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オペラを楽しむ

ナクソス島のアリアドネ』キャストインタビュー

白𡈽理香・菅野 敦

  • 文=山崎浩太郎

白𡈽理香

ウィットに富んだウィーンらしさが軽やかに弾む
シュトラウスの音楽を歌で表現できる喜び

――声楽を始めたきっかけを教えてください。

 声楽のレッスンを始めたのは高校2年の時からですが、小さい頃から歌う事が好きでした。幼稚園児の頃父が聞くシャンソンを言葉も分からず真似て歌ったり、童話を聞いて物語の中の役になりきったりとても空想好きでした。大人になった今も感性はその頃のままの様な気がします。

――「プロの声楽家として歩んでいこう」と決意した時期などはあったのでしょうか?

 与えられた課題に一生懸命に取り組んでいくうちに自然に導かれていった感じです。

――声質や歌唱のスタイルから、レパートリーとして得意となさっている役柄とは?

 レパートリーにはドイツ物と一般に呼ばれる作品や古典作品の中に多いですが、まだ誰も演じていない初演物の役作りに挑むのも好きです。生みの親である作曲家の先生をお稽古場にお迎えしてのオペラ作りはとても新鮮なものがあります。

――『ナクソス島のアリアドネ』の作曲家役について、お感じになるところを。

 劇中の作曲家の言葉を借り、ホフマンスタールとシュトラウスは芸術の理想を語らせています。
 45分という短い序幕に作曲家は喜々として登場します。そして、絶望して終わるまで心の浮き沈みの描写は、音楽的な表現も音程もアップダウンが激しく、歌い手としてまた役者としての技量を試される難しい役のひとつだと思います。
 シュトラウスは作曲家の心の動きを音楽で緻密に描写し、ツェルビネッタに恋する瞬間を和音の響きで表現します。その後歌われるデュエットはとても官能的な音楽で私の好きな場面の一つです。今回、世界でご活躍されているシモーネ・ヤングとカロリーネ・グルーバーというコンビによって、どんな作曲家、そして作品に仕上がっていくのか今からわくわくしています。

――オペラや声楽作品に限定せずに、好きな作曲家、作品、演奏家などがありましたら教えてください。

 ブラームスのクインテット等室内楽が好きです。歌曲も大好きです。以前仕事でご一緒したブリン・ターフェル氏のシューベルトの歌曲は人間味に溢れ、好きな演奏家の一人です。そう言った意味でもこの二つの要素が取り込まれたR.シュトラウスのオペラ作品は特に好きです。ホフマンスタールの言葉の魅力とシュトラウスの音楽は、聞く者を甘美の世界へ誘い込み、『ナクソス島のアリアドネ』や『ばらの騎士』ではセンチメンタルなウィーンの気質とウィットに富んだ軽やかな会話をリズムに乗せたシュトラウスの音楽に魅せられます。

――今後演じたい役と、この公演への思いをお聞かせください。

 『ナクソス島のアリアドネ』作曲家と『ばらの騎士』オクタヴィアンは音楽的にも役柄的にも兄弟といえると思います。ズボン役であるオクタヴィアンが劇中で女性を演じる、演技の面でも複雑で動きのある役柄は大好きな役の一つです。ウィーン訛りにも耳慣れてきた今、オクタヴィアンを演じさせて頂く機会を心待ちにしています。またズボン役とは対極にあるカルメンも魅力的で取り組みたい作品の一つです。ホフマンスタールの詩に深く共感する今、シュトラウスの音楽を歌い手として舞台で表現できる喜びに、心より感謝致します。
(メールによるインタビュー)

白𡈽理香(しらつち りか) メゾソプラノ

東京藝術大学大学院独唱科修了。ウィーン国立音楽大学リート・オラトリオ科修了併せて学士院公認コンサート歌手資格取得。ミュンヘン国際音楽コンクール声楽部門最優秀賞受賞。ヨーロッパ各地の音楽祭に出演。W.サヴァリッシュ、E.インバル、若杉弘、大野和士各氏、著名な指揮者と共演。現在ウィーン在住。
二期会会員

