけないのかも。私はアルチーナが好きです」。さらに、「第3幕の魔法の源の壺をルッジェーロが割る場面で、彼が躊躇う。そこに彼らの恋模様が出ている」とも言う。そこが見ものでもあるし、想像を掻き立てるところだと。

和田が考えるブラダマンテとは、強い女性。「男装してまで恋人を助けに行くのは、物凄く勇気がいります。恋人ルッジェーロに自分がブラダマンテだと告白する時に歌うアリアなど泣きつくのではなく、凄い勢いであなたに復讐してやりたいと歌う。こんな強い女性は居ない。遣り甲斐がありますね(笑)」

そんな和田は、昨年の二期会公演『こうもり』でのオルロフスキー好演により、演出家アンドレアス・ホモキに見出され、秋よりチューリッヒ歌劇場の研修所でさらなる研鑽を積む予定だ。

 梶田は9月の二期会オペラ劇場公演プッチーニ「三部作」に出演が決まっており、市川も11月、日生劇場のモーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』フェルランドで出演予定。三人三様に新しい波に乗って、世界に羽ばたこうとしているニューフェースたち。期待し、応援しないではいられない。

文・山口眞子 撮影協力・トラットリア イル デスティーノ/めぐろパーシモンホール

Trattoria il Destino

本場イタリアで修行を積んだシェフによる、イタリア伝統の味を引き継ぐレストラン。小麦粉の種類や配合にも気を配って作られる天然酵母のパンや、季節や食材の入荷状況に応じて変わるメニューは、毎回ちがう楽しみを味わえる。なかでも新鮮さにこだわる国産トリッパの煮込みは、苦手な人もやみつきになるおいしさ。オペラ歌手をはじめとする多くの音楽家に愛される都立大学の名店。写真は、ポレンタとタレッジオチーズを詰めたラビオリ(1,900円)。

〒152-0023
東京都目黒区八雲1-4-18 SANKO BUILDING 1F
TEL:03-3725-0020 URL:trattoria-il-destino.jp
ランチ:11:30~15:00/ディナー:18:00~23:00
水曜、第3木曜定休

梶田真未 ソプラノ
Mami Kajita

愛知県出身。東京藝術大学卒業(同声会賞)。二期会オペラ研修所修了。これまで東京二期会では『イル・トロヴァトーレ』レオノーラのアンダースタディを務めたほか、日生劇場『ルサルカ』森の精2で出演。今後は本年9月東京二期会プッチーニ「三部作」出演予定。
二期会会員

和田朝妃 メゾソプラノ
Asahi Wada

神奈川県出身。武蔵野音楽大学卒業、同大学院修了。二期会オペラ研修所修了(最優秀賞、川﨑靜子賞)。昨年7月東京二期会『ばらの騎士』3人の孤児として出演を果たすとともにオクタヴィアンのカヴァーキャストも務め、11月『こうもり』にはオルロフスキーで出演。
二期会会員

市川浩平 テノール
Kohei Ichikawa

静岡県出身。東京藝術大学卒業(松田トシ賞)、同大学院オペラ科修了。二期会オペラ研修所修了(最優秀賞、川﨑靜子賞)。東京二期会では2017年『蝶々夫人』ピンカートンのアンダースタディを務めている。今後は本年11月日生劇場『コジ・ファン・トゥッテ』フェルランドで出演予定。
二期会会員