1年半のフィレンツェ留学を終え、昨年10月に帰国した嘉目真木子さん。早速この7月には、宮本亜門演出のモーツァルト『魔笛』でパミーナ役に出演することが決まっている。ちょうど5年前にこのパミーナで二期会オペラデビューをした時は、いかにもお姫様役が似合う可愛らしい女性だったが、イタリア生活が及ぼした影響なのか、白と黒のモノトーンの服に身を包んだ嘉目さんは、グッと「大人の女」へ変貌していた。
今回訪れたのは、親子連れやカップルで賑わう、ららぽーと豊洲内にある富澤商店。50種類におよぶ小麦粉をはじめ、パンやお菓子作りに欠かせない食材が豊富に揃う。実は嘉目さんは今、パン作りに凝っているというのだ。
「留学前からパン作りは好きだったんですが、フィレンツェで全粒粉のパンにハマってしまって。下宿先のおばあさんがとてもパンにこだわる人で、毎日、焼きたてのパンが食卓に並びました。フィレンツェのあるトスカーナ地方のパンは、塩を入れない作り方で、ドイツのパンほどではありませんが、色も茶色でギュッと詰まった感じなんです。」
塩味が濃いトスカーナ料理と相性抜群の全粒粉パンに出会ってから、パンに対する意識が変わったという嘉目さん。帰国後も「あの味が忘れられなくて」トスカーナ風のパン作りに挑んでいる。さぞや道具などにも凝っているのかと思いきや、「必要最低限のものしか持っていません」という。
「私、家にモノがたくさんあるのが苦手なんです。一度は、専用のパン焼き器を買おうかと思ったんですが、手でできることは全部手でやればいいって思って。それに、パン生地をこねている時って無になれるんですよ。特に全粒粉はこねるのに力がいるので、没頭できて楽しいです。」
エプロンをつけて腕まくりをして、一心不乱に粉をこねるプリマドンナ…想像できない(笑)。しかし、もともと「手を動かすことが好きだった」という嘉目さんにとっては、パン作りもシンプルな方法が合っているということなのだろう。イタリア留学中もほとんど外食せず自炊だったという彼女。今でも時々、トスカーナ料理を作るという。
「帰国後、トスカーナ名物の牛タンの煮込みを作ろうと思ったんですが、いい牛タンがなくて…。結局、卸業者から1キロのブロックを取り寄せました。」
ご本人いわく「夢中になると他が見えなくなるタイプ」というが、ひとつのことに一心不乱に打ち込むのが好きという性格は、舞台の上で自分とはまったく別の人物を歌い演じるオペラ歌手には向いているのかもしれない。何しろ、学生時代、歯科助手のアルバイトをしていた時には、「歯科助手役を演じているつもりで」美しい立ち居振る舞いを常に心がけていたというのだから。
この1月には、故郷大分で、大分二期会・文化庁・大分芸術短期大学の共同主催による『フィガロの結婚』に出演し、「今後、自分のものにしたい役のひとつ」という伯爵夫人を歌い好評を博した。『魔笛』の後には9月に『蝶々夫人』、そして12月には『金閣寺』(田尾下哲演出)と、今後も重要な舞台が目白押しの嘉目さん。舞台というオンと料理やパン作りというオフを上手に切り替えながら、新しいプリマ像を私たちに披露してくれるのを楽しみに待ちたい。
嘉目真木子(よしめ まきこ) ソプラノ
大分県出身。国立音楽大学声楽科卒業、同大学院オペラコース修了。第51期二期会オペラ研修所修了、優秀賞受賞。2010年東京二期会『魔笛』パミーナ役で本格的デビュー、続いて2011年、東京二期会『フィガロの結婚』スザンナ、同年『ドン・ジョヴァンニ』ツェルリーナ、2012年『パリアッチ(道化師)』ネッダ、といずれも見事な演唱が絶賛を博し、今後のオペラ界を担う逸材として大きな期待が寄せられている。コンサートソリストとしても下野竜也指揮大阪フィル「四季」、同楽団新春名曲コンサート、ベートーヴェン「第九」で活躍。2013年から文化庁派遣新進芸術家海外研修員としてフィレンツェにて研鑽を積み2014年に帰国した。今年は7月東京二期会『魔笛』パミーナ役、12月には神奈川県民ホール開館40周年記念『金閣寺』有為子役で出演が予定されている。二期会会員
www.makikoyoshime.com/
富澤商店 ららぽーと豊洲店
プロの和菓子屋・菓子店・ベーカリーが用いる高品質の製菓・パン材料と、1919年の創業以来一貫して各地の生産者から仕入れる農産乾物・海産乾物を扱う。全国に40店舗以上を展開。ららぽーと豊洲店には常に50種以上の小麦粉があり、手作りに熱心な多くの主婦や趣味人たちで賑わっている。
〒135-8614
江東区豊洲2-4-9 アーバンドックららぽーと豊洲1F
03-6910-1552 営業時間 10:00~21:00 http://www.tomizawa.co.jp/
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