TOKYO niki kai OPERA FOUNDATION NEW STYLE OPERA MAGAZINE

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オペラを楽しむ

私の差し入れ
Vol.3
Baritone 小森輝彦× 自家製ドイツパン

mustでなくwant(贈りたい)の思いを大切にしたいですね

日本人初のドイツ宮廷歌手の称号を持ち、長らくドイツを拠点に欧州の歌劇場で活躍してきたバリトン小森輝彦。彼ならではの差し入れが、自家製ドイツパンだ。実は自他共に認める健康オタク。主にライ麦粉や全粒粉を用い、水・塩と粉イーストか酵母のみという良質なパンは、プロ顔負けの美味しさ。歌手仲間たちにも実に好評だそうだ。

「そうなんですよ。皆さんとにかく喜んでくださるので“オペラの稽古場には必ず一度パンを焼いて持って行く”という自分の中でのルールを作ってしまいました(笑)」

日本でもオペラやコンサートに引っ張りだこの小森。役柄についても、音楽についても、明晰な分析と解釈でつねに周囲をリードするオペラ界きっての知性派。きっと、差し入れに対しても一家言あるのでは…、と問うてみた。

「差し入れを通して、共演者たちが大切にしているものを、ほんの一端であっても共有し合えるのはとても貴重なことですよね。僕自身は、パンは別として、つねにmustでなくwant(贈りたい)の心を大切にしたいと思っています」

差し入れは日本特有の文化?と思いつつも、ドイツの劇場での差し入れ事情について聞いてみる。

「ドイツでは、どの劇場でも共演者同士でPremierengeschenk(初日プレゼント)という習慣があります。贈り物が交わされるのを見るたびに、初日特有の特別な高揚感を実感できました。何度経験しても新鮮な感覚で、本当に格別な喜びでしたね」

パンに添えるお手製ハーブバターもまた大人気。ドイツでは松の実、パセリ、乾燥トマト、ニンニクなどを用いるなど、各家庭独自のレシピがあるそうだ。小森オリジナルは、ブルガリアのチュブリッツァというスパイスとバター、万能ネギを混ぜたもの。

小森輝彦(こもり てるひこ) バリトン

東京藝術大学、同大学院、文化庁派遣芸術家在外研修員としてベルリン芸術大学に学ぶ。2000年より独アルテンブルク・ゲラ市立劇場専属第一バリトンとして活躍し、ドイツ宮廷歌手の称号を授与された。ザルツブルク音楽祭『午後の曳航』等に出演の他、日本に拠点を移して以降は、東京二期会『こうもり』アイゼンシュタイン、『ローエングリン』テルラムント等で活躍。来年4月東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ『エロディアード』にはエロデで出演予定。
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