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オペラを楽しむ

私とオペラ
中井美穂

 オペラとの出会いは、大学の時でした。まだペレストロイカ前の頃ですが、父がたまたまモスクワに三年ほど赴任していました。それまでバレエやバレエ漫画が大好きだったので、モスクワならばボリショイ・バレエを観たいと思いました。
 「チケットがとれた」と言われ、ボリショイ劇場へ行ってみたら、なんとバレエではなく『ボリス・ゴドゥノフ』というオペラだったんです。ロシア語はさっぱりわからない上に、何時間もかけて壮大なロシアの歴史を総なめにするような、ものすごいオペラ……それが初めてのオペラ体験でした。
 わりと前衛的な作品が好みなんですけれども、クラシックの本筋を知らないので、少しひねった作品を観るためには、スタンダードなものを知っておく必要を感じています。まず王道といわれるような演出の作品を観たり、劇場に行く前にDVDで予習したりしています。王道を観ておいて、そこからさまざまな演出を楽しんでいます。
 演劇をたくさん観るので、知っている演出家のものは選びやすいですね。大島早紀子さん演出の『ファウストの劫罰』は拝見しました。他にも、鵜山仁さんの『カルメン』や山田和也さん、野田秀樹さんなど、現代の演出家の手がけられた作品をわりと多く拝見しています。演劇の演出家がオペラをどんな風に演出されるか、ということに興味があります。やはり音とか色とか、劇場の空間とかを含む、すべてのものがあわさって一個の物語を進めていくわけで、観客もその中の一部なのですよね。
 オペラや小説、すべての芸術作品に触れる時、作品と自分のストーリーを重ねあわせ、自分の感情を乗せながら観ているように思います。結局は、自分の思考、物事の受け止め方や自分自身を観ている、そしてそこに正解はないのでしょうね。
 けれど何より、人の声のもつ底力に感動します。オペラではマイクを通さず、これだけの声を客席までしっかりと届かせる距離感、その声の長さみたいなものがものすごいです。
 今回のように大きな震災があった時、生の声は相当人の心に刺さるはずです。機械音ではなく、生だからこそ人に届く力は絶対にあります。是非これからも、声の力を届けていっていただきたいなと思います。
中井美穂(なかい・みほ)
◎アナウンサー
1987年~95年、フジテレビアナウンサーとして活躍。
「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」などの番組で人気を集める。
現在、「鶴瓶のスジナシ」(CBC,TBS)、「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MX テレビ)にレギュラー出演。
97年から連続してメインキャスターを務めるTBS「世界陸上」をはじめスポーツ・情報・トーク・バラエティと、幅広い分野のテレビ番組やCMに出演。
雑誌・新聞などでの連載コラムや、イベント、クラシックコンサートにおける司会や朗読などでも活躍中。


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