TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

ENGLISH

オペラを楽しむ

キャストインタビュー 星野 淳・坂井田真実子

『メリー・ウィドー』キャストインタビュー 文・中沢文子 写真・若林良次

二度目の伯爵では更なる艶ある演技と美声で魅せる
星野 淳

 

   
学で気象学を学びその研究者になるつもりが、混声合唱団に入り夢中になってしまいまして(笑)。北海道五大学のジョイントコンサートで指揮を気持ちよく務めたんですが、1000人のお客さんの視線を背中に感じて悟ったのが「自分は人前で何かをする人間なんだ」。そして指揮者を志して音楽科を受験者し合格。定期演奏会で1000人の視線の正面で歌ったら、これまた気持ちよくて。完全にハマッてしまい、オペラの道に進もうと決心しました。
 更なる飛躍を目指し上京。二期会に入り、中村健先生にご指導頂きました。これまでは楽譜の読みが不十分だったと見直せましたし、大きなステップアップに繋がりました。演出家の平尾力哉先生から「第一の演出家は作曲者だよ」という言葉を頂き今でも忘れられません。作曲家は楽譜の上にさまざまな形でメッセージを残していますが、それを忠実に表現することが我々音楽家の務めなんですね。以降、くまなくチェックして「作者はどうしたいのか?」と意図を汲み取るようにしています。
 例えばベートーヴェンの第九。バリトンのパートで1箇所ad lib.と書いてあるんです。ある指揮者に「アドリブでやって下さい」と言われ、気づかなかったけど見ると確かに書いてある。自分なりに工夫して歌ったところ凄く映えたんです。「これを聞いたらベートーヴェンは喜ぶだろうな」と以後ずっと続けています(笑)。
 オペラスタジオの修了公演では、最高のバリトンの役を得ようと目標を立て達成しました。そこでは栗山昌良先生との出会いが最大の収穫でした。先生の指導はサジェスチョンに富み、全てに論理の裏付けがある。毎日の稽古が新鮮で、楽しかったですね。以来栗山先生は神のような存在です。
 97年『メリー・ウィドー』のサン・ブリオッシュに起用されました。この作品は庶民のために作られたオペレッタ。舞台とお客さんが一体になれるのが醍醐味でしょう。公演の時、丁度FIFAワールドカップサッカー・フランス大会アジア最終予選と重なってしまったんですよ。お客さんも自分たちも試合の行方が気になって仕方がない。そこでニェーグシュが劇内で「閣下、2対1で負けました」と台詞で加えたら、会場内がドッと沸いたんです。ツェータ男爵が「フランスは遠いのう・・。」と返したのも傑作でした。だって舞台はパリですからね。みんなが知りたい情報を臨機応変に入れてもオペレッタは成立してしまう点が、面白いですね。
 05年にはダニロ・ダニロヴィッチ伯爵を射止めました。階級社会の圧迫から恋人ハンナと結婚できず、自暴自棄に。毎日まともに働かずパリで遊んでいたら、未亡人となったハンナと再会してしまう。男の複雑な心情を漂わせつつも、遊び人らしく踊りも振舞いも華麗にこなさないといけないだけに、内面・外面ともに表現に苦心しました。それにラインダンスでは華麗に足を上げて踊りましたね(笑)。大学生の頃、バレエを習ったことがお蔭さまで役に立ちました。
 5年前の公演は大劇場でしたが、この劇自体小ぶりの劇場向きですよね。今回の日生劇場はぴったりだと思います。舞台と客席が一体となった臨場感溢れる一時を楽しんで頂けると思います。僕も更に熟成することができましたし、今回の舞台では、前回以上のダニロを演じますよ!
初の大役で、留学で会得した技と才覚を開花
坂井田真実子
   
が音大の声楽科出身。家で母の歌声を聞いて育ったせいか、幼い頃から歌うことが大好きでした。3~4歳にして家族とレストランへ食事に行くと椅子の上にのってお客さんに向け歌うほど、明るく活発な子だったそうです(笑)。
 音大に行こうと決めたのは高校2年生の終盤でした。これから何を勉強しようと考えたら、やはり音楽だったんですね。でもクラシックよりジャズやポップスが好きでしたし、まさか舞台に立つ仕事をするとは予想もしていませんでした。
 大学院に入るとイタリアに留学したいなと思い始め、アルバイトを3つかけもちし資金稼ぎを決行。みんなで学ぶ大学オペラというイベントで『フィガロの結婚』のスザンナ役を頂いたものの、アルバイトに熱を入れすぎてダウンしてしまいまして…。甘かったと反省し、仕事の量を減らしてレッスンに専念。これを機に、音楽に対する姿勢が大分変わりました。
 奨学金を頂き、大学でお世話になった塚田京子先生の勧めでイタリア・ボローニャに留学することになりました。セルジョ・ベルトッキ先生に教えを請うことになりましたが、非常に厳しい方でして。人間って物事に対してどこか恐怖心があったりしますよね。先生は「声を発することへの怖さを取り外さない限り、自分が持つ本当の声が出ない」と常におっしゃいました。つまり“素になれ、ゼロになれ”って意味なんですね。おかげで自分も歌もかなり成長しました。
 2年留学を経て帰国すると、ピアノの恩師の誘いでオーストリア・ウィーンに留学することになりました。恩師が有名なウィーン大学のマルガリータ・リロヴァ先生にお願いして下さり、ご指導頂くことになったんです。先生は一声聞くだけで「マミコ!何があったの?」と、瞬時に心理状況を読んでしまうほどの凄さでして。事情を話すと「レッスン前に言わなきゃ駄目じゃない。でもどんな状態下でも左右されることなく、普通に歌える練習をしなさい」とおっしゃい、その通りだな、と痛感でした。「歌おうと頑張ると余計な力や我が入るので、体に自然に響かせるように歌いなさい」とも教えられ、必死に取り組み、かなり音質が変わっていきました。
 現在も日本とウィーンを往復し、スキルアップを重ねていますが、今後も音楽に対して誠実に携わっていきたいです。
 憧れの『メリー・ウィドー』で初の大役〈ヴァランシェンヌ〉に起用され、本当に感激しています。作品はオペレッタで日本語訳上演。日本人でも理解しやすい点が魅力といえます。それにオペラとミュージカルをミックスさせた内容なので、初心者でも大いに楽しめますよ。
 今回の役柄はワルツありフレンチカンカンありと、歌だけでなく踊りでも惹きつけなければならないため、バレエ教室にも通っています。〈ヴァランシェンヌ〉は華やかな女性ですが、男女のやり取りとなると可愛らしくいじらしいところもあり、移ろう心理描写も表現しないといけません。お客様に「あ~、分かるな」と共感してもらえるよう、舞台から何かを伝えられるよう頑張ります。


→オペラを楽しむTOP          →2010年11月公演『メリー・ウィドー』公演詳細