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オペラを楽しむ

白井 晃が語る『こうもり』
人間の本質を描いていきたい

取材・文=藤本真由(舞台評論家)
写真=広瀬克昭


二期会で初めて手がけられた一昨年の『オテロ』から一転、今度は『こうもり』を演出されることになりました。

 実は、見破られたか~という感じなんです(笑)。最初に演出したオペラ『愛の白夜』も重い作品なら、『オテロ』も悲劇性を極めた作品で、そちらの方面のものを割り当てていただくことが多いのかなと思っていて。ただ、本質的には、小劇場の時代から、喜劇の中に詩情、ポエジーを求めるタイプの作品を志向していた人間なので、喜劇は大好きなんです。だから今回、オペレッタの代名詞のような作品のお話をいただいて、自分のそういう部分も見られてたのか~(笑)と思いました。

『こうもり』の魅力をどのように引き出す演出になるのか、楽しみです。

 一つのトーンに貫かれた作品で、どこをとっても楽しい音楽の連続ですが、とりわけ、今からオペレッタを観る!という衝動に浸らせてくれる序曲は最高にわくわくしますよね。今回は、喜劇性を強調し、日本人がこのコメディをおもしろくおかしく感じ、楽しんで取り組んでいるというところを見せる仕掛けにしたいと考えています。例えば、セットは書き割り。アイゼンシュタインの邸にしても、飛び出す絵本の立体版をイメージしていて。衣裳も、絵で書いたものに歌い手が首だけ乗っけているようなものがあってもいいなと。日本人である我々が、時代考証にせよ、リアルを求めていっても、身体的にそぐうものではないと思うんです。それより、作り物の19世紀のヨーロッパを一生懸命やっていますが、ちょっと変でしょ?くらいの感覚でいいと思って。フィクションの中に入り込みました、そんな側面を強調して、観る方にそのギャップを楽しんでいただく感じですね。

日本人がオペラをはじめとする西洋文化をどのように受容し、体現していくかにまつわる、きわめて本質的な視点を感じます。

 西洋文化に我々の肉体をどうそぐわせるかというのは、演劇の分野でも抱えている問題ですよね。二つやり方があると思うんです。シチュエーションを身体に入れ込み、浸透させてから、削ぎ落としていって見せるやり方が一つ。そしてもう一つが、向こうのものを楽しんでやっていますという感じで、客体化して見せるやり方。今回の『こうもり』は喜劇なので、客体化、突き放して眺めることがやりやすい作品だと思うんです。その上で目指すは、笑えるポイントは一つたりとも外さない演出。すべてのポイントを一つ残らず拾っていきたいですね。「ウィンクしながら歌えませんか?」とか、「そこは歌いながらもっとおかしな表情で」とか、リハーサルではきっとガンガン言うと思います(笑)。シチュエーション・コメディに近いというか、バカバカしいホームドラマみたいなところも非常におもしろい作品じゃないですか。人間の本質的なおバカさんぶりをたっぷり楽しんでいただけるよう、人間喜劇として突きつめて演出していきたいですね。観にいらした方に、あ、こういうところ自分にもあるあるとか、こういう人いるよねとか感じていただけたらなと。奥さんが隣の席のご主人を、「あなたも昔、変な香水のにおいをぷんぷんさせてたことあったわよね」って、肘でつんつんつついたりするような(笑)。

クラシックにジャズにシャンソン、さまざまなジャンルの音楽への造詣も深いだけに、演劇作品においても音楽性を重視した演出が印象的です。

 音楽好きの両親の影響で、子供のころからピアノを習っていましたし、ずっと音楽にふれてきていたということもあって、演劇においても、戯曲に興味があるというよりは、役者と言葉と音楽が一体となった総合芸術としての側面に魅かれてきたという部分があるんですね。たとえまったく音楽が流れない舞台になったとしても、それは自分としては、この作品においては無音という音楽が流れることがもっとも必要だったという判断をしたという感じで。かつて『ルル』や『ファウスト』を音楽劇として演出したのも、オペラにもある作品だから――という考えが無意識に頭の中にあったと思います。難しい作品だと思いますが、いつかオペラ版の演出にも挑戦してみたいですね。

演出家としてだけではなく、役者としても多方面で活躍されていらっしゃいます。

 演出家のときと役者のときとでは人格が変わるんです(笑)。演出の場合は、客席を含めて劇場全体をどう一つの空間として作っていくかということを考えていますから、俯瞰した目で見ようとするので、誰に対してもものすごく開放的に接しているんですね。役者のときは反対に、「……放っておいて……」みたいな感じで、自分の世界に一人静かに入っているというか。舞台に出た瞬間だけが、その役として生きる瞬間ですから。今回の『こうもり』でも、フロッシュ役を演じてはどうかというお話もいただいて、のせられそうになったんですが、だめです、そんなことをしちゃ。自分のことで夢中になってしまう(笑)。演出するときはあくまで俯瞰的に見ていたいなと思うんです。
 両方の立場を経験しているので、役者が今とまどっているなとか、役として生きにくいと感じているんだなとか、演出していてそういうことを比較的敏感に感じられるタイプではないかと。蜷川幸雄さんに串田和美さんに三谷幸喜さん、役者として多くの演出家の方とご一緒してきた経験がありますが、自分は出演者に伴走するタイプの演出家だなと思うんですね。「まだまだ行ける、もっと行けるよ~」なんて、後ろからメガホンで励ましているイメージというか(笑)。
 オペラの場合はオーケストラピットがあるからなかなか難しいところもあるんですが、劇場全体が祝祭空間として一体化する、そんな作品創りを目指していて。ただ演じて歌うとか、嘘っぱちにしか見えないということではなく、その人がその役としてきちんと生きている、そういう舞台を創りたいといつも思っているんです。人間をしっかり描いた、人間の記憶を中心とした物語を立ち上げ、そこに音楽がカオスのように渦巻いている空間がある。そんな、自分として納得の行く舞台を一本でもいいから創りたいというのが究極的な目標ですね。


白井 晃(しらい あきら)
演出家・俳優。京都府出身。早稲田大学卒。83〜02年まで遊◎機械/全自動シアターを主宰。独自の美学による演出で評価を受け、01、02年に読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。現在は演出家として作品を発表する一方、俳優としても舞台・映像で活躍中。



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