13年『ホフマン物語』タイトルロール、14年『蝶々夫人』ピンカートンと大役をいくつも演じ、大人の男の色香とともに、美声にもさらなる艶味を増しているテノール、樋口達哉さん。今年6月の二期会ウィーク2015では、24日(第3夜)にチョン・ウォルソンさんらとともに登場し喝采を浴びた。
　今回うかがった麻布「富麗華」は、オープン当初から通っているという樋口さんにとって“ご縁をつなぐ”大切な店だ。樋口さんがイタリア留学当時よりサポートして下さっている方のご子息が総支配人だったことをはじめ、後援会会長を引き受けて下さっている醗酵学の小泉武夫先生との出会いなど、現在のオペラ歌手・樋口達哉を形作るいくつもの縁が「富麗華」を中心に広がっていったそうだ。
　「黒酢の酢豚は、今では他の店でも見かけますが、ここのは黒酢の甘酸っぱさ、ジューシーさといい、大好きです」
　数多くあるメニューの中でもお気に入りのひと品を食しながら、「本番後の疲れを癒やして、美味しいものをのんびりいただくために来ます。本番で昂揚した気分を少し鎮めるという効果もあるんです。一階では二胡の生演奏もあるんですよ」
　ガッツリ肉を食べていざ本番!かと思いきや、どんな時も普段どおり自然体であることを心がけているとのこと。納豆は毎日食べるほど好きなため、「本番前日は納豆と卵、ごはん」でむかえることもあるそうで、本番終了後にこそ、リラックスして英気を養うものを食すそう。

　それでは、本番前はどのように過ごしているのか気になって、いつも行うという本番前のトレーニングにも同行させていただいた。
　まるで接骨院のようなこじんまりとしたジムで待ち合わせると、パーソナルトレーナーの小林さくらさんによる「力を抜くためのトレーニング」が始まった。トータル一時間半の施術によって、仕事や日常生活でたまった緊張をほぐし、ニュートラルな状態に戻していく。
　いわゆる筋トレを想像していたが、どちらかというと逆で、力の入った生活で偏ってしまった全身のバランスを整えるために、凝り固まった筋肉の緊張をほぐし、余計な力が抜けることで、翌日の本番に100%のパフォーマンスを発揮できるとのこと。　　
　マッサージから背骨、胸椎のストレッチ、体中の骨と骨の間、関節を開いて、全身の筋肉をやわらかく伸ばしていく施術は、小林さんとおしゃべりしながら終始リラックスムードで行われた。
　日々入りがちな力をあえて抜き、ニュートラルな状態で本番を迎えること、そして本番後はリラックスしてご褒美の美食をいただくこと、体の声に耳を傾けた自然体のサイクルからこそ、聴衆を魅了する舞台姿がつくられている。
　初めて行った石垣島でスキューバダイビングにハマって以来、時間があればボーッと海を眺めに行くこともあるそう。
　そんな自然への愛についてお聞きするなか、最後に今後叶えたい小さな夢を教えていただいた。「まだ今のところ実現はしていませんが、好きな香りを調合した、僕プロデュースのフレグランスを作りたいと考えています。名前や使いたい瓶も決まっているんです」。美しく自然なものを愛する男が調合する香り、ぜひ心待ちにしたい。

富麗華

中華料理の名店である六本木「中国飯店」の姉妹店。主菜、焼き物、点心などを専門料理人が手がける「富麗華」の高級中華料理は、著名人をはじめとした多くの美食家たちに愛されている。2000年11月のオープン以来通う樋口さんのおすすめデザートは、グレープフルーツがさわやかな「タピオカとマンゴーのミルク」。

東京都港区東麻布3-7-5　03-5561-7788
www.chuugokuhanten.com
営業時間：11:30～14:00／17:30～22:00