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オペラを楽しむ

こうもり』キャストインタビュー

小林 啓倫

  • 文=山口眞子

小林 啓倫

黒幕ファルケは面白い人物
自分にはない性格を
舞台で演じる喜びを感じる

開口一番、「口下手なもので」とほほ笑む。おっとりとして穏やか。が、上背のあるしっかりした体躯の持ち主でもある。

「子供の頃はサッカーをしていましたが50キロくらいしかなく、大学3、4年の時に舞台で歌い切るためにも体力をつけようと筋トレなどをし出したら、30キロくらい太ってしまって、今に至る、です(笑)」

芯のある体格を目指した結果だろう、安定感と声量のある歌唱に定評のある小林だ。

「でもオペラ歌手を目指したのは遅かったんです。中学卒業までヴァイオリンは習っていましたが、高校の頃、ブームに乗ってバンドを組みギターを始め、学校のイベントなどで弾いていました。進路を決める段になり、ずっと音楽に携わっていたい、それならば音大に行こうと決め、ピアノと歌を始めたのですが、歌の先生に勧められたのがきっかけです。さらに、大学3年の頃にオペラ研究会に入り、そこで『ラ・ボエーム』をオーケストラ付きでやりました。オペラとしては初めての体験で、稽古も何もかもが楽しく、『こんな世界があるんだ』と気づき、これでやっていきたいと思ったのです」

とは言え「父は国立音大でチューバを専攻し中学教師、姉も弟も音大卒。母は中学の国語教師」という音楽一家、教師一家で育った。なるべくしてなったと言っても過言ではない。

昨年の第52回日伊声楽コンコルソでは第2位入賞を果たした。重要なレパートリーであるイタリア・オペラは外せない。しかし、オペラの両輪として、ドイツものもしっかりやっていきたい。「実は、ドイツ系の方が好き」。率直だ。

「大学院の時には磯山雅先生のもとでバッハを学び、カンタータなどの教会音楽演奏する喜びを知りました」。さらに、「モーツァルトが自分には合っていると思うので、『フィガロの結婚』の伯爵や『魔笛』のパパゲーノ、『ドン・ジョヴァンニ』のタイトルロールなどを歌っていきたい。声質はもちろんですが、性格的にも楽しい雰囲気の役の方がやりやすい。普段は静かにしていますが、舞台に立つと自分にはない性格になれる。気持ちいいですね」

同じく適役の『こうもり』のファルケも新国立劇場オペラ研修所試演会で体験済み。

「何の博士かもわからない謎の人物ですが、黒幕ですからね。面白い役どころ」と、ファルケのキャラクターを楽しんでいる様子だ。

目指すは恩師の黒田博のようなオペラ歌手。

「頭脳明晰、二枚目も三枚目もできる立派な役者であり声ですが、繊細な役も豪快な役もこなし声も素晴らしい、オールラウンダーな黒田先生が目標です。一方で、自分の武器になる特徴も探して行きたい」。

気分転換にギターを弾き、ロードバイクに乗る。特に機械いじりが好きで、パーツを変えたりしてカスタマイズも楽しむ。

「結局、いじる前の方が良かったりするんですが(笑)」。なんだか楽しくて仕方ない様子。それもそのはず、「もうすぐ結婚式が控えています」。私生活も充実し、さらなる飛躍が期待できる小林啓倫なのだ。

小林 啓倫(こばやし ひろみち) バリトン

東京都出身。国立音楽大学演奏学科卒業、同大学院修士課程修了。二期会研修所、新国立劇場オペラ研修所修了。第52回日伊コンコルソ第2位。これまでに、『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール、『フィガロの結婚』フィガロ、伯爵、『結婚手形』ズルック、『なりゆき泥棒』パルメニオーネ、『ドン・パスクワーレ』マラテスタ、『ナクソス島のアリアドネ』音楽教師などを演じる。日伊音楽協会会員。
二期会会員