『エフゲニー・オネーギン』叙情的情景 全3幕

<あらすじ>

第1幕 短い序奏に続いて第1場
ラーリナ家の田舎の屋敷。西欧的雰囲気はあるもののやはり古い田舎貴族の家。夕刻。地主で未亡人のラーリナの娘タチアーナと妹オルガが二重唱ロマンス《聞きしや、森の彼方の夜の声を、 愛の詩人の歌声を、悲哀の詩人の歌声を?》を歌い、夢見がちなタチアーナの性格が感傷的に示されると、ラーリナとフィリピエーヴナが加わり四重唱《とうの昔に過ぎ去った日々》となり、自分たちの若かりし頃を思い出している。人々がやってきて、ラーリナに刈入れが終わった祝いを述べ、ラーリナの求めで歌い踊る。その後夢想的なタチアーナに対しオルガはアリア《私は物憂い悲哀なんかの柄じゃない》でおきゃんな明るい性格が示される。ラーリナは皆に労いの酒を振舞うからと離れに行かせる。ラーリナは恋愛小説を読んで興奮の冷めないタチアーナに小説なんて総て作り事と言っているところに、フィリピエーヴナがオルガの婚約者で詩人レンスキーの来訪を告げる。 レンスキーは友人オネーギンを連れて来る。オネーギンは《どちらがタチアーナか?》と友に訊ねると、レンスキーは《スベトラーナみたいに物憂い、無口なあの人だ》と答える。タチアーナに好感をもったオネーギンはレンスキーの選択を不思議に思う。小説を好み口数の少ないタチアーナはこの四重唱でオネーギンこそ自分の夢の現れであり、待っていた男性だとの想いが示される。レンスキーのアリオーソ「君を愛す。オルガ」により純情な美しい魂が情熱的に示される。夕暮れが近づき、ラーリナは友人たちを夕食に招き、皆は家の中に入る。 フィリピエーヴナはタチアーナを見送りながら《この新しい貴族がタチアーナの気に入ったのではないだろうか?》とあれこれ考える。

第1幕 第2場
タチアーナの部屋。真夜中。タチアーナは《あなたも若いころには恋をしたの?》とフィリピエーヴナに昔のことを話してくれるよう頼む。乳母は《若いころは恋なんてなく親が決めた人の家に無理やり嫁がされたのよ》と物語る。タチアーナは《私は恋してしまったの。一人にしておいて…》と言い、フィリピエーヴナが部屋から出ると、オネーギンヘの深く、強い想いにとらわれたタチアーナは《一筆お手紙を差し上げます》と彼に手紙を書き始め、愛を告白しようと決意する(「手紙の場」)。《あなたをお待ちしています!せめて希望の一言で生き返らせて下さい。 それとも、当然受けるべき叱責でこの辛い夢を打ち破って下さい》と。タチアーナはオネーギンに応えてくれるよう懇願する。夢中になって手紙を書き上げた頃には夜は白み、朝日が上ってくると、遠くに牧童の笛の音が聞こえる。 タチアーナは入ってきたフィリピエーヴナに《オネーギン様への手紙を届けて》と託す。

第1幕 第3場
ラーリナ家の庭。娘たちが苺を摘んで「乙女たちの合唱」を歌う。タチアーナが興奮して駆けこんでくる。オネーギンが来たのだ。《なんであんな手紙を書いてしまったのかしら。きっと笑われる。》《彼は手紙に何と応えてくれるだろうか?》とつぶやく。ところがタチアーナの愛の告白に対するオネーギンの答えは(アリア「もしこの世に家庭の幸せを求めるなら」)丁寧だが、冷たく慇懃無礼に、自分は結婚する気は無く、タチアーナの愛に値せず《あなたを兄として愛します》だった。タチアーナは打ちのめされ打ちひしがれるが、涙をこらえながら彼の言葉を聞く。《自制の心を学びなさい。誰もが私のようにあなたを理解するとは限らない。経験のなさは災難をもたらす!》とオネーギンは説教じみた調子でタチアーナに告げる。再び遠くから女たちの合唱が聞こえてくるがタチアーナは一言も無くうなだれる。

