[タミーノ]水船桂太郎 タミーノの試練が我がことのように思えます 「タミーノという王子の役、寡黙でニヒルで陰のある私にまさにピッタリな役じゃございませんか(笑)。」 お会いして早々、取材陣を笑いに巻き込む水船さん。しかし、今日のご活躍に至るまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。 「バリトンとして音楽大学の声楽科を卒業後、故郷に戻って10年ほど教職に就いていました。音楽を教えることにやり甲斐を感じていましたし、部活動として指導していた吹奏楽のコンクールでいい成績が得られるとそれは嬉しいものでした。そんな中、ドイツからいらしていた先生のレッスンを受ける機会があって、『ドン・ジョヴァンニ』のアリアを歌ってみたら、先生がピアノ伴奏の調性を段々上げていく。そして言うんです、“君はテノールだ。テノールの声に恵まれた人間は希少なんだから、勉強を続けたほうがいい。”日ごろ生徒たちに“夢を持て”と教えていながら、自分自身は一体どうだったのか。 |
[タミーノ]小貫岩夫 神学部グリー学科卒業です(笑) 「あのとき先輩たちが声を掛けてくれなかったら、今の僕は全く違う人生を歩んでいたかもしれません。」 北海道で牧師のご家庭に育った小貫さんは、神学の勉強のために同志社大学へ進学、そこで運命の出会いを果たします。 「新入生を狙ったサークル勧誘に捕まったんです。男二人連れで、聞くとグリークラブ(男声合唱団)だと言う。“昼飯奢るから”が殺し文句でした(笑)。でも、午後の練習を見学してみると、これがなかなか格好いい。バリトン・ソロが大活躍する曲がとても気に入ってしまって、気が付くと“自分もぜひバリトンで!”と入団を決意していました。結局、パート振り分けのテストで割と簡単に高音を出すことができてしまったせいで、“ハイ、君はトップ・テノール”、バリトンの野望は打ち砕かれたのですが(笑)。」 |
伝統も実績もあるグリークラブで充実した日々を過ごすうちに、将来の道が自然と見えてきたと語る小貫さん。その後音楽大学に進み、本格的に声楽を学ぶことになります。
「幸いにも、音大4回生の時に堺シティオペラに参加する機会を与えられて、それが『魔笛』のタミーノ役でした。これはドイツの歌劇場との共同公演で、当初は本役のカバーとして練習に顔を出していたのですが、本役の方のスケジュールがなかなか合わない。そうこうしているうちに、演出家の一言“小貫君でいきましょう”。本当に嬉しかったですし、それがきっかけとなり翌年にはドイツの劇場に招かれて舞台に立つことができ、とても勉強になりました。」
音大卒業後は東京およびミラノで研鑽を重ね、ご存知のように数々の舞台で好評を博してきた小貫さんだが、タミーノを演じるのは意外にもその時以来2度目。
「僕自身はパパゲーノ的な性格なんです。小芝居好きだし(笑)。タミーノは一体どういう人物なのかを考えると、結構難しいですね。基本は凛々しい王子様なんですが、登場直後に気絶して夜の女王の侍女に助けられたり、魔法の笛も夜の女王からの贈り物。ひょっとして“男性は女性に救われる存在だ”というのがモーツァルトの人間観だったのかな、なんて考えたりもします。ただ、パミーナへの一途な思いは終始一貫しています。彼女の絵姿を見て一目惚れ、何とかして救出するぞ! という心の動きを納得して受け入れてもらえるように演じなければなりません。『魔笛』という作品は、筋が錯綜してはいるものの、素晴らしいメルヒェンですよね。大人の皆さんはもちろん、たくさんの子供たちにも足を運んでもらいたいですし、観に来てくださった全ての人に幸せな時間を過ごしてもらえるよう、全員で力を合わせて楽しい舞台を作り上げたいと思います。」
最後に、プライベートを少々。
「僕も関西に9年住んでいましたし、カミさんが関西人なんですね。会話に“ツッコミ”を入れること、“オチ”を付けることに関しては随分鍛えられました。あれっ? インタビューにオチが付かなくてすみません(笑)。」