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オペラを楽しむ

『影のない女』を手がける世界的巨匠

ペーター・コンヴィチュニーさんを語る

今回の来日中に喜寿を迎える演出家ペーター・コンヴィチュニーさんは、数々の斬新な演出でオペラ界に衝撃を与えてきた鬼才として知られ、東京二期会ではこれまで5作品を手がけてきました。『影のない女』出演歌手3名が、彼の素顔と舞台への意気込みを語ります。

©Werner Kmetitsch

演出 Stage Director

ペーター・コンヴィチュニー

Peter Konwitschny

現代オペラに革命をもたらした
演出家ペーター・コンヴィチュニー

 コンヴィチュニーさんの父親は、来日経験もある著名な指揮者フランツ・コンヴィチュニー氏。1945年フランクフルトに生まれ、父親の仕事で旧東ドイツに移住した彼は、旧東ベルリンにて演出を学び、20世紀を代表する劇作家で演出家のベルトルト・ブレヒトとオペラ演出家ワルター・フェルゼンシュタインから多大なる影響を受けます。
 1980年からオペラ演出を手がけ、その多くの舞台でオペラ界の話題を席巻してきました。オペラを現代にも通用するドラマとして生まれ変わらせた彼の舞台は、観客に大きな衝撃と新たな感動を呼び、オペラ雑誌『オーパンヴェルト』で何度も年間最優秀オペラ演出家に選出されています。今や彼の演出手法は、現代の演出様式のひとつに数えられているのです。
 東京二期会では、これまで『皇帝ティトの慈悲』『エフゲニー・オネーギン』『サロメ』『マクベス』『魔弾の射手』の演出を手がけてきました。ちなみに父親のフランツさんも、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団との初来日公演の第九では、ソリスト全員が二期会会員だったというご縁のある方でもあります。

皇后役を演じる

冨平 安希子

Akiko Tomihira

ソプラノ Soprano

2018年『魔弾の射手』(右が冨平)©三枝近志

表情豊かな声質と華やかな舞台姿、卓越した演技力で数多くのオペラに出演。本年8月に演じた『ルル』題名役は、新たなルル像を示した。これまでコンヴィチュニー演出では、『魔弾の射手』エンヒェンを演じる。二期会会員

「『魔弾の射手』でコンヴィチュニーさんとご一緒できたことはとても光栄なことでした。とにかく膨大な知識をお持ちで大変頭の良い方なので、『この方の頭の中はどうなっているのだろう』と思いながら稽古に取り組みました。稽古中は、冷静でありながらも情熱的なご指導と厳しい目がとても印象的でしたが、普段の彼はとてもチャーミングでにこやかなお優しい方でした。再びご一緒できるのは大変ありがたく、背筋が伸びる思いです。コンヴィチュニーさんのことですから、(『影のない女』も)台本通りのファンタジーでは終わらせないでしょうし、何らかの問いを観る方に投げかける演出にされるのではないでしょうか。今回はワールドプレミエということで、一から作り上げるという非常に貴重な機会でもあり、産みの苦しみを味わう覚悟はできています。コンヴィチュニーさんとの共同作業を通じて、お客様に強い印象を残せるような皇后を作り上げたいと思っています。日本での上演機会が大変少ない作品ですので、ぜひ劇場へ足をお運びくださいましたら嬉しく思います」

バラクの妻役を演じる

板波 利加

Rika Itanami

ソプラノ Soprano

2013年『マクベス』©三枝近志

『サロメ』ヘロディアス、『マクベス』マクベス夫人と出演を重ね、コンヴィチュニー演出にはなくてはならないソプラノ。近年東京二期会では他に、『エロディアード』『サムソンとデリラ』各題名役を演じる。二期会会員

「コンヴィチュニーさんの舞台では、合唱からソリストまで全ての登場人物にしっかりとした性格づけがされていて、とてもリアルに演じられます。『サロメ』のヘロディアス役でも、歌っていない時にこそ彼女と彼女を取り巻く人間関係を表現することが求められました。20年近くイタリアでオーソドックスな演出のもとで歌っていた私には衝撃的なことでしたし、『こんなにも舞台上で人間として人間(役)を表現していいんだ』と嬉しくもなりました。コンヴィチュニーさんからは『君はテロリストみたいだ。全てを破壊して進んで行く』とボソッと言われた事があって、その時は複雑な気持ちでした(笑)。『影のない女』で演じるバラクの妻は、不幸な生い立ちから『愛したい』『愛されたい』気持ちを上手く表現出来ず、常に不安の中にいる感じです。世界中の人々が人間同士が寄り添ってコミュニケーションできないという非常事態を経験した今、コンヴィチュニーさんの演出に色濃く見られる『人間愛への渇望』はどう表現され、どのように今後の世界を示してくれるか、舞台と現実が入り混じる世界で演じるのが楽しみです」

バラク役を演じる

大沼 徹

Toru Onuma

バリトン Baritone

2011年『サロメ』©三枝近志

バリトンの主要な役を数多く演じ、近年東京二期会では『フィデリオ』ドン・ピツァロ、『タンホイザー』ヴォルフラム等で出演。コンヴィチュニー演出では『サロメ』ヨカナーン、『魔弾の射手』オットカール侯爵を務めている。二期会会員

「『サロメ』のヨカナーン役では、床を這いつくばったり紙袋をかぶったりして歌いましたが、今回はできればごめんこうむりたいですね(苦笑)。数年後に『魔弾の射手』で再びご一緒した際に、『お久しぶりです』と挨拶したら『君、誰だっけ?』と言われたこと、『サロメ』の舞台稽古の空き時間に大島渚監督『愛のコリーダ』の無修正版DVD を一緒に観たことも良い思い出です(笑)。『影のない女』の魅力は、R.シュトラウスが持てる作曲技法を惜しみなく注ぎ込んでやりたい放題に書いているところでしょうか。バラク役の女房殿に足蹴にされ拒まれつつも彼女の善の心をひたすらに信じて待つ姿勢は、私のプライベートでの姿とダブるものがあります(ため息)。『影のない女』をご存知の方が今回の舞台をご覧になれば、『?』や『(怒!)』と感じるかもしれませんが、コンヴィチュニーさんはカーテンコールでブーイングをもらうとむしろ喜ぶ方のようですので、ぜひ心の中で『ブー!』と叫んでいただきたいと思います。もちろん作品が気に入って下されば、それに勝る喜びはありません」

構成:田中庸子

R.シュトラウス 『影のない女』

オペラ全3幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
指揮:アレホ・ペレス 演出:ペーター・コンヴィチュニー 合唱:二期会合唱団
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団 東京文化会館 大ホール

2022年 2月

9日(水)18:00
11日(金・祝)14:00
12日(土)14:00
13日(日)13:00