菅野 敦

運命を感じるゆかりの深い役
旋律と力強さをしっかりと伝えるように

――声楽を始めたきっかけを教えてください。

 自分は福島県の出身で、福島は合唱がとてもさかんな土地なので、小学4年からボーイソプラノ、アルト、テノールと合唱をつづけていました。最初からオペラ歌手を目指していたわけではなく、漠然と歌を勉強したいと考えていましたが、大学(国立音楽大学)で田口興輔先生について、その影響でオペラを歌いはじめました。

――「プロの声楽家として歩んでいこう」と決意した時期、またその理由となる出来事などがありましたら教えてください。

 大学を出て、悩む時期もありました。そのたびごとに、たとえば二期会オペラ研修所を受けるとか、自分で目標を設定して、そのハードルをクリアしたら続けようと。2011年の東日本大震災では、さいわい家族は無事だったのですが、家屋が損傷しました。実家から金銭的な援助を受けていたわけではないのですが、精神的に頼りにしている部分があったので、ここで自立したいと思い、新国立劇場オペラ研修所を受けました。ここなら奨学金などをうけながら、3年間しっかりと学ぶことができますので。

――レパートリーとして得意となさっている、また目標となさっている役柄は?

 将来的に、ということなんですが、リリックで、少し重めの役です。イタリアオペラとともに、シュトラウス、ワーグナーも歌っていければと思っています。まだ留学したことがないので、向こうへ行って、本場で学んでみたい。いつかは、『トゥーランドット』のカラフを歌いたいです。

――田口興輔さん、福井敬さんなどに学ばれて、昨年『ダナエの愛』で二期会の大役デビューを飾られました。このときは福井さんとダブルキャストでミダスを歌われましたね。

 田口先生、福井先生、どちらも大スターですが、個性はかなり異なられますね。ベクトルが違うというか、違ったことを数多く学ばせていただきました。福井先生とはオペラの現場でご一緒させていただく機会が何度かありました。『ダナエの愛』では本番が近づくにつれ、練習の初めの頃には見たことのないような存在感を発揮されていきました。自分は無我夢中で、次の日に先生の本番を客席で見て、現実ではないような気がしました。自分が昨日はそこにいたというのが信じられなかったです(笑)。なにしろ、大舞台で大きい役をやらせてもらったのが初めて。それまで経験した舞台とはまた違った感覚でした。

――その新国立劇場の研修公演『ナクソス島のアリアドネ』では今回と同じ「テノール歌手/バッカス」役。そして清野友香莉(ツェルビネッタ・同役)、伊藤達人(ブリゲッラ)も、共に出演されていたそうですね。

 はい、清野さんとは研修所で同期でしたので、オーディションで今回の出演がきまったときにも二人で大喜びしました。研修公演では、伊藤さんとダブルでバッカスを歌いました。この役とは縁がありまして、二期会が前回、2008年に上演したときにはアンダーをつとめ、次に新国立劇場研修公演、そして今回と、短い期間で3度目となるので、運命的なものを感じます。「テノール歌手」役の性格は自分とはかけ離れているので(笑)、かえってやりやすいですし、バッカスでは素直に、その旋律と力強さを楽しんでいただければと思います。演出のカロリーネ・グルーバーさんには新国立劇場の研修所の『魔笛』でご指導をうけたことがあるので、楽しみです。

菅野 敦(かんの あつし) テノール

国立音楽大学卒業、同大学院修了。二期会オペラ研修所マスタークラス修了。新国立劇場オペラ研修所修了。新国立劇場オペラ研修所公演『ナクソス島のアリアドネ』バッカス、二期会ニューウェーブ・オペラ『ウリッセの帰還』ジョーヴェ、東京二期会『カプリッチョ』8人の従僕たち、『トゥーランドット』ポン、『ダナエの愛』ミダス等。
二期会会員