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自分が自分でいるために バリトン宮本益光がこだわるファッションとは? 11月『こうもり』ファルケ役で出演決定! 文・室田尚子/写真・福水 託

「悪い男とわかっていても拒めない」のがオペラ界きってのイケメン、ドン・ジョヴァンニ。そんなドン・ジョヴァンニを演じさせたら当代一のバリトン宮本益光さんの「こだわり」のテーマがファッションと聞いて、大きくうなずく人は多いだろう。この日、宮本さんが現れたのは、七年来おつきあいのあるというミラノ在住のデザイナー、YOSHi FUNABASHi(船橋芳信)さんのコレクション会場だった。
 「初めてYOSHiさんのところでスーツを仕立てのが二〇〇九年。それ以来、ミラノに行くたびに必ず一着は作っています。YOSHiさんの服は着ていると必ず人に“どこの服?”と聞かれる。そんな時、“いい演奏でしたね”と言われるのと同じような嬉しさを感じます。」

 YOSHiさんは、実は並のファンでは太刀打ちできないほどのオペラ通でもある。36年前に初めてローマ・オペラ座でヴェルディ『運命の力』を観て以来スカラ座に通いつめた。そのうちに劇場関係者やアーティストと知り合いになったが、その中には往年の名指揮者ジャナンドレア・ガヴァッツェーニがいたというから驚きだ。そんなYOSHiさんのミラノのアトリエにはピアノがあり、宮本さんがそこでカンツォーネの名曲「禁じられた音楽」を歌ったというエピソードも披露してくれた。
 宮本さんにとって、洋服=ファッションはいったいどんな意味を持つのだろうか。
 「ファッションとは、誰かに向かって主張するもののようでありながら、実は自分自身に向いているものだと思うんです。ここぞという時に着る服には、自分を自分でいさせてくれる力があります。」

 YOSHiさんの服にはその力があると?
 「日本で時間に追われながら生活をしていると、どこか窮屈になってくる感覚がある。そんな時にイタリアを訪れて、生活を楽しむということを体験しました。YOSHiさんの服は袖を通しただけで、イタリアで自分の気持ちが楽になっていったことを思い出させてくれる。イタリアの生活で感じたキラキラとした輝きの一部を纏っているような気持ちになれるんです。」
 一方で、タキシードや燕尾服という「伝統」を身につけるオペラ歌手には、それを着こなすだけのスタイルがあるべきだという信念も併せ持つ。「自分がどう見られるか」に常に意識を配る姿勢は、ステージ上だけでなくオフの場面でも同じだ。「自分が自分でいられる服」を身に纏った宮本益光は、だからいつでも「かっこいい」。
 「舞台人は“憧れられてなんぼ”だもの」と笑う宮本さんに、稀代の色男、ドン・ジョヴァンニの面影が重なって見えたのは偶然ではない。

Studio ypsilon

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宮本益光 (みやもと ますみつ) バリトン

愛媛県出身。東京藝術大学卒業、同大学院博士課程修了。2004年『ドン・ジョヴァンニ』題名役(宮本亜門演出)で二期会デビュー。日生劇場開場50周年記念『メデア』、『リア』(日本初演)、新国立劇場『夜叉が池』(世界初演)学円、神奈川県民ホール開館40周年記念オペラ『金閣寺』溝口等も絶賛される。銀座・王子ホール「宮本益光の王子な午後」は20回を超える人気ぶり。2015年黒い薔薇歌劇団を結成し、構成・演出・字幕を手掛ける。今年7月日生劇場『ラ・ボエーム』の日本語訳詞を制作。多才な活躍が今後も期待される。
二期会会員
http://www.mas-mits.com