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本音が飛び出す福島県出身2人の対談  『影のない女』出演歌手の素顔

撮影:佐藤 久/取材・文:松野玲子
撮影協力:ACホテル・バイ・マリオット東京銀座

2月公演『影のない女』は、東京二期会とボン歌劇場が共同制作し、ワールドプレミエとなる公演。記念すべき舞台で共演するおふたりは10年来の友人。軽妙なやりとりに笑いの絶えない対談となりました。

―コロナ禍で公演の中止はもちろん練習もままならなかったと思います。おふたりはどのように過ごされていましたか?

田崎尚美(以下、田崎) 私は運よく大きな影響を受けなかったのですが、菅野さんはどうでしたか?

菅野敦(以下、菅野) 2020年は6月に『フィデリオ』の稽古がスタートしましたが、それまでは稽古が始まっても、公演直前にキャンセルということが繰り返しあって、今回もまた稽古が無駄になるのでは...とモチベーションを保つのが大変だったかな。

田崎 直前にキャンセルになったりしていたよね。

菅野 今はマスクをしながらだけど稽古も再開しています。公演でも出番直前にマスクをはずし、舞台から戻ってきてすぐ着けるということをしています。

田崎 マスクしたまま舞台に出ちゃったって話も何度か聞いたよね。

菅野 でも、本当に仕事が再開してよかった。歌手ができなくなったら、好きなコンピュータの専門学校にでも行って転職しようかとも思いましたよ(笑)。田崎さんは何していた?

田崎 私はホームセンター通い。

菅野 どういうこと?

田崎 いらないものを捨てまくった挙句、捨て過ぎて、ホームセンターに買い足しに行ってた(笑)。菅野さんはミニマリストだもんね。

菅野 僕はミニマリストの動画に出会ってしまって、今では洋服はクローゼットの半分だし、本棚もクローゼットに収まった!部屋にあるのはベッド、ピアノ、冷蔵庫くらいです。

―ステイホーム期間中は、歌手やオーケストラの団員の方によるオンラインでの演奏会も行われていましたね。

田崎 私は参加する機会はありませんでしたが、皆様のエネルギーを感じましたね。

菅野 そうですね。普段、オペラに興味のない方に聴いてもらえるといういい面もあるのですが、僕はやっぱり生で聴いてもらいたいなと思ってしまいます。

田崎 劇場で聴いて、皮膚から歌声が入ってくる感覚を味わってほしい!

菅野 憧れの歌手のCD聴いていて、ようやく生で聴く機会を得たとき、その違いを肌で感じますよね。

田崎 それに私たち歌手はこうやってふだん喋っているときの声と、歌っているときの声が違って、歌っているときの声って普通のマイクでは拾えない周波数なんですって。

菅野 そうですね。周波数の幅が違うので、普通のマイクだと実際の声が切られちゃう。

―おふたりは合唱が盛んな福島県の出身ですが、歌手を目指すのはごく自然でしたか?

菅野 僕は小、中、高と合唱部に入っていて、子どもの頃から歌手になりたかったな。当時、歌番組に錦織健さんが出るようになって、Jポップとかを歌う姿がカッコよかったんです。

田崎 私も小、中と合唱をやりました。中学がたまたま合唱の強い学校で、在学中3回、全国大会で金賞をもらいましたよ。その際、アカペラの混成八部とは別の、ソロパートを任される機会に恵まれたんです。で、「ひとりっていい!」と思ってしまって、高校は合唱部に入らなかったんです。

菅野 それが歌手を目指すきっかけ?

田崎 いや、妹の影響かな? 妹は小学生の頃から歌手になりたいと言っていて、それで「私も歌手になりたいかも」となった(笑)。で、私のほうが年上だから高校も大学も先に進んじゃって、歌手にも先になっちゃってちょっと悪い気がしている。でも、ふたりとも東京二期会で歌手をできているので、よかったかな。

―さて、共演されるリヒャルト・シュトラウス作曲の『影のない女』は新演出で世界に先駆けて公演されるそうですね。

菅野 見たことのある人が少ない演目だし、オール日本人キャストも初めてです。

田崎 私が演じるのは染物屋を営むバラクの妻なのですが、菅野さんは皇帝という天上の人。この2つの世界がどのように結びつくのか? 演出のペーター・コンヴィチュニーさんによる新解釈で、新しい『影のない女』になると聞いていてワクワクしています。

菅野 変わったストーリーですから、鬼才と言われるコンヴィチュニーさんの演出がより活きるんじゃないかな。あとシュトラウスは歌いこなすのが難しい作曲家なのに、体に入ってくるとあの美しさの虜になるのがいい!

田崎 1回、体に入ってからがいいよね。ワーグナーもそうだけど、シュトラウスは歌手がオーケストラの一部になれる気がする。

菅野 その通り。楽譜を読んで音楽を作っていくことが僕たちの役作りの方法ですよね。

田崎 稽古までに自分のものにして、自分のやりたいことを見せられるようにしておきたいと思います。

R.シュトラウス『影のない女』

オペラ全3幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
指揮:アレホ・ペレス
演出:ペーター・コンヴィチュニー
合唱:二期会合唱団
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
東京文化会館 大ホール

2022年2月 9日(水)18:00
11日(金・祝)14:00
12日(土)14:00
13日(日)13:00

皇帝役を演じる
菅野 敦(かんの あつし) テノール

2022年2月11日(金・祝)、13日(日)出演
福島県郡山市出身。国立音楽大学卒業、同大学院修了。二期会オペラ研修所及び新国立劇場オペラ研修所修了。東京二期会でのシュトラウス作品に欠かせないテノールとして『ダナエの愛』ミダス、『ナクソス島のアリアドネ』テノール歌手/バッカス等を演じる。また、ワーグナー作品では主役のカヴァーキャストを多数務め、今後はヘルデンテナーとしても期待される。二期会会員

バラクの妻役を演じる
田崎 尚美(たさき なおみ) ソプラノ

2022年2月11日(金・祝)、13日(日)出演
福島県会津若松市出身。東京藝術大学卒業、同大学院修了。『パルジファル』クンドリで二期会デビュー、表現力と美しさを携えた声で存在感を示し、近年は『サロメ』題名役、『タンホイザー』エリーザベトの他、日生劇場『ルサルカ』、グランドオペラ共同制作『トゥーランドット』各題名役も好評を得る。「第九」、マーラーの交響曲等でソリストとしても活躍。二期会会員