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オペラを楽しむ

私とオペラ
紺野 美沙子

 高校生のとき、音楽、なかでもクラシックが大好きだった県立高校の教師をしていた叔父に「大人の教養のひとつとして、オペラは観ておいたほうがいい」と誘われ、連れて行ってもらった『ラ・ボエーム』が、私とオペラとの最初の出会いです。
 当時、その作品は「史上最高のミミ」と評されており、上演後はみなスタンディングオベーションで大絶賛だったのを今でも覚えています。ただ、残念なことに、オペラ初心者の私には、病気を患い瀕死であるミミ役を、いかにも健康そうなふくよかな女性が演じていることに違和感を抱き、正直、感情移入することができませんでした。今思うと、オペラの奥深さを理解するには、高校生の私はまだまだ幼かったのかもしれません。
 しかし、その後、ふたたび叔父に連れられ観た『カルメン』で、オペラへの意識は一変しました。タイトルロールをつとめたのは、アグネス・バルツァ。彼女と彼女が演じたカルメンのイメージがぴったりと合っていたということもあり、彼女の迫力ある歌声とその演技力に心打たれ、違和感なくオペラのすばらしさを知ることとなったのです。
 これをきっかけに、オペラに魅了され、もっと知りたい、と欲求が高まっていきました。
 なかでも2009年に新国立劇場で上演された『鹿鳴館』は、最近では一番印象に残っています。迫力ある歌声やオーケストラの演奏、美術セットも素晴らしく、スケールからも日本のオペラの底力を感じた魅力的な作品でした。
 以前、オペラコンサートの司会をつとめさせていただいたことがあるのですが、そのときに歌手の方の生の歌声を間近で聴く、というとても貴重な体験をさせていただきました。マイクを通したものとは違う、生声ならではの迫力ある歌声はまさに圧巻。思わずお仕事であるのを忘れてしまいそうになるほど、聴き入ってしまったほどです。とても楽しい、幸せな時間を過ごすことができました。このことをきっかけに歌手の方とも交流を持つようになり、それまで以上にオペラへの関心も高まりました。
 最初こそオペラに感情移入ができなかった私ですが、その違和感は回を重ねるごとに消え、私自身演劇や朗読などの舞台の世界に身を置くようになったことで、改めて歌声だけで感情を表現するオペラの難しさ、そして素晴らしさに気づき、その魅力が分かるようになりました。
 今では、少し背伸びした、とても特別で大切な時間。それが私にとってのオペラです。

紺野 美沙子(こんの みさこ)
俳優。国連開発計画(UNDP)親善大使。
2010年秋から、「紺野美沙子の朗読座」を主宰。音楽や影絵や映像など、様々なジャンルのアートと朗読を組み合わせたパフォーマンスや、ドラマリーディングを定期的に続けている。2013年3〜10月、舞台『人生は、ガタゴト列車に乗って・・・』(北千住シアター1010、全国巡演)に出演予定。


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