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超新星 アンドレア・バッティストーニに聞く
取材・文=加藤浩子


 24歳の若さでイタリアの主要な劇場やフェスティバルを次々と制覇、スカラ座やベルリン・ドイツ・オペラへのデビューも控え、50年に一人の逸材との呼び声もあるアンドレア・バッティストーニ。二期会初演となる『ナブッコ』で日本デビューを果たす。首席客演指揮者をつとめるパルマの王立歌劇場が主催するヴェルディフェスティバルで、『ファルスタッフ』の初日を終えたばかりのマエストロに話をきいた。



2009年『アッティラ』を指揮するアンドレア・バッティストーニ Foto : Roberto Ricci,Teatro Regio di Parma

─このフェスティバルで、昨年はヴェルディ初期の『アッティラ』、今年は最後のオペラである『ファルスタッフ』を指揮されましたが、2作の様式はどう違いますか。

バッティストーニ(以下B) 『アッティラ』は伝統的なイタリアオペラの延長線上にあるメロドランマですが、『ファルスタッフ』はオペラの新しい時代の幕を開けた大傑作です。イタリアオペラの歴史で初めて、音楽とドラマが完全に一致し、ずっと同じテンションが続くのです。『ファルスタッフ』の存在は、ヴェルディが音楽史において天才とされる大きな理由だと思います。

─東京で振られる『ナブッコ』は、『アッティラ』よりさらに前の作品ですが、どう位置づけられていますか?
B
 ヴェルディの3作目のオペラで、前作より格段の進歩を遂げた最初の大作です。伝統的な形式ではありますが、合唱の扱いなどは革新的です。合唱が背景にとどまらず、ひとつの人格、独立や自由を求めるイタリアの大衆の声として扱われているのです。


パルマ旧市街にある
ドゥオモ、鐘楼、洗礼堂

─そのような大衆の叫びを、『ナブッコ』の音楽に感じられるわけですね?

B もちろんです。ヴェルディは植民地化されたイタリアが自由になることを誰よりも願っていました。だから自分の愛国心を、計算した上で音楽に組み込んだのです。そのエネルギーは暴力的なほどです。彼は『ナブッコ』の音楽を通じて、イタリア人が感じていた自由への飢餓感を呼び覚まそうとしたのです。


─ダニエレ・アバドさんの演出についてはどう思われますか?

B アバド氏とご一緒するのは初めてですが、とても知的で才能豊かな演出家です。このプロダクションでは、『ナブッコ』が大衆のドラマであることがよく理解されていると感じます。


トスカニーニ博物館
展示物内部

─指揮者になったきっかけを教えてください。

B 幸運なことに、母はピアニスト、父は医者ですが大の音楽ファンという環境に育ちましたので、音楽はとても身近でした。最初はチェロを学びましたが、オーケストラは大きな楽器だと感じ、惹かれていて、音楽院のオーケストラを振る機会があり、魅了されました。それでチェロでディプロマを取りましたが、卒業後に指揮者をめざしたのです。

─影響を受けた指揮者はどなたでしょう。

B ガブリエレ・フェッロのアシスタントをしたことが大きかったです。それまではどうやって指揮を勉強したらいいかよく分からなかったのですが、彼の仕事をそばで見、一緒に仕事をすることで、指揮者に必要なことを学びました。ジャナンドレア・ノセダからは、自分のもっているエネルギーをいちどに音楽に注ぎ込むことで、音楽からエネルギーを引き出すことを学んだと思います。

─指揮者にとって大事だと思われることは。

B まず時間をかけてスコアを勉強し、音、テンポ、色合いなど、作曲家の意図を少しでも明らかにするよう努めます。そして頭のなかに、その作品の理想的な表現、響きを創り上げます。棒を振った時、それと同じ響きが出てくればそれでいいですし、そうでない場合は、そのずれを少しずつ調整していきます。

ボックス席並びに緞帳

パルマ王立歌劇場シャンデリア

─日本のファンへのメッセージをお願いします。

B 日本に招かれて、自分の国の自分たちのオペラをご紹介できることはとても光栄です。『ナブッコ』は、ヴェルディのオペラが初めての方でもなじみやすい作品だと思います。冒頭の序曲も名曲ですし、個性豊かな主役である合唱も聴き所です。第二の国歌である〈行け、わが思いよ〉の合唱は、日本からイタリアに思いを馳せながら指揮することになるでしょう。

二期会『ナブッコ』チラシを手にするアンドレア・バッティストーニ

 バッティストーニとの出会いは鮮烈だった。昨年のヴェルディフェスティバルで一番話題になった『アッティラ』を振ったのが彼だったのだ。鮮やかな推進力と抜群のテンポ感、そして柔軟さを兼ね備え、歌手の歌心も存分に発揮させる音楽作り。曲が進むごとに熱が高まり、ヴェルディの故地ブッセートのヴェルディ劇場は、新たなスターの誕生に沸き返った。あの指揮者、23歳だって!驚きの囁きが天井桟敷に広がっていたのを覚えている。
 それから1年。『ファルスタッフ』も素晴らしかった。音楽が完全に体のなかに入っている。インタビューで彼が強調していた「イタリアオペラ史上初の連続した、劇としてのオペラ」である一貫性が浮き彫りにされ、ほとばしる若さも好もしかった。『アッティラ』とはまったく異なる様式を自分のものにしている。きくところによると、ヴェルディのオペラの大半は暗譜しているという。凄い指揮者が現れたものだ。
 二期会での『ナブッコ』の後は、スカラ座で『フィガロの結婚』、フィレンツェで『ラ・トラヴィアータ』、2013年にはベルリン・ドイツ・オペラで『ナブッコ』と大型デビューを控える。世界への飛躍目前のイタリア人大型指揮者を日本で聴けるのは、何と幸せなことだろう。

アンドレア・バッティストーニ Andrea Battistoni
1987年ヴェローナで生まれ。7歳よりチェロを学び、後に作曲・指揮を学んだ。
2011年1月より、パルマ王立歌劇場の首席客演指揮者に就任。キャリアの初期より著名な劇場、バーゼル歌劇場、ヴェルディ・トリエステ歌劇場、ナポリ・サンカルロ歌劇場、ヴェローナ・フィラルモニコ劇場、カリアリ歌劇場、パレルモ・マッシモ歌劇場、ミラノ・アルチンボルディ劇場、パルマ王立歌劇場等で指揮している。またブレシアとベルガモのミケランジェリ音楽祭、ペーザロ・ロッシーニ音楽祭、パルマ・ヴェルディ音楽祭にもこの若さで登場している。
既に『ラ・ボエーム』『ランスへの旅』『秘密の結婚』『アッティラ』『ラ・トラヴィアータ』『セビリャの理髪師』『リゴレット』を指揮しており、今年アレーナ・ディ・ヴェローナ、ヴェネツィア・フェニーチェ歌劇場で『セビリャの理髪師』、マチェラータ音楽祭『リゴレット』、パルマ・ヴェルディ音楽祭『ファルスタッフ』を指揮した。12年には、2月の東京二期会『ナブッコ』でのデビューに続き、6月には総本山であるミラノ・スカラ座に『フィガロの結婚』でデビューする。
12年ベルリン・フィルハーモニーザールでベルリン・ドイツ・オペラ管と『イル・トロヴァトーレ』演奏会形式に続き、13年にはベルリン・ドイツ・オペラで『ナブッコ』新演出上演を早くも任される。
世界の視線を最も熱く浴びるイタリア指揮者の超新星。



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