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キャストインタビュー 丹藤亜希子・松村英行

『トゥーランドット』キャストインタビュー 文・小田島久恵 写真・広瀬克昭

使命感をもって演じます
丹藤亜希子

   
『ト
ゥーランドット』は、過去にリュウ役も歌った経験があります。ドラマでお客様が感情移入するのはリュウなのですが、やはりトゥーランドット姫のシンボリックな存在が、このオペラの核だと思います。姫の独特な世界観を、リュウやカラフが開こうとしている。私はそう捉えています。その後、あるプロダクションで二役のカバーで参加したときは、マエストロから「え、どっちもやるの?」とびっくりされましたけど(笑)。同じオペラでプリマとセコンダをやらせていただいたのは、とても幸運だったと思いますし、勉強になりました。
 タイトルロールの音域はとても広いですし、登場からカラフとの謎かけまで、ずっとエネルギーを出し続け、一旦クールダウンした後、またデュエットで最大エネルギーを出す、という大変な役です。スタミナも必要ですし、声帯だけではなく、身体の筋肉からすべてをコントロールして臨む役だととらえています。姫の冷たさや神秘性も、いかにも寓話の中の特別なキャラクターですし、演出の都合でお客様から遠い舞台の奥にいることが多いですから、厚いオーケストレーションを越して歌うのは大変です。
 05年に『トゥーランドット』でイタリアデビューしたのも、私にとっては貴重な経験です。小さなサマーフェスティバルですが、毎年有名なイタリア人歌手が出演しています。テノールの故ジャンフランコ・パスティネ先生から「トゥーランドットは東洋の人がいい。アキコにやってほしい」とお声をかけていただきました。
「そろそろイタリアで勉強が始められるかな」と判断し、渡ったのは29歳のときです。日本でじっくり指導してくださった疋田生次郎先生には、大きな舞台へ立つときの心がけをはじめ、数えきれないほど素晴らしいことを教えていただきました。「イタリアへ行っても、日本人として大事なことは、向こうへ行っても大事なのだ」と助言していただき、その言葉は心に残っております。
 イタリアではジェノヴァで四年間学びました。私の声を見出してくれたのは恩師ルイザ・マラリアーノ先生です。最初のレッスンのときに「オーディションであなたの声を聴いて、私は魅了されました。なぜならとても貴重な声だし、フィギュアの面でも重要な役どころを演じなければならない素材だから」と言っていただいたのを記憶しています。それまで自分の声がドラマティコとは思っていなかったので「スピント、ドラマティコは特に慎重に時間をかけて勉強しなさい」と仰っていただいたのが印象的でしたね。この公演は彼女もイタリアから観に来てくれます。
 ドラマティコの歌手は世に大勢いるわけではないので「しっかりつとめなくては」という使命感があります。リスクもあるし、自分で自分の声を守っていかなければならない。『トゥーランドット』も自分が歌いたいから何時でも歌えるという役ではないと思います。今まで私を育ててくれた色々な人に心より感謝しながら、日本での公演を成功させたいですね。

作曲家の頭で
松村英行

   
供の頃はピアノを勉強させられていました。声楽家の父がすごく厳しくて、一回弾いたらマッチ箱からマッチを一本取りだして、全部なくなるまで弾いた後、再度箱に入れて弾く、といった練習をさせられ、すっかりピアノが大嫌いになってしまった(笑)。ピアノをやめたあとに、中学二、三年の頃、家庭教師に「ドミンゴというのを聴いてごらん」と言われて歌に目覚めたのですが「すごいなこれは、なんなんだ」とびっくりしましたね。でも一番好きなのはデル・モナコでしたけど。LPレコードを擦り切れるほど聴いていました。
 歌はまた親父につきましたよ。お袋が「泣かすなら、やめろ」と父との間に入ってきたこともあり、全く大変なことでしたね(笑)。当時は主にトスティなどのイタリア古典を練習し、高校一年から伊藤宣行先生につきまして、そこからは平和でした。
 芸大卒業公演で『ドン・ジョヴァンニ』のタイトルロールを演じ六年前くらいまでずっとバリトン。ミラノとニューヨークに留学したときも、バリトンの発声を勉強していましたね。ミラノではカルロ・メリチャーニさんとロベルト・ネグリさんに教えていただいて。イタリアは語学的なことも含め、向こうの文化を吸収できたことが大きかったな。何年間かバリトンとテノール両方を歌う日々が続くわけですが、「これではいかん」とテノール一本にし、今日に至っています。
 『トゥーランドット』のカラフは、今回が初舞台ですが、以前『オテロ』で共演させていただいた先輩の福井敬さんとダブルキャストで、光栄に思っています。二人は全く違うカラフになると思いますよ。そのほうが面白いですよね。テクニック的にはCが二回出てきますし、高音は大変。有名な「誰も寝てはならぬ」も、テノール歌手にとってはハードです。前半いくら完璧に歌っても、最後の高音を失敗すると台無しですし。「泣くな、リュウ」も実はそれ以上に大変なんですよ。でも、歌手が大変なくらいじゃないと、お客さんも感動して頂けませんよね。
 一番に考えているのは「プッチーニはこのオペラで何をやりたかったのかな」ということなんです。作曲家って、明らかに歌手より頭がいいわけですから(笑)、歌い手も、ただ歌うだけじゃなくて、作曲家の頭で歌うことが必要だと思います。これは僕が師事した先生が仰っていたことでもあるんですが……。プッチーニの場合は、すべて譜面に書いてくれているという点が助かります。ヴェルディですと、歌手が楽譜に書かれていないものを作り上げていかなければならないことが多いので。ただ、『トゥーランドット』は作曲家が途中で亡くなっていますから、アルファーノの加筆のフィナーレは歌手にとって音楽の流れが変わるため大変に厳しい部分です。プッチーニが最後まで書いてくれていたら、もっと楽に歌えるのに、と思います。
 カラフも強靭な喉を要求され、それに応えないと歌えないオペラですし、ロシア・東欧以外ではそんなに頻繁に取り上げられない作品ですよね。「日本人だからこれで精一杯」じゃなくて「日本人でもここまでできる」というレベルを目指して舞台に望みたいです。


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