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オペラを楽しむ

二期会70周年特別企画〈第1回〉ジャーナリスト 江川紹子さん×テノール 福井敬 スペシャル対談 時代を超えて愛される「オペラ」の魅力を語り尽くす

福井敬の大ファンという江川紹子さんが、二期会公演の思い出や印象的だったエピソードを語ってくれました。ファン目線で語る“福井オペラ”を楽しむポイントにも注目です。

撮影:宮川 久 構成・文:渡邉翔子

芸術や「感動すること」が、いかに大切かを思い知った2年間でした

江川 私がオペラを観るようになったのは、福井さんの『トゥーランドット』がきっかけです。それまで勝手なイメージで、敷居の高いものだと思っていて。

福井 あの時は、コンテンポラリーダンサーの勅使川原(三郎)さんの演出で、「オペラは、動的でドラマチックで、面白いんだ」と思っていただけたと思います。

江川 だから、オペラ初心者としては、とっても良い出会いだったんですよね。

福井 江川さんは、私の声の印象を「金粉が天井から降ってくるようだ」と、おっしゃってくださったことがあって。着眼点がすごくて、印象的でしたよ。

江川 的外れなことも多いと思いますが、福井さんには何でも言えちゃうの。

福井 時には厳しいこともね(笑)。

江川 あはは、余計なことをね(笑)。『パルジファル』もまた聴きたいなと思っていたら、7月に出演予定と知って、本当に喜んでいるんです。

福井 ワーグナーは、やっぱりオペラとして特別ですよね。『パルジファル』の役は、実はいまだにつかみきれていなくて。でも分からないからこそ、面白い。

江川 確かに、すごく深くて、難しいけれど、聴き始めたらハマるというか。

福井 普通なかなか起こり得ないシチュエーションを、いかに壮大に見せるかがオペラの醍醐味ですから。初心者の方なら、プッチーニなんかは4コマ漫画のように起承転結がはっきりしていて、“オペラの教科書”という感じで楽しんでもらえるはずです。私も、二期会創立40周年に『ラ・ボエーム』でデビューしたんですよ。

江川 そうだったんですね。オペラって、現実ではあり得ない話だけど、その神髄は、現実の私たちの人生にも出てくるというか。エッセンスが響きあうところがあるんですよね。総合芸術であり、足し算ではなく、掛け算になる面白さ。

福井 文化・芸術が「不要不急」と言われる時代ですが、おそらく逆。今、一番求めていいものだと思うんですよね。

江川 戦時中でもコロナ禍でも、人が人として生きている証は「感動すること」だと思うんです。私は、芸術がいかに大切かを思い知った、この2年間だったという感じがします。東京二期会では、今年は『エドガール』にも出演するんですね。

福井 『エドガール』は、プッチーニ初期の作品で、若さ溢れる音楽とドラマが繰り広げられます。指揮には、プッチーニを振らせたら、もう彼の右に出る者がいないくらい素晴らしいバッティストーニが来日します。

2012年東京二期会オペラ劇場『パルジファル』題名役を演じる福井。ⓒ三枝近志

今後は、一筋縄ではいかない役も探してやっていきたいです

江川 ちなみに、福井さんの“追っかけ”としては(笑)、『ピーター・グライムズ』や『道化師』や『スティッフェーリオ』も、東京二期会でやっていただきたいです。

福井 もう、王子様とか好青年の役は演じにくいんです(笑)。ありがたいことに60以上の役を演じてきたので、今後はワーグナーのような、一筋縄ではいかない役も探してやっていきたいですね。

江川 紹子(Shoko Egawa)

1958年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。神奈川新聞社勤務を経てフリーに。1995年、菊池寛賞を受賞。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』(新風舎)、『人を助ける仕事』(小学館)、『勇気ってなんだろう』(岩波書店)ほか。

福井 敬(Kei Fukui)

日本のトップテノールとして数々のオペラに主演。コンサートでも、メータ指揮ウィーン・フィル「第九」ソロでの絶賛をはじめ、N響等主要楽団とも多数共演。芸術選奨文部大臣賞新人賞及び文部科学大臣賞、出光音楽賞、エクソンモービル音楽賞本賞等受賞。英雄的かつノーブルな存在感と優れた演唱で、聴衆を魅了し続ける。二期会会員