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オペラを楽しむ

音楽劇場は国境を超える

~『ドン・ジョヴァンニ』東京二期会オペラ劇場からライン・ドイツ・オペラへ。共同制作に向けて。
聞き手・東京二期会事務局

CHRISTOPH MEYER Generalintendant
クリストフ・マイヤー総裁

 東京二期会11月公演『ドン・ジョヴァンニ』共同制作の相手方ライン・ドイツ・オペラ総裁のクリストフ・マイヤー氏(Prof. Christoph Meyer)へのインタビューは大震災から3カ月後の6月末に行われた。劇場内に日本のための義援金箱が設置されており、ドイツの人々のあたたかい気持ちを感じた。氏にドイツの劇場事情や、ラインアップの決め手、インテンダントという仕事について伺った

─この度、二期会オペラ愛好会と日本のオペラファンのためにお時間を賜り、誠にありがとうございます。初めに特にデュッセルドルフ市民の皆様方が東日本大震災の被災者に示してくださった連帯の志と義援金に対し、深く感謝申し上げます。

クリストフ・マイヤー氏(以下M):被災された日本の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。佐渡裕氏の指揮による第九演奏会も行われましたが、私たちの劇場には日本の被災者への寄付金ボックスが常に設置されています。

劇場に設置されている日本のための義援金箱

ライン・ドイツ・オペラ

Deutsche Oper am Rhein
(ライン河畔のドイツ・オペラの意)
Theatergemeinschaft
Düsseldorf-Duisburg gGmbH
(デュッセルドルフ/ デュイスブルク劇場共同体公益有限責任会社) 
約25km離れているデュッセルドルフ・オペラハウスとデュイスブルク劇場を擁するオペラ・カンパニー。それぞれデュッセルドルフ交響楽団とデュイスブルク・フィルがピットに入る。1970年代から80年代に若杉弘が音楽総監督(GMD)を務めた。多くの二期会会員がライン・ドイツ・オペラの舞台に登場した。

─今回東京二期会とは初めてとなりますが、ライン・ドイツ・オペラは共同制作を恒常的に行われているのですか?

M:実際そうだといえます。就任以来、1、2作をわれわれの団体だけで制作しました。他の全ては共同制作です。相手方はロンドンやハンブルクをはじめ多様です。ある一つのプロダクションが良ければ、それを将来的に更にあちこちで上演しない理由はあるでしょうか?私たちは次のシーズンも共同制作を行います。それにより制作コストは少なくなります。9月と10月にオーケストラボックスを広げる工事を始めるため、劇場の上演期間が短くなりますから、自分たちで資金繰りを考えなくてはなりません。それで、ロレーヌ劇場やライプツィヒ・オペラ、そして二期会との共同制作を行う、というわけです。

─共同制作とは本来何を意味しますか?

M:通常は、例えば二期会が『ドン・ジョヴァンニ』を制作し、当方もこれとは別に制作しますが、共同制作となると舞台装置、衣裳、小道具がそれぞれ一式で済み、経費は共同で負担します。もちろんこれは好都合ですが、他の視点から見れば、日本とドイツにおいて芸術的な共同作業の分野で文化交流が行われ、両者の素晴らしい結びつきをもたらします。これはより重要なことで、音楽劇場は国境がないことを示しており、相手方が東京でも、ヘルシンキでもサンパウロでも同じことです。国境がある政治では、容易になし得ないことなのです。重要なのは、多少なりともその国の文化に触れることです。オーストラリアやアフリカにて行う場合も同様です。今日これを可能としている理由の一つとして、経費の大半を占める輸送コストが、かつてより安価になっていることが指摘できます。私自身は1992年にケルン・オペラの客演で5週間横浜と東京に滞在しました。その時代よりも、確かに容易になっています。

─今回の共同制作の演出家カロリーネ・グルーバー氏をどのように見出しましたか?(カロリーネ・グルーバー氏は、2005年7月『フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ』(東京二期会オペラ劇場)、2008年10月『サロメ』(びわ湖ホール)で来日し、斬新な演出手法で話題を呼んだ。)

M:数年前に、彼女とライプツィヒで『ナクソス島のアリアドネ』で契約して以来、よく知っています。この時はカロリーネさんとロイ・スパーンさんのチームで、とても興味深い内容でした。そこで、彼らをラモー『プラテエ』に起用し、成功をおさめました。その時に彼女から二期会の情報を得て、話し合い、すぐに今回の『ドン・ジョヴァンニ』共同制作につながった、というわけです。

2011年1月ライン・ドイツ・オペラ公演
ジャン= フィリップ・ラモー作曲『プラテエ』(演出:カロリーネ・グルーバー、装置:ロイ・スパーン、衣裳:メヒトヒルト・ザイぺル)Foto von Hans Joerg Michel

─以前は、毎晩オペラを上演する歌劇場が多くありましたが、現在は少なくなっています。オペラの将来はどうなるのでしょう。ますます上演回数が減るのでは?

M:私たちは、両劇場で(バレエ等を含め)330回にのぼる上演を行っています。これ以上少なくしてはいけないと思いますが、かつてはろくな稽古も行わず、歌手が来ては去り、来ては去りする公演だったのです。ウィーンに似ていますけれどね。難しいことですが、多くの回数を上演するためには、もっとゲスト歌手を招聘し、経費を掛けなくてはいけませんし、そうなると予算内には収まらないでしょう。

─今年の上演計画に、来年私どもが『パルシファル』で予定している演出家クラウス・グート氏の名を見出しましたが、彼の演出をどのようにご覧になっていらっしゃいますか?

M:クラウス・グートは、現在ドイツで最も人気がある演出家です。その内容について述べるのは難しいですね、なぜなら、彼は僕の友人ですから。彼の作品を実に沢山観ています。とても良い演出家だと思います。昨年は彼の『トリスタン』を上演しましたし、今年は『セビリャの理髪師』を上演します。また、2013年にはリヒャルト・ワーグナーやハインリヒ・ハイネをめぐる作品を計画中です。本当に素晴らしい演出家です。しかしこれは全ての演出家について言えますが、たとえば20作品あるとして、その全部がパーフェクトというわけにはいきません。普通のことです。それが演出家の宿命ということなのです。

─また、東京にて再びお目にかかれるのを、楽しみにしています。

M:私も今回の『ドン・ジョヴァンニ』が、両国で成功を納めるものと期待しております。



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