第2幕 第1場
タチアーナの命名を祝う宴。若者たちは踊り、近在の地主たちはゲームをしている。隊長をはじめ客人たちは合唱「なんという輝かしい祝い」で慶びを歌う。オネーギンはタチアーナと踊っている。オネーギンは自分に向けられた客たちのひそひそ話し、陰口、辛らつな批評《無作法な自由思想の持ち主で危険な男》を耳にして、自分をこの舞踏会に無理やり誘ったレンスキーに腹を立てる。《ウラジーミルを懲らしめてやれ。オルガに言い寄って、彼を怒らせてやる》と初めは悪戯心からか、オネーギンはオルガと踊り、彼女をちやほやする。嫉妬するレンスキーにオルガは取り合わない。客人に促されてフランス人家庭教師トリケがクープレでタチアーナの美しさをフランス語で褒めそやすと、皆はトリケを讃える。隊長が宴を促し「マズルカ」が演奏され、皆が遊ぶ間にも、オネーギンは再びオルガと踊る。彼はレンスキーをからかい、傷つき屈辱感にうちひしがれたレンスキーはオネーギンと口論となり、遂に激怒したレンスキーは彼に決闘を挑む。《御随意に》とオネーギンは答える。ラーリナは制するが舞踏会は騒然となる。四重唱、五重唱でこの破局での各人の錯綜した気持ちが描かれる。オルガが卒倒して幕となる。

【本公演はここで休憩がございます。】

第2幕 第2場
早朝。レンスキーと決闘介添人ザレツキーがオネーギンを待っている。レンスキーは物思いに沈み、古今のオペラの中でも最も美しい叙情的なアリアの一つ「わが青春の日は遠く過ぎ去り」で《明日は何を私にもたらすのか》と歌う。考えるはただオルガのことばかり《君を待っている。願わしい友よ,来たれ、来たれ、私は君の夫なのだ!》と。オネーギンが彼の介添人であるギヨーと登場し「決闘の場」となる。つい最近まで親友だった二人に、束の間のためらいがよぎり、内省と回顧の同じ言葉をつぶやく。《手が血に染まらぬうちに、笑って、仲良く別れられないものか》《だめだ!》。二人は心に決める。ピストルが渡され、作法に則りザレツキーが3度ゆっくり手を叩く。ピストルが発射される。レンスキーが倒れる。《死んだ》とザレツキーの一言。激しく慟哭するオネーギン。続けて「ポロネーズ」の音楽。

第3幕 第1場
オネーギンは親友を殺してから、数年の間あてどない放浪の旅にも飽きて戻ってきたのだ。社交界の騒がしい生活も彼の《絶え間ない、耐えがたい憂愁》を晴らすことはできない。彼は無関心に舞踏「エコセーズ」を眺めている。そこに美しい女性が会場に入って来る。それがかつて自分が田舎で冷たくあしらったタチアーナであることを知ったオネーギンの心は波立つ。オネーギンはグレーミン公爵に彼女のことを問う。公爵はアリア「誰でも一度は恋をして」で《恋は若い日だけに花咲くものではない。タチアーナを得て幸せになった》と彼女が公爵の妻であることを聞かされる。公爵はオネーギンをタチアーナに紹介する。 オネーギンとの出会いはタチアーナの心を乱し、昔の思い出が蘇る。 彼女は理由をつけて会場を出ていく。タチアーナを愛していることを悟ったオネーギンはアリア「あれが本当にタチアーナなのか」と狼狽する。

第3幕 第2場
グレーミン公爵邸の応接間。タチアーナは深い物思いにふけっている。タチアーナの心に再びオネーギンヘの想いが燃え上ったのだ。現れたオネーギンに、タチアーナはひどく動揺して訊ねる《あの時冷たいお説教を黙ってきいておりました。どうして今になって私を苦しめるのですか?なぜ私を追いかけるのです? 私が上流社交界にいるからではなくて?》と諌める。 オネーギンは自分の愛が本物であることを訴え、情熱的に求愛する。タチアーナは泣き《幸せはあんなに身近にあったのに》と娘時代の追憶に負けそうになる。タチアーナは愛し続けていたのだ。タチアーナは《愛しています》と告白。遂に二人の恋の炎が燃え上がるばかりとなる。しかし、タチアーナは《過去は還らない》と我に帰る。 オネーギンの熱い哀願もむなしく、タチアーナは決然と《永遠の別れ》を告げる。 彼女の決意に狼狽し、打ちのめされたオネーギンは絶望し《恥辱、疎外、なんと惨めな運命だ!》と叫ぶ。     (N.Y